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俺のサプリメント

作者: 山桜 笛

アイドルと学生の短いお話です。

俺には生きる理由がある。それは、地下アイドルのミルミちゃんだ。ミルミちゃんは、俺と3つしか違わないのに全く違う世界に住んでいて、毎日頑張っている。ミルミちゃんの素晴らしいところは、とにか可愛い。それだけではない。毎日SNSに天使のような自撮りをあげてくれる。俺はそれを一枚残らず保存している。ミルミちゃんが頑張っているから、俺もバイトを頑張れる。

 自分の部屋で、ミルミちゃんは地下アイドルだけど、結構な人気があってライブはもちろん、握手会とかチェキ会を月に3・4回やってくれる。俺はミルミちゃんの存在を知ってから毎回欠かさず、それらのイベントに行っている。最初の頃はなかなか顔を覚えて貰うことは難しかったけど、今では名前も、顔も覚えてくれた。ミルミちゃんは笑顔で俺の名前を言ってくれる。そのために毎回会いに行く。でも最近、現実問題として学生の俺には金の面でミルミちゃんに会いに行くのが厳しくなってきている。

 ミルミちゃんのグッズに囲まれながら、財布の中を見てみた。中身は1000円あるかないかで、小学生と変わらない金額しかなかった。

 俺は決意した。今度の握手会でミルミちゃんに会いに行くのは、もうやめよう。この前、親がこのアパートにいきなりやってきてミルミちゃんのグッズを見つけ「こんなものは捨てろ。あっても意味が無い。仕送りをしてやっている親の身にもなれ」ときつく言われた。そのときは頭にきて、親に反抗して「そんなの勝手だろ。うるさい」と部屋から追い出してしまったが、今考えてみれば親の気持ちも分からなくはない。

 最後の握手会の日、俺は押し入れの奥にしまってあった。3000円を財布の中に入れて会場に向かった。今日でお別れ、今日でもう会えない。しっかりとあの、笑顔を声をピチピチの肌を目に耳に焼き付けなければ。

 会場について列に並んでいると周りの人たちが「この前のライブで俺にウインクしてくれたんだよ」「昨日のSNSに出してたやつ、やばかったわー」と口々にミルミちゃんを語っている声が耳に入る。俺はイベントにたびにこの時間が嫌になる。ミルミちゃんのことを一番知っているのは自分でいたい。自分の知らないミルミちゃんの話なんか聞きたくない。俺はイヤホンで聞いている音楽の音量を上げた。ミルミちゃんの天使の声が頭に響いて嫌な気持ちもどこかにいく。

 自分の順番がきた。

「あー!タカシさんこんにちは!今日も来てくれたんですね!!嬉しいなー」

「そうですよー。今日もちゃんと来ましたよー。あ、これいつものです。」

「ありがとうございますー!!差し入れいつもちょーうれしいですよ!私、タカシさんのこと大好きです!」

「そんなー。あ、でも今日で俺、最後なんです。もう会えないんです。ごめんなさい」

「え?なんでですかー?ミルミの事嫌いになっちゃったんですかー?」

「いや、そういうわけじゃなくて・・・」

俺がもたもたしていると、スタッフが俺とミルミちゃんの間に割り込んできて「あのー他にも待っているお客さんいるんで、もういいですか?」と口を挟んできた。

「あ、時間になっちゃった・・・。最後ってよく分からないんですけど、これからもミルミのこと見守っててくださいね。バイバーイ」

ミルミちゃんがすごい早さで俺を送り出すものだから、よく分からなくなってしまって俺は何も言えず手を振っただけっだった。

 最後の握手会はあれで良かったのだろうか。なんだか、あっけなく終わってしまった。気持ちが整理できない俺は会場を出て、近くのカフェに入った。

 色々考えてみて少し落ち着いてきたから、もうここに居てもしょうがないと思い、俺は駅に向かって歩き始めた。思っていたよりも長い間カフェにいたらしく、外はもう日が落ちかかっていた。会場の前を通って帰ろうとしたとき、会場の裏口から見たことがあるバッグを持った女性が出てきた。そのバックはミルミちゃんがこの前、SNSにあげていたものと同じだった。よく見たら靴も今日、ミルミちゃんが履いていたのと同じだった。あれは絶対ミルミちゃんだ!と気持ちが高ぶったは一瞬のことだった。近くのコンビニに入ったミルミちゃんの横顔は「ミルミちゃん」ではなかった。疲れ切ったただの女性だった。とてもあの天使とは思えない光のない目をしていた。俺はその場に立ち尽くして動けなくなってしまった。

 それから、どうやって家に帰ったかは覚えていない。次の日起きて俺はミルミちゃんのSNSを見てみた。するとそこには

「みんなーおはよーー!ミルミは今日も元気だよーー!皆、今日も一日頑張ろー!」

といつも通り朝の挨拶が書いてあった。でも、いつもはそれだけの朝の挨拶が今日は違っていた。

「いつもさー思うんだけど、差し入れでね。サプリとか健康食品くれる人がいるんだけど、あれマジで助かるーーありがとねー大好きだよ!まだ、ミルミにサプリ上げたことがない人は見習って欲しいなーー」

と続いていた。


俺は泣いた。


最後の握手会の日。いつものドラックストアに行った。もう、行くことがないであろう美容サプリコーナーをみて回った。握手会とかでミルミちゃんに会える時間も幸せだけれど、俺はこの時間も好きだった。だたの自己満足だけれど。


俺は涙をぬぐってフォローリストからミルミちゃんを消した。




私自身、アイドルに元気を貰うことがたくさんあります。共感とか何か感じて頂けたら幸いです。感想待ってます。

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