1PEACE
薄れ行く意識の中、記憶が一つ一つ消えていくような気がする。
俺……酔ってんのかな?
どうしてこんなに意識が薄いんだろう、睡魔が押し寄せてくる。
アレ…俺の名前も思い出せないや。
えっと、土田…違う。
葉山…違う。
あぁそうだ、思い出した。
俺の名前は高橋 涼だ。
あぁ、少しずつだけど、思い出してきた。
そうか、そうだった、俺は――――――――
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■コ コ ロ ノ カ ケ ラ■
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和気藹々と過ごす人生…そういうのも悪くはない。
けれどもそれももうすぐ終わる。
現在の職業、学生。
高校3年生で、あと2、3ヶ月で卒業して就職する予定。
就職場所は、某大手企業の工場で、今面接を受けてきた所。
自信はある。
全ての質問に完璧に答えられた。
でも、あんまり覚えてない…
そんで今はその帰り道、自転車に乗ってオーディオで曲を聴きながら爽やかに走っている所。
音楽に集中して歌詞を口ずさんでいると、信号が赤になった。
自転車が奇声を上げる。
「…!!危ない危ない…」
もうすぐで事故る所だった。
ココの信号は長い。
俺が知っている中で一番長く、赤でいる時間が長い。
だからいつもココでストレスが溜まる。
やっとのことで青になった。
勢いよくペダルをこいで歩道を渡ろうとしたその瞬間、何かに引っ張られた。
内心ビクッとした。
誰だよと思いつつ後ろを振り向くと、かわいらしい女の子が俺の制服を掴んでいた。
見た目は小学3、4年生といった所。
髪は肩まで伸びており、シャワーでも浴びたのか髪は濡れている様で、シャンプーのいい臭いがする。
そして手元には、茶色いクマのぬいぐるみ。
そんな女の子が俺の方を上目遣いで見ていた。
…こりゃどうにかせんといかんな…
「どうしたの?迷子?」
俺が聞くと女の子は顔を横に振った。
「…違う…」
表情を一切変えず言われた。
「…じゃあ何?どうしたの?」
「…遊ぼう…」
恥ずかしがり家なのかな?
今の現状を見ると、この子の言うとおりにしないと返してくれないようだ。
それに再び信号は赤に変わろうとしている。
心を決めると言った。
「ちょっとだけだよ?」
その時、初めて女の子が笑顔を見せた。
頬を赤らめ、白い歯がきらきらと輝いている。
自転車から降りた俺は、自転車を押しながら、無邪気に走る女の子の後姿を追った。
今思えば何故なんだろう…
何故この子のことを信用したのだろう…
家に早々と帰ればよかったのに…
なんで俺はこの子と遊んだのだろう…
何故知り合ってしまったのだろう…か。