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僕達は空にしか故郷を見れない  作者: エノシタジョウ
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Chapter 3 ー6.15.1103ー レオナルト


「あ、あの…大丈夫なのでしょうか?」機銃の土台をボルトで固定し直している先輩にブライアンが話しかけているのが聞こえてくる。

「ん?なにが?」

「自分達の任務は騎士団支部の警備です。その…任務中に持ち場を離れるのは問題なのではないかと…」ブライアンが再び意見しいているのを、止めておけばいいのに、なんて思いながら聞き流す。

そもそもこいつは人に何か反論するのが苦手なのだ。すぐもっともらしい言葉で誤魔化され、何も言い返せずに煮え切らない気持ちを自分で押し留める事になる。真面目なだけに言われた事を適当にこなすという事が出来ない。それが良い事かどうかは俺が判断する事ではないが、そんな性格がブライアン自身に益してるとは到底思えなかった。

「どうせ誰も攻めてこないさ。それに、攻めてくるとしても、城壁の守りを固めておいて損はないだろ?」

「は、はぁ…」案の定、子供騙しのように論点をずらされて何も言い返せずにいる。

「それに式典が終わって皆が戻ってくる前に支部に戻れば、君達は記録の上ではずっと持ち場にいたことになる。問題なんてどこにあるんだい?」

問題大有りだと思うが、別にだからと言って訓練騎士である俺達が彼等の半ば命令のような頼みを断れるはずもない。城壁の上で整備に参加している今の段階になって大丈夫かどうかを先輩本人に聞いてみたところで、有益な答えなど返ってくる筈もないのに、真面目で小心者のブライアンは不安に耐えられなかったのだろう。

そんな性格だった為に、俺はブライアンが騎士団に入ると言い出した時はきっぱりと反対した。お前は止めておけと何度も説得を試みた。だが、いつもなら弱腰になる彼がその時だけは一歩も引かなかった。

今でも俺は彼がそこまでして騎士団に入りたい理由を知らない。きっと俺が孤児院にいながら両親の居場所を知っていて、彼は自分の両親が何処にいるかも知らないから、俺には見えなくて彼には見える理由があるのだろう。

そしてそれはきっと、俺が聞いたところで理解の出来るものではないのだろう。


荷台で揺られながら感謝祭の装飾で彩られた街を流し見る。六月第三土曜日がリリニア立憲王国の感謝祭式典日という事もあり、その週は感謝祭で国中がお祭りムードに包まれる。一年で一番平和な一週間だ。

隣ではブライアンが銃口の掃除をしている。騎士団に入りたての頃に支給されてから、自分の身を守る為にと常に持ち歩いている拳銃だ。未だに訓練場以外で活躍した事は無いが、それでも自分が騎士団の一員である事を思い出させてくれるという意味では十分に役目を果たしているのかもしれない。

リリニア王立騎士団。リリニア立憲王国の陸海空軍の総称であり、リリニア国民全員からの、帝国ヴェルギニアから領土を奪還してくれるという期待を一身に背負っている。が、俺からしてみればそんな事はどうでもいい。高額の給与が得られれば騎士以外の職業を目指しても良かった。騎士団には同じようなカネ目当ての青年がごまんといる。大体が孤児であったり貧民街の出身だ。この国の希望の星は、この国の闇が担っている。

「なぁ…本当に大丈夫なのかな?」いつの間にかブライアンは手を止めて、今来た道の方を不安そうに見ている。本来なら俺達二人は騎士団支部の建物内で待機していなければならなかった。

「先輩方が大丈夫って言うんだから、大丈夫だろ」出来るだけどうでも良さそうな言い方をする。

「先輩が言っていた通りさ。みんなが帰ってくる前に戻っていれば、記録上は何の問題もないだろう?」そう言って半ば強引に俺らを外壁上の機銃整備に連れ出した先輩騎士の顔を思い浮かべながら、騎士団もまた平和な毎日を当たり前だと思っているのだと自嘲する。

「でもよ、隊長に見つかったら…」

「そしたら、先輩に説明してもらえばいい…」果たして彼らが真実を伝えてくれるのかは甚だ疑問ではあったが、ブライアンの不安を紛らわせるために適当な返答をする。

気の無い返事をする俺の事を恨めしそうに見るブライアンの視線を感じながら、俺もさっきまで作業をしていた外壁に目をやる。10メートルもの高さに及ぶ壁は、近くにいる時こそ外からの一切の攻撃を防げるとでも言わんばかりにそびえ立っていたが、離れて見れば何ということはない、簡単に飛び越えられそうに見えた。

「なあ、あれはなんだろう」ブライアンの言葉に視線を少し上の方にずらすと、壁の向こう側だろうか、黒い点が三つほど見える。点はみるみる大きくなりその形がはっきりとしてくる。

「ただの鳥、だよな?」願望が多分に含まれた呟きを掻き消して街中にサイレンが鳴り響いた。

「なんだ、なんなんだよ」俺の日常は地面に落ちて音を立てて割れた。


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