私は、受付兼案内係兼苦情処理係でございます。
これはとある無能新人作者の脳内でのお話です。
ほぼ、一人で話しております。
「あの~。どうも呼ばれた気がするんじゃが」
いらっしゃったのは、ずいぶんとお年を召した男性です。小柄なお身体でボロ、いえ、使い込まれた布を身にまとっておられます。
「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」
私がお聞きしましたら、
「わしかね? 貧乏神と言うんだが」
と、おっしゃいましたので、社長に連絡をとります。
「社長、貧乏神様がお見えになっておられますが」
『呼んでないから。速攻でお帰りいただいて』
「申し訳ございません。お呼びしていないとの事ですが」
私がお伝えいたしますと、貧乏神様は、
「そうかね? どうも呼ばれた気がしたんじゃがのう」
と、言われながらもお帰りになられました。このところ、このようなお客様が良くお見えになられます。
私ですか? 私は、ここ〈お話のネタ管理会社〉の受付兼案内係兼苦情処理係をいたしております。
当初秘書として生まれたはずなのですが、社員は私だけでございますので大変忙しく働かせていただいております。
ええ、それはもう忙しく。
ですが、今社長はなにやら集中なさっておられるようですので、こちらの設立の経緯と私の雇用の経緯をご説明いたしましょう。
そもそもは社長が、執筆というものをされるようになってからです。
社長の脳内に様々な人や動物、異星人や先ほどのようなそれに当てはまらない方々までがお見えになられて、社長の脳内を歩き始めたそうです。
社長はびっくりなされて、慌ててメモというものをとられたそうですが、書かれた事で満足されたのでしょうか。その方々は社長の脳内から、おられなくなったそうでございます。
社長は、お悩みになられました。
脳内を歩き回られては生活が出来ない。しかし、執筆のネタは欲しい。脳内に管理する場所が、あればいいのではないか。
その瞬間に生まれましたのが、この〈お話のネタ管理会社〉でございます。
は? ネーミングがいい加減ですか。
社長のネーミングセンスにつきましてはお答えできかねます。
能力のおありになる、社長以外の執筆をなさる方々は、メモにとっても大丈夫とお聞きしておりますので、弊社の社長は余程あ……失礼いたしました。創作力が、少ないのかと存じます。
さて、会社は設立したものの、社長ご自身にはそこに費やす時間がございません。できれば、綺麗な優しい使える秘書のお姉さんでもいればいいな。そう思われた瞬間に、私が生まれました。
つまり社長は私の親ともいえる方でございます。残念……いえ、有り難い事でございます。
はい。名前でございますか。こちらにお見えになられる方ほとんど同じなのですが、名前はございません。
そうですね、ねえ、とかちょっと、等と呼びかけられております。
不満ですか。そりゃあもう、いえ、ちょっと本音が……。コホン。ございませんとも。
え、涙目になっている? そんな事はございません。
充実した毎日を送っておりますとも。私自身執筆されるかメモにとられれば、そこで終わりなのですから。要らないの一言で、跡形もなく消える私でございます。
は? 社長、今何を?
『便利だから消さない』
そうでございますか。私、消してはいただけないのですか。いえいえ、残念そうだなんて、ほんの少しも思っていませんとも。いえ、これは涙ではございません。大丈夫でございます。
大変お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません。
業務内容でございますか。そうですね、まず、社長の脳内で生まれた方々は、はじめにこちらの受付にいらっしゃいます。ここで、私がお名前とご希望等をお聞きして、社長に確認をとらせていただきます。
様々な方がお出でになられますので、私には翻訳の能力がございます。中には、日本語しか理解の出来ない社長の為に、通訳しなければならない方も大勢いらっしゃいます。
例えばですか。そうですね、日本人ではない方、動物の皆様、そもそも地球上には存在しない方。後は、そのいずれにも当てはまらない方々でしょうか。妖怪とか幽霊と呼ばれる方々ですね。口のない方も多くいらっしゃいますので。
受付を済まされた方々を、それぞれのお部屋にご案内させていただくのも私の仕事でございます。
色々な部屋がございますが、お時間も無くなりそうですのでまた次回にご案内申し上げます。
社長の集中が緩むと、大概お客様がお見えになられますので。
それでは。どうぞまたいらして下さいませ。