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具象化の性質

僕が起こしたその具象化は僕らがこの世界に抗う最初の希望となった。


「いや、それにしても驚いたよ。まさか本当に想像したものが創り出せるなんて…」


おそらく壮太の予想の1つに僕が起こした具象化も含まれていたのだろう。

だがあまりにも非科学的根拠のない予想は人間の結論を鈍らせる。

確信にもっていくことが困難だからだ。

だからこそ壮太たちはこの答えを僕たちに求めたのかもしれない。

いづれにせよエリートが導き出した予測と凡人が創り出した可能性はそこに奇跡を生んだのである。


「俺たちにもできるのかな?」


「問題ないと思う。」


気付いてしまえば構造は簡単なものだった。

時計には数字の右側に青いボタンと赤いボタンが付いている。

想像したものを具象化させるには青いボタン。

具象化したものを消滅させるには赤いボタンを使えばいい。


その後、僕の行った具象化を全員が試してみた。


すると、新しくわかった点がいくつかあった。

まず、具象化できるものはその人個人の能力に比例するということ。そしてもう一つは具象化するスピードも人によって異なるということである。


「遥希、君の具象化は早過ぎやしないかい?」


「そうか?」


確かにみんなの具象化を見ていると自分のようにすんなり具象化はできていないようだった。


考えられるとすれば具象化する対象をどれだけ鮮明に、そして明確に想像できるかが関係していると壮太は言っていた。

まさか僕の使えない取り柄がこんなところで役に立つとは思ってもいなかった。




具象化がある程度馴染んできたところで壮太は全校生徒を集めた。



「みんな聞いてほしい!!僕たちが元の世界に戻る為にはモンスターを倒して階段を下りて行くしかない。モンスターを確実に倒すために僕らはここに拠点を築く必要がある。建物を具象化できるものはこの場に残ってくれ。残りの者は各自、戦闘への準備を進めてほしい。拠点が完成したら再び呼び掛ける。以上、解散。」


具象化といってもなんでも創り出せる訳ではない。

時計にはボタンの横に数字が示してある。

その数字は人によって異なり、具象化する場合に具象化するものの数字も表示される。

自分が予め持っている数字が具象化する対象が表示する数字を上回っていれば具象化は可能である。

しかし逆に自分の数字の方が低い場合は具象化することはできないシステムになっているようだ。

僕らはこの数字を『具象値』と呼ぶようにした。


僕らの具象値


霧島遥希…756


神谷裕治…182


天宮雫…394


沖津壮太…615


寺原美穂…431


ちなみに、僕が最初に具象化した日本刀の具象値は57だった。

武器は比較的簡単に創り出せるらしい。

あの時はただなんとなく想像しただけだったため、完成度は低い武器だった。

もっと集中すればより具象値の高い武器を創り出せるだろう。




それから約3時間が経過し、僕らは遂に戦闘目前の所まで来た。


「みんな、覚悟はいいな?さっき打ち合わせた通りに行くぞ!」


全員頷きながら武器を構える。


「作戦開始!!!!!」


「おー!!!!!!!!」


合図と共にモンスター目掛けて一斉に手榴弾が投げられた。


モンスターは堪らず悲鳴をあげる。


どうやら人間が開発した武器はモンスターに効くようだ。


この手応えが僕らに更なる希望を与えた。


「行くぞ!裕治!」


「おう!!」


僕と裕治は先陣を切ってモンスターに斬りかかった。


「うぉぉぉー!!!」


壮太は遠距離攻撃の指示、雫と美穂はサポートに回っていた。


モンスターの肉質は想像以上に硬く、部位をしっかり狙わないとダメージが通らない。


「棍棒を落とせ!相手の武器を使用不能にするんだ!!」


僕たちの狙いは当然、棍棒を所持している右腕だった。


しかし、モンスターもそう簡単には勝たせてくれない。


棍棒を振り回し、僕たちと距離をおいた。


このままむやみに突っ込んでも被害が拡大するだけだ。

何か手は無いか…

うまく棍棒をかわしながら奴に近づく方法…



「くっそー、あんなに振り回されたら安易に近づけもしない。遥希どうする?」


「試してみたい事がある。」


そういって僕はモンスター目掛けて走り出した。


「ちょっ、待て遥希!!」


僕はモンスターに近づけるだけ近づいた。


…今だ!


「デリート!!」


僕は赤いボタンを押した。


(霧島遥希の体重 具象値364)


その瞬間、僕は宙を舞った。


「遥希が…飛んでる…」


ある程度の高さまで飛んだところで僕はモンスターの頭上に焦点を合わせた。


「クリエイション!!」


次に青いボタンを押した。


(霧島遥希の体重 具象値364)


そして僕は真下のモンスター目掛けて一直線に刃を振りおろした。


モンスターは自分の周囲は守れたようだが、頭上だけは見落としていたようだ。


モンスターは顔を手で押さえながら消滅した。



こうして僕たちは最初の標的を始末することに成功したのだった。



「いや〜、しかし驚いたよ、まさか自分の体重を変えて重力の増減を操作するなんて。」


壮太はものすごく関心していた。


「咄嗟の思いつきだったけど、うまくいってよかったよ。」


今回の戦いで新しくわかったことがある。それは創れるものと消せるものは物体に限らないということ。

ここで言う物体とは目に見えるものだと解釈してほしい。

僕たちに与えられた具象化のチカラは見える見えないに関わらず、存在そのものを創り出すまたは無くすことのできる能力を言うのである。




モンスターが消えた事で階段が出現した。

透明でガラスのような階段だった。


「これを下りたらまたモンスターが待っているのね…」


「やるしかない。」


「みんな、急ぎたい気持ちはわかるが全員体力を消耗している。ここで体力を回復してから先に進もう。」


壮太の意見は最もだった。

モンスターが消えた今、この階の世界は既に僕たちのものである。

寝ている間にモンスターの攻撃をくらうことがない安全地帯だ。

命をかけて勝ち取ったこの場所の価値は多大なものだと思う。



出発は6時間後と決まった。

具象化を使って食事をする者、話しをする者、具象化を試す者。使い方は人それぞれだった。


僕は今日ただでさえ無理矢理早起きをした。

慣れない寝不足から既に寝るという選択肢しかとるつもりはなかった。

それになにより再び夢で石の少女に会いたいという思いが強かったのだ。


「遥希…」


「ん?雫どうしたの?」


雫が話し掛けてきた。


「絶対に…戻ろうね、元の世界に…」


「そうだな!絶対に戻ろう!」


不可能ではない気がした。


雫を心配させまいと嘘を言ったのではない。

確信しているのだ。このチカラがあればきっと…


雫も疲れていたのかいつの間にか眠っていた。

僕も雫につられるかのように眠りについた。


続く




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