透明な世界と与えられたチカラ
マスクの男が消た後、僕たちは1時間ほど意識を失った。おそらくあの男の仕業だろう。
最初は悲鳴や怒声をあげていた生徒たちも次第に静かになり、目の前の現実を受け止めていた。
僕は裕治と雫の3人で取り残された世界を調べ回った。
しかし、この世界は広大な透明の床と壁に囲まれており、脱出するのは困難であった。
何も存在しない世界…
僕たちしか存在しない世界…
1つ例外として存在していたものはあの男がゲームのために用意した階段を守るモンスターだけだった。
そのモンスターは角を短い角を2本有しており、体全体が緑色だった。ゲームでよく登場する『オーク』や『ゴブリン』に近い。
「わかんない。いったいどうすれば…」
「何にもないな。遥希、どうする?」
「そうだな…何か手掛かりでもあればいいんだが…」
手掛かりもない事はない。意識を取り戻してから僕たちの右腕にはめられていた腕時計らしきものだ。
しかし、これは何の為に使う物なのかさっぱり見当が付かなかった。
3人が考えを巡らせていると後ろから2人の生徒が近づいてきた。
「頭が回らないのは勉強だけじゃないみたいだね裕治。」
「なんだと!」
「バカなのは相変わらずね裕治。」
「!?お前らは…」
3人の前に現れたのは学年で成績がトップクラスの2人
『沖津 壮太』と『寺原 美穂』であった。
「美穂!壮太!」
「久しぶりだな遥希!」
エリートの2人と落ちこぼれの僕たちは一見、関係のないように思うだろうが、僕たちは中学校時代に知り合った仲だった。テスト前には2人のサポートのおかげで僕と裕治はよく命を拾ってもらった。言わば2人は僕と裕治の恩人と言ってもいいだろう。
「2人は何かわかったのか?」
僕は2人に尋ねてみた。他に手掛かりが見つからないこともあって、2人の力を借りるのが最後の手段であった。
「う〜ん、少し視点を変えてみようか。あの男は僕たちにゲーム押し付けてきた。彼はゲームの主催者だ。ならば今僕たちが何もしていない状況を果たしてあの男は喜ぶだろうか…僕なら絶対つまらないと思うだろうね。」
「たしかに…一理あるな。」
すると美穂は壮太の話を補足した。
「私たちが考えたのはこの何も無い世界そのものがあの男が出しているヒントだということ。何も存在しない世界からゲームをスタートさせるのはどんな天才ゲーマーでも不可能。必ず情報の存在が最低限必須なはずなの。」
「つまり?」
「必要なものが存在しないということは『創れ』ということ…。逆に言えばこのゲームにおいて必要なものは僕たち自身で創り出せるはずということか。」
「その通り。」
「ここまでは僕と美穂で導き出せた。ここからは遥希、君たちの協力が必要になる。残りは『創り出す』手段が何かだ。」
「お前たち2人でわからなかったことが僕たちにわかると?」
これが僕の本音だ。間違ってはいない。学年トップの2人の思考をもってしてもわからない問題を凡人の僕たちが解けないのは客観的に見ても当然だろう。
「遥希、僕たちは君の可能性に期待してるんだよ。」
なのになぜかこの2人は僕に期待している。
「冗談でもお前たちに期待されるのは悪くないな。」
こんな僕だが、1つだけ取り柄があった。
一般の世界では全く役に立たない取り柄だ。
僕は人と比べて記憶力が高い方だ。絵や写真、景色など目に写った物を脳内で鮮明に残すことができる。しかし、文字や文などの文章化されたものは忘れてしまう。
テストで高得点が取れないのはこのせいである。他にも理由はあるのだが…
…ヘンカク…オモイ…チカラ
「!!」
「どうした?遥希。」
「何か気付いたの?」
その瞬間、僕の中で全ての歯車が噛み合い、そして動き始めた。
僕は腕時計が付いている右腕を前に出し、目をつぶった。
…集中しろ。思え!!
思うことこそが変革できる力…
あの女の子が言っていたのはこのことだったのか…
「クリエイション!!」
すると僕の右手には1本の刀が出現した。
さっきまで僕の脳内にあった刀だ。
間違いない。
あの男は僕らに『無いものを創り出す力』を与えた。
世界を変えられる力を…
謎は解けた。これで僕たちは先に進むことができる。
これが僕の起こした最初の具象化である。
続く