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第十五回 まだ戦うな!いやでも戦うときが来る。

 ☆☆☆☆


「キミたちだけで最深部へ行く? バカ言っちゃいけないよ」


青鳥さんは呆れた風に言う。

そんなことできるわけないだろうとでも言いたげな説教モードである。

しかし、いきなり裾を掴まれて止められてしまった。

 何事か、と振り返った青鳥さんは驚く。

背後には今までで一番ブルーになったティオナがいた。


「先生、あたしのダチが落ちちまった。ちきしょう、なんでこんなことに……」


 どうやら友達が落ちたらしい。

 ここまでテンションの冷めきった彼女は初めて見た。


「……あと少しの辛抱だ、頑張ろうティオナちゃん」


 青鳥さんはティオナの頭を優しく撫でる。

 我が子を守る親鳥のようだった。


 ―――失った友達は帰ってこない。

 わたしが死んでも、ティオナは悲しんでくれるのだろうか。

 そんな現金な考えのわたしを、やはり殺したくなった。


 わたしは現状を把握する。

 パーティは二つに分断された。

 進行方向にはわたしとクレア姫、あと二名の兵士。

 入口方向には青鳥さんとティオナ、のこり三名の兵士。

 合計九名、つまり五名が谷底へと落ちた計算になる。

 パーティは崩壊寸前。しかも戦えるのは五名のみ。

 状況ははっきり言って、絶望的だった。


「とにかく動けない兵士を連れて安全な場所へ、いいわよねアオトリせんせ」


「そうだね、僕らはこのまま一旦後退するよ。キミたちは……」


「私たちは先に進むわ」


「だから、進んでどうするのさ」


「私たちだけでミノタウロスを倒す」


 祝・チームプレイ放棄宣言。

 クレア姫は、わたし含む四名でミノタウロスに挑むつもりだ。


「合流できそうなら、追って来て。大丈夫よ、絶対勝つから」


「あ、ちょっと、クレア姫、姫騎士ちゃーん」


 クレア姫は聞く耳持たない。

 青鳥さんの制止を振り切って階段を登って行った。

 手を繋がれていたわたしはぐいぐい、と引っ張られる形で登っていく。青鳥さんの言葉を完全無視するように、先へ進むことになった。


 ―――このメンバーで挑む? 冗談じゃない!

 こんなの勝てるわけないじゃないか。

 わたしはいるのに勝てるわけないじゃん!

 青鳥さんの代わりに説得することにした。


「クレア姫、ここを動かない方がいいのではないですか?」


「こんな狭い場所でもう一度あの投擲が来たらどうするのよ? ただの的だわ。いまは階段を登り切ることが優先事項よ。安全な場所でせんせを待てばいいわ」


 たしかにその通りだ。


「せめて青鳥さんの言葉を聞いてあげた方がいいのでは?」


「はやくせんせに傷ついた兵士を癒してほしかったのよ。それに危ないのはあちらも同じだわ。あの場は一秒でも早く移動するのがベストな選択だったのよ」


 なかなかの言い分。強く言い返せない。


「せめてミノタウロスに挑む前に、青鳥さんたちを待つのはどうですか?」


「それは、たしかにそうだわね」


 やっと、聞いてくれた。

 ―――けど、それは難しそうね。とダメだしされたけど。


「私だって、出来ることならせんせを待ちたいわ」


「何か、問題でもあるんですか?」


「アリアリ、おおありよ」


 やや芝居がかった口調でクレア姫は言う。

 階段を登り切り、クレア姫は、わたしと繋いだ手を離す。

 そして、てっぺんの扉に手をかけた。


「オワリさん、あなたがミノタウロスならどうするかしら?」

「なんですか、急に……」


「いいから、答えてくれないかしら?」


「わたしなら、まず弱い敵から倒すでしょうね」


「正解だわ」


 そして、わたしは気づく。気づいてしまう。

 パーティが二つに分かれたことによる二者択一。

 問題はどちらにくるか、である。

 ミノタウロスの考えが読めてしまう。

 二者択一、どちらへ来るか。

 もしも両方を自在に行き来できるとしたら、もちろん弱いと判断したほうへ来る。

 つまり、確率は二分の一。

 そして私の予感は、たぶん当たっている。



 ★☆☆




 そして、クレア姫は扉を開ける。

 重そうな見た目とは打って変わり、自動ドアのような軽やかさで扉が開いた。

 中は真っ暗闇。

 五名が入ると、勢いよく扉が閉じた。


 ――しまった! 逃げ場がない。


 わたしはこじ開けようと扉の間に指を入れようとするが爪さえ入らない。力の問題もあるのだろうが、どうも魔力的な作用がありそうである。


 壁に付いている松明に明かりが灯る。

 手前から順に、まるでドミノ倒しのようなリズムで明かりが点く。

 そして、最奥の松明が灯ることで、徐々に姿を現した。


雄々しい鉄兜、黒曜石の戦斧。そして不気味に輝く赤い眼。

牛の頭、そして脈動する極太の手足である。





―――褐色のミノタウロスが待っていた。



こちらが弱いと思ったのか、はたまたこちらが近かっただけなのか。

ミノタウロスはわたしたちの前に現れた。


「やはりこっちを狙ってくるか、ミノタウロス」


 至極当然、当たり前といえば当たり前。

 総合力で劣るこちらを攻めるのは当たり前だった。

 わたしもついに、必要とされる時が来た。



 ★★★☆



 ミノタウロスの咆哮で、戦いの口火が切られた。

 思わず耳を塞ぐ大音量、鼓膜を問答無用で破壊しかねない振動。

 だからこそ、わたしは反応できなかった。

 投擲、二つの投げ斧が飛来する。





 ―――あ、これは避けられないな。


 油断したわけではない。あえて言うなら力み過ぎた。

 覚悟をしすぎたのだ。

 モノタウロスの持つ黒曜石の戦斧に集中しすぎて、飛び道具の可能性を潰した。

 これは、なんて走馬灯。

 まるで身体が時が止まったかのように動けない。

 それでいて投げ斧は、ゆっくりと確実に近づいてくる。


 ああ、これで死ぬのか。あっけない。

 わたしの死の決意は、無駄に終わる。


 ――目の前で、投げ斧が弾ける。


 クレア姫の大宝剣が、わたしを庇ってくれたのだ。

 薙ぎ払われた投げ斧は地面に乾いた音を立てて落ちていった。


「怯むな! 私がやつと打ち合う! 戦える者はスイッチを頼むぞ!」


 姫は一度だけわたしの方を見る。


 あれは、失望の表情だった。

 期待外れだ、余計なことはするな、もうちょっと使える奴だと思ったのにな。

 そんな失望感に満ちた見下した目だった。


 戦士たちの怒号。

 数少ない二名の兵士は勇敢にもクレア姫の後ろに続いた。

 三名の勇者が、褐色のミノタウロスに戦いを挑む。



 ★★★★


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