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第十四回 想像してみてください。獣の罠にかかる狩人の姿を……。

 ☆☆



迷宮の中央部へ進むにつれて階段は増えていく。

より複雑に、そしてモンスターの凶暴さも比例していった。

そして、最後に一番大きな部屋にたどり着いた。

やたら細くて長い階段、二人が並んで歩くのがやっとの幅である。しかも階段のすぐ横は底なしの闇だった。踏み外せば二度と登って来れないだろう。


そして、てっぺんに大きな扉がある。

人間用ではない、明らかに人外サイズの扉だ。

俗っぽくいうならラスボス戦一歩手前。

まるでこれからボス戦であるようだった。


「アオトリせんせ、ベテランとしてどう見ますか?」


「いるね、なにかあそこにいる」

 青鳥さんは自信を持って言う。


「あそこにミノタウロスがいるんですか?」


「たぶんね。なんかあそこ、ボス部屋っぽいから」


 ――ああ、やはりそうか。ここはファンタジー世界だ。


 どんなことが起きても不思議じゃない。ボス戦前の長階段があったところでなにもおかしくない。もしこの仮説が正しければ、『アレ』があるはずだが。

 わたしは試しに聞いてみることにした。


「この世界って『セーブポイント』ってあるんですか?」


「え? セーブポイント?」


「ほら、死んでもセーブしたところからリトライできるとか、そういうのですよ」


「そんなものがあるなら、僕はとっくにロードし直してるよ」


「ああ、たしかにそうですね」


 ―――なんだ、ないのかセーブポイント。


 これで死に方が選べないことがわかった。

 死ぬのは構わないけど、無様な死に方はイヤだ。どうせならだれかを、なにかを庇って死にたい。願わくば、未来に大いなる可能性を抱いた『何か』の糧になって死にたい。


―――さすがにちょっと思春期すぎるかな。

わたしはどうも、頭の中まで子どもに戻っているらしい。

世界が終わっても、わたしはわたしのままだ。



 ★☆


二人一組で階段を登る。

単純に、二人分しか並んで歩ける幅がないだけだ。クレア姫の大剣に触れないよう細心の注意を払いながら階段を登るのはなかなか神経を削る作業だった

順調、あまりに順調だ。

脱落者もなく、罠も簡単なものばかり。

だからこそ、底知れぬ怖さを秘めていた。


「オワリさん、ひとついいかしら?」


「なんでしょう?」


「あなたがミノタウロスなら、私たちをどう倒すと思う?」


 わたしは考えた。

「わたしなら、この階段の上から巨大な鉄球を転がして全滅させますね」


「あなた、面白いこと言うわね」


 ―――いや全然面白くない。

 もしそうなれば、後ろは味方、横は谷で逃げ場なしだ。我ながらこんな恐ろしい作戦を考えてしまう。今すぐ行動に移られたらどうしようもない。


「大丈夫よ、わたしのクナギの剣で鉄球の軌道を逸らすことくらいできるから」


「すごいですね」


「これぐらいできないと、姫騎士なんて名乗れないわ」


 ―――ぶっ飛んだ発想をお持ちのようだ。

 鬼ごっこで鬼役を気絶させるくらい、段違いの発想。


「クレア姫がミノタウロスなら、どうしますか?」


「私? ウーン。弱いやつから殺して、グラついてから強い奴らを殺すわね」


 エグイ発想。

そして、明らかに上から目線、圧倒的優位なものによる蹂躙だった。負けの可能性を微塵も考えない、作戦としては破たんしてるが、思いっきりのいい策でもある。

動揺させて、仕留めるのはいい戦法だ。


「いずれにせよ、牛の考えた罠になんてハマるわけないわ」


最後にそう、諦めのように結びを入れた。

階段の中腹まで差し掛かる。

行くことも、戻ることもできる距離。

引き返すなら最後の場所であり、進むなら急ぐべき場所だ。

ここでわたしは思いついてしまう。


「あ、クレア姫。ひとつ気になることに気付きました」


「ん? なにかしら?」

 わたしの一言で、一変する。

 緩み切った空気は、あっという間に凍り付いた。





「この状況自体、すでに罠なんじゃないでしょうか?」



 わたしの言葉を合図にしたように、空気が乱れる。

 破壊音、揺れ、悲鳴。

 投擲される戦斧。それが列を襲った。

 炸裂したアックスは列の真ん中へと放り込まれる。

 ミノタウロス、どこからか攻撃してきたのだ。



「ち、怯むな! 一気にこの階段を登り切る! 私に……」


 指示を言い切るまえに、続く連弾が直撃する。

 やつの狙いは、列じゃない。

 階段そのものを攻撃してきた。


―――なんて、なんてぶっ飛んだ発想。

この階段自体、切り崩した。

これが、ミノタウロス。

異世界迷宮に潜む魔物の実力。

足場を失った兵士は、闇へと消えていく。

ティオナの反撃する矢の音、しばらくして攻撃は止んだ。

 落ち着くことで、悲惨な現実と向き合うことになる。


「おのれ、いまのでだいぶ兵士が落ちたわ」


何人無事なのかわからない。

それよりも、わたしたちは危機に陥っていた。



―――わたしたちの隊は分断させられた。

先頭列のクレア姫・いな子組と後続列の青鳥・ティオナ組が、階段の破壊によって分裂していたのだ。とてもじゃないが人間のジャンプ力でこの距離を詰められない。走り幅とびならできるかもしれないが、階段でしかも傾斜があるからまず無理だろう。

 魔法の力なら、できるのだろうか?



「無理無理無理、とてもじゃないがそっちに行けねえよ」


「ゴメンね姫様、僕らは役立たずみたいだ」


 後続組は完全にリタイア宣言。

 先頭列組は後退不可の背水の陣だった。


「いまのミノタウロス、どっちかを襲いに来るよ。早く次の手を考えないとね」


「ならばアオトリせんせ、そちらの指揮はお任せするわ」


 クレア姫は立ち上がる。

 人数はわたしとクレア姫、そして手負いの兵士が少しだけ。

 この状況で進むというのか。


「私たちはこのまま最深部を目指します」


 まさかの続行宣言。

 生き残りを賭けた戦いは、ここから始まった。


 ★★


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