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十一回 『若い男女』と『食べる』のリアルな意味。


 ☆


異世界迷宮へと向かう道中。

青鳥さんはミノタウロスの伝説についてザックりと話してくれた。

ミノタウロスについて。

牛頭人身の化け物。人間と雄牛のハーフ。

ギリシャ神話における迷宮の主。

9年に一度、7人の男女を生贄にすることで怒りを鎮めていたという。そして三回目の生贄を送り込むときに16歳の少年テーセウスと彼に一目惚れしたアリアドネ姫の活躍によって退治された伝説はあまりに有名だ。


つまり27年で若い男女を28人を喰った怪物がミノタウロスである。

青鳥さんの説明は、以上だった。

―――何か質問はあるかい、という青鳥さんにティオナが問うた。

 それは実に、マイペースな彼女らしい質問だった。


「ねえ、アオトリ先生って若者なの……?」


 ―――たしかに、気になるところだ。

 青鳥さん、茶髪でチャラけているが、医者なのだ。研修期間をカウントしないとすれば、軽く24は超えている計算になる。しかし、肌年齢的にかなり若いような気がするのだ。中身はオッサンだが。


「なんでいまそれを聞くんだい?」


「え? だって生贄は若者じゃないとダメなんだろ? じゃあ先生は若者かはっきりさせとかないといけないんじゃないの?」


「ティ、ティオナちゃん結構デリケートなとこ突いてくるね」


「それよりさ、ねえねえ、いくつなの?」


「当ててごらんよ」


「20? 25?」


「ありがとうございます」


「40?」


「なんで30代飛ばしちゃうかなこの子」


「気になるなあ、いな子もそうだろ?」


 ―――わたしは小さく頷く。

 直接は聞きづらい内容なので、ティオナに乗って聞きだしたいところだ。


「まあ、若年者雇用の枠内には収まっていると言っておこうかな」


「じゃくねんしゃ……? いな子解析班、説明を頼むぜ」


 若年者雇用……つまり18から34までの間ということか。

 ―――つまり、アラサーということか。

 ティオナには上限34歳とだけ伝えておこう。


「なるほどね、つまり先生は30代のオッサンってことか。思ったより歳喰ってんのな、うけるわ」


「おっほん、キミたちは何か誤解しているよ」


 青鳥さんは、話題を変える。

 それも、最低で卑猥な形での路線変更だった。



「この場合の『若い男女』は童貞と処女って意味なのさ」






「「……え?」」


「お子様相手にぼかした表現を使っているけどね。つまりこのミノタウロス、実は童貞処女が大好物だった可能性が高い。いやいや流石ギリシャ神話の魔物、ストライクゾーンもマモノ級だよホント」


「せ、先生なにいってんだよ、こんなとこで」


 ティオナがそわそわしている。

 周りには他の人が見ているため、迂闊に手を出すわけにもいかない。だからこそ青鳥さんの卑猥トークを止めることは難しい。非常に難しい。


―――ティオナって見た目に反してうぶな子なんだね。

 ティオナは負けじと言い返す。


「た、単純に食べるんだから、若い方がいいんじゃないのか?」


「若い男女を『食べる』ってエッチのことだからね。ミノタウロスが人間と雄牛のハーフって話が出た時点で気付かないかい? ミノタウロスが人間相手に欲情してもなんの不思議もないのさ。半分は人間なんだからね」



―――つまり、犯されたのか。

生贄に選ばれた14人の若い男女は、獣人とまぐわうために迷路へと放り込まれたのだ。それは選ばれた方はたまったもんじゃないだろう。想像しただけで恐ろしい。


「―――あ、あのさ先生……その辺でやめよう、やめてください」

 ティオナが耳まで真赤である。


「つまり、ティオナちゃん。キミの言い分が正しいのなら、ここでキミたちの純潔を証明する必要があるのではないか、いやあるべき―――」


「あれれー? たしかにおかしいですねー!」


 大げさに、わたしは声を上げる。

 このままではティオナが爆発しかねないから、仕方なくである。


「ミノタウロスはどうして、『男女半々』の生贄で満足したのかなって」


「どういう意味だい?」


「だって、ミノタウロスはなんで男女7名ずつで満足したんですよね? 普通に雄ミノタウロスなら女子14名ハーレムの方が絶対嬉しいはずだし、メスなら逆ハーレムの方が充実してると思いませんか? 男女半々には必ず意味があったはずですよ」


「尾張ちゃんは、なにか掴んでいるのかい?」


「つまり、快楽目的だったんじゃないでしょうか」


 ―――みんなわたしの話に釘付けだった。

 ちょっとの昂揚感と、誤字脱字を恐れる気持ちで頭がぐちゃぐちゃだ。


「男はいじめて殺すため、女は遊んだ末に殺すため、その程度の価値しかなかったのではないでしょうか? でないと迷宮にはミノタウロスファミリーが出来てて手が付けられなくなりませんか?」


「なるほど」


「つまりわたしたちは、心して戦わねばならないということです」


 すべては推測の域を出ない。

 しかし、確かにありえる話ではあった。

 そして何より、青鳥さんの卑猥トークをずらすことに成功した。

 あとは目的地に着けば、完璧に終わる。


「つまり、尾張ちゃんはマゾってことでいいんだね?」


「もう、好きにしてください」


 わたしはもう、考えるのを諦めた。

 この現実を受け入れてしまうあたり、マゾなのかもしれない。


 ★


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