真実を映す瞳 Ⅳ
僕にはすぐに分かった。
君が僕を殺しにきたのを。
君は、僕と同じくらいの年に見えた。
ついに、子供まで使うことにしたんだね。
ばれないとでも思っているんだろうけど、お見通しさ。
君は、真っ直ぐ僕の部屋に入ってきた。
君は、気付かなかったでしょう?
僕は隠れて、ずっと君を見ていたんだよ。
君は、僕の書斎の本棚の前に、呆然と立ち尽くしていた。
そして、僕が棚に入りきらなくて、床に置いておいた本をゆっくりと手にとって、中を覗いていた。
あの本は、確か、クラウド・F・ベルメールの本だったかな。
僕の尊敬する研究者。
僕を殺しにきたのに、本を読むの?
おかしな子供。
きっと、今頃、護衛は中の様子を伺っているだろう。
そのうちに、君はその床に倒れることになる。
僕は、いつもの手順を思い起こして、当てはめていた。
あとは、時間の問題。
君は、そのあと、依頼主に送り返されて、それから、それから…
君は、僕の瞳に気付いた。
こっちを見ている。
黒曜石のような漆黒の瞳――
綺麗。なんて、綺麗なんだろう。
僕の方を見ているのに、見ていないみたい。
君は何をその目で見ているの?
君は、怯えている?
何に?僕にじゃない。
君は誰?
「ねえ、君は誰?」
僕は、思わず近づいていた。
君はその瞳を大きくした。
漆黒の水を湛えたその瞳は、ふと揺れた。
再び、現実を映し出す。
何かを探している。ピストルかい?
僕を撃とうとしているんだろう?
僕は、もう何も怖くないんだ。
なんで、撃たないの?
もう、そこまで来てる。
君は撃たれてしまう。
君はいなくなってしまうんだよ。
僕の眼の前から消えてしまう。
「僕のお友達になって?」
僕は、今なんて言った?――
「ねえ、いいでしょう?」
君は、疑問を浮かべている。
早く、早くしないと。
扉の開く音がする。足音。
来てしまう。
君を連れて行ってしまう。
君の頬は温かいね。
君は生きている。
僕も生きているんだね。
僕は、あの日、必死で護衛の腕をつかんでいた。
「僕のお友達なの。
だから、消さないでね。」
僕は、ゆっくりと笑った。
あの日、
僕を消す予定だった君は、僕を生かした。
君の敵であるはずの僕は、君を生かした。
あの日から、
僕は君を友達という名の鎖に繋いだのだ。