真実を映す瞳 Ⅲ
その一方で、僕はいつもどこか窮屈だった。僕の周りには、いつも護衛がいて、監視されていた。
僕は、いつも命を狙われているのだから。その理由は、僕がクランズリー家の人間だからだ。
僕の命を狙う目的は、いくつか考えられる。
僕の家で管理している歴史と貴重資料を奪うため。それなら、僕の家を狙った方が早いかもしれない。父がすべてを管理しているのだから。僕を人質にとって、父を脅すという手もあるけれど。
僕が現在、記している歴史に不都合な真実があって、それを偽装したい、消したいという人間もいる。
どちらにしても、僕はいつも死と隣り合わせで生きている。
僕の存在は、政府や学者、マフィアの間に知れているが、一般の人にはまず知られていない。何らかの理由で、僕の命を奪おうとする人は、闇の組織と手を組んで、僕の命を狙おうとする。
時期で言えば、この学校が地上に着陸するときが、一番危険だろう。外部からの贈り物や敵が入りやすい時期だからだ。
けれど、この時期は、僕も旅に出掛けてしまう。僕が出掛けるときは、少しの護衛がついているけれど、そんなに危険ではない。意外に学校にいるときは、僕の居場所が分かっているから、狙われやすいけれど、知らない土地に降りてしまうと、僕がどこにいるかなんて分からないのだ。
僕には、いつも沢山の贈り物が届く。お菓子や本、おもちゃ。でも、すべて廃棄される。贈り物のお菓子には毒が入れられているし、本やおもちゃには、毒の針が入れられている。
僕は、それを覚悟していたつもりだったけれど、とてもショックだった。
僕は、世界中の人から嫌われているみたいに感じた。その悲しさと寂しさに、ペンを握る手が震えて、止まらない日もあった。
僕は、誰かと握手したり、ハグしたり、絶対に人と触れてはいけなかった。いつだって、人の手には、毒の針が忍ばされているし、突然、凶器で刺される可能性もある。
僕は、守られていながら、孤独に殺されそうだった。
その分、僕は勉強と仕事にのめり込んでいった。ひたすら旅をして、世界のすばらしさを知るときだけが、唯一の救いだった。
僕の存在は誰からも望まれていないのかもしれない。けれど、この世界は輝いている。それだけで、十分だった。
僕を殺そうと、ピストルの銃口を向ける。ナイフを振り上げて、向かってくる。
まただ。
僕の護衛は、その人にピストルを向けて、発砲する。
パンッ
倒れた人からは、血が染み出してくる。
いつも、このくり返し。
僕は、この手順を覚えてしまう。
ああ、嫌だ、いやだ、イヤダ
僕のせいだ。
僕のせいで、みんな死んでしまう。
護衛の一人は、僕の目を塞いで、奥の部屋へ連れて行く。
「ねえ、さっきのあの人、死んじゃったの?」
護衛は、ただ僕の瞳をじっと見つめる。
「ねえ、答えてよっ」
ああ、彼が悪いんじゃない。
僕が悪いんだ。
僕がいるから、この人も罪の無い人を撃たなくちゃならないんだ。
僕のせいだ。
彼は、護衛の腕をつかんでいた僕の力ない手を、ゆっくりと外し、僕の肩を握ってしっかりと向かい合った。
「エーデル様、大丈夫ですよ。さっきのは、ただの睡眠薬。今は一時的に眠らせているだけ。」
「ねえ、それ嘘でしょ?」
「嘘ではありません。」
「だって、血が…血が出ていたもの…」
「本当ですよ。さっきの血は、弾丸が皮膚を破いたときに出たもの。それくらいのこと、テーデル様なら、お分かりでしょう?」
「……。」
「大丈夫ですよ。目が覚めたら、依頼主に送り返しますから。」
彼は、僕の肩を強く握って、言った。
「でも、エーデル様。この人は、贈り主に返されたら、間違いなく処分されます。命はないでしょうね。」
やっぱり。
僕のせいだ。
僕の生きているせいで、みんな死んでいく。
僕は、僕は、なんで生きてるの?
僕には、そんな権利ないのに。
そんなことしてまで、生きる権利なんか、ないのに…
そんな中だった。
君に出会ったのは。