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真実を映す瞳 Ⅱ





僕がスカイバード学院に入学したのは、七歳の頃だった。

 スカイバード学院は、厚い雲の上にある、空に浮かぶ学校であった。

 そして、年に数回、陸地に着陸をする。その原理は不明。父がこの学校にいたときは、年に4、5回くらいの頻度で、着陸をしていたが、僕が入学した頃には、7、8回くらいに増えていた。この変化は、いつかこの学校が陸に地をつける日が近いことを示しているのかもしれない。


 この学校は、男女共学の全寮制であり、もちろん、僕は、親元を離れて、その寮に入った。


 このスカイバード学院には、多くの謎があるが、今分かっていることは、以前から学校だった訳ではないということだ。

 現在、学校として使われているこの建物は、以前は王族の城だった。かなりの長い間、城として使われていたらしい。しかし、この王族は、次第に衰退していった。最後の王は、若くして病にかかったため、後を継ぐものがいなかった。この城を、これから生きる、多くの若者のために、使ってほしいという王の遺言から、現在のスカイバード学院が出来たのであった。


 現在では、第三学院の一つに含まれるほど有名な学校になったが、本当に存在するのかどうかは、意外に知られていない。この学校に入学する生徒は、探検家の子供や物理学者の子供などが多くみられる。いずれも、天空に浮かんでいるということを利点として、将来に生かそうと考えて入学する子供が多い。

 僕もその一人だった。


 僕の祖先は、真実を記す人であったと、先に述べたのを覚えているだろうか。僕の祖先にあたるアルバート・クランズリー(と古文書には書かれていた)は、今は無き国の王に仕えていた。アルバートは、一度聞いたこと、見たことは、すべて覚えてしまうという記憶力の持ち主だった。この能力が買われ、王に雇われたのだった。

 王の国の歴史の始まりを記した神話、「White  Mythologyホワイト ミソロジー」いわゆる、「白い神話」が編纂された。

 その後、人々は、真実に相違し偽りを加えている現状に、疑問を持ち始める。そして、人々は、真実を後世に伝えて行くことを思い立つ。一早く、その声を挙げ、実行に移し始めたのが、アルバートだった。彼は、王の国の正しい歴史を記した「Book of Truth(ブック オブ トゥルース)」、いわゆる「真実の書」を編纂した。その編纂期間は、たったの一年と二ヶ月だったという。



 その後、月日は流れ、この国は滅びたが、今でもその歴史は、アルバートの記した、「ブック オブ トゥルース」によって受け継がれている。アルバートの死後、クランズリー家は、真実を記し続けた。同時に、史実を記した書を守り続けてきた。以前は、一つの国の歴史を記していたが、国の滅びた現在は、国は問わず、この世界に起きている出来事を記す活動をしている。



 クランズリー家には、過去の歴史から現在の史実まで、すべての書物が保管されてる。大体、この世界の全容が分かってきたが、知られていない地域も多い。この世界には、沢山の謎が残されている。それを見つけ出し、書に書き記すことが、クランズリー家の使命である。


 スカイバード学院の前身の王族の資料についても、すべて管理している。これまで、王族の持っていた書物はもちろん、この地で起ったすべての歴史を記した書のすべてに及ぶ。特に、王族の城だった頃から、年に一回は、地上に降り立っていたという。そのため、地上各地で起った、当時の歴史についての記録も、綺麗に残っており、かなりの貴重な資料もある。なぜ、そんな大事な資料を、王は僕の家に託したのか。


 そのすべての資料を受け渡してくれたのも、前身の王だったという。クランズリー家は、代々、書の秘密厳守を守り抜いている。その堅実な姿勢に王が心を開き、クランズリー家にすべての秘密を託してくれたのだった。


 この空を浮遊するスカイバード学院は、クランズリー家にとって好都合だった。遠い地域の歴史を調べたければ、汽車や馬車を使用するしかない。それ以外の交通手段は、現代にはない。それでは、時間が掛かり過ぎてしまう。それに、人が難なく行ける場所は、すでに調べ済みなところばかりだ。

 そのため、クランズリー家の人間は、代々、このスカイバード学院の出身者であった。僕の父も、祖父も曽祖父も。

 そして、僕も、同じく、この学院の生徒として入学したのだ。


 僕がこの学院に入った理由は、クランズリー家の仕事を継ぐためだけれど、ただそれだけじゃない。沢山の世界を旅して、僕は沢山のすばらしい世界をこの目で見たい。そして、正しい歴史を後世に受け継ぐことができるように、真実を書に書き記したい。それは、僕の幼い頃の夢なんだ。




 僕は、その他の生徒と同じように勉強をし、一方で、真実を記す仕事をしている。僕は、これを仕事とは思いたくはない。僕は、誰かにやらされているんじゃなくて、僕がやりたいからしていることなんだ。傍から見れば、父の仕事を僕が継いだように見えるかもしれない。その事実は変わらないけれど、僕が僕のために選んだ道なんだ。真実を記すということは、とても楽しいこと。僕の知らない世界を見ることができる。いつも、僕は想像以上の現実に驚かされる。知れば知るほど、僕はもっと知りたくなる。僕は、子供の頃とまったく変わってない。



 僕は、毎日、同級生と同じ教室で学び、遊んだ。この学校は、陸地に足をつけることが、年に数回しか無いから、生徒たちは、ほとんどを学校の中で過ごす。

 父が学生時代に使っていた書斎を僕にくれたから、僕は他の生徒よりも大きな自分の部屋を持っていた。いつも、父の書斎は、部屋の壁が全て本棚になっていて。本で埋め尽くされていた。僕が蔵書に含めたい本もどんどん増えていき、本を置く場所はすぐに無くなった。父さんがこれを知ったら、怒るだろうけど、一時的に床に置いておくときもよくあった。

 書斎だけでは、足りない本は、図書館に行けばいい。スカイバード学院の経営者は、昔からクランズリー家の仕事に手を貸してくれている。手を貸してくれているというより、僕らは同じ考えを共有しているといったほうがいい。だから、図書館には万全の蔵書を備えてくれている。




 親元から離れて暮らすのは、寂しかったけれど、僕の周りには沢山の同級生がいたから、さほど寂しい思いをすることもなかった。何より、スカイバード学院で、僕は自分の知らない世界を沢山目にした。いつも、その感動の中にいた。知らない街、知らない動物、文化、民族、沢山の世界を覗いて、心をときめかせた。スカイバード学院が地上に降りる時は、僕の一番楽しみな時間だった。

 その土地の文化や人々に触れて、感化された。スカイバード学院内に籠もっているときは、いつも自分の書斎や図書館で本を読み漁った。知らないことが多すぎで、僕はいつも焦っていた。スカイバード学院が地上に降りるとき、僕はその土地を隅々まで走り回り、文化を人々を吸収していった。学院に帰れば、今見たもののすべてを書き記した。



 この世界はなんて、すばらしいのだろう。僕は、何度も自分の常識に裏切られた。創造力の乏しさを見せ付けられた。僕の瞳は、いつも輝いていた。


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