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「愛梨がいないんだ! 愛梨がっ!」
「関内さん! 落ち着いて」
冷たく降りしきる雨を貫くような赤い閃光。回転するその光が夜の住宅街を照らし、そこにいる人間の不安を煽った。
――何が起きたの?
――関内さんのお宅、何かあったのかしら?
――愛梨ちゃんがいなくなっちまったらしいぜ?
口々に声を交える喧騒。
「こんな時間まで家に帰らないなんておかしいんだ……。どこを探しても見つからない。だから……」
「ええ。大丈夫ですよ。そのための警察、そんなこと、関内さんだってわかってるでしょう?」
関内と呼ばれた男はずぶ濡れになりながら頷いた。服に染み込んできた雨水が体を芯まで冷やしていった。しわが刻まれた関内の顔に涙か雨かわからない雫が伝う。
焦りで口がうまく回らない関内を気遣うように、若い警察官が関内を車に乗せるように他の警察官に言う。
「きっと大丈夫です。この雨で、帰れなくなってるだけですよ」
「それならいいんだが……すまない。……すまない」
関内は私情で仲間であり部下でもある彼らを使っているような気がして申し訳なさそうに顔を下げた。こんな関内さん初めて見た、と運転席に座る彼の部下の警察官は思った。
「もう一度思い当たる場所を探しましょう!」
全員が乗り込んだのを確認して、彼はエンジンを唸らせた。サイレンが鳴り響き、前後のライトがパッと闇を照らした。野次馬達は道路の脇に反れ、ゆっくりと進みだすパトカーを見送った。
「無事でいてくれ……愛梨」
暗い車内でぼうっと光る携帯の画面を見つめながら、関内は再び娘の名前を呟いた。