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膝上スカート丈の距離  作者: 高瀬莉央
第二章 彼女との接点
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二歩目

 今日のBGMは「しとしと」だった。

 小雨が降り続く中で、わたしは教室の隅っこで何度目かになる溜息を吐いた。


 雨が降っているせいで窓も開けられない。もし今開けたら、いくら小雨だからといってもクレームが飛んでくるだろう。

 鬱々とした空の色は、同時に気分も降下させる。教室の湿度の高さも当然相俟っている。

 先輩が、「勉強の妨げになるからクーラーを入れてくれ」(うちの学校は全教室冷暖房完備だ)と職員室に直談判しに行ったと流れに流れて我がクラスまで噂が回ってきたが、「設備点検が整っていない」という理由で却下されたそうだ。

 教室のあちこちで、ワイシャツを捲り上げる姿や下敷きをうちわ代わりにする姿が目立つ。

 わたしは、湿度の高さを不快に思いながらも、自分の涼しさを保つための行為を一切しなかった。

 高見櫓からの見物者たるもの、いつでも涼しい顔をしていなければならないのだ。


 そしてまた、わたしは溜息を吐いた。

 この溜息は、湿度の上昇や気分まで降下させる雲空に対してではない。

 今日の放課後の居残り体育に対しての溜息だ。


 一週間前、たまたま風邪を引いて休んだことがあった。

 その日に行われた体育の授業で、ランニングのタイム測定があったらしい。

 その事実を知ったときに「ラッキー」と思えたのは一瞬だけで、タイムは全員測定、成績にも関わるからと妙な理屈を並べられ、放課後に居残り測定をしなければならなくなったのだ。

 ランニング測定なんて、そんなことやりたくない。

 しかもこんな湿度が高くて立っているだけで不快なのに、長距離を走るなんて。

 先生と一対一というのもまた気まずい。

 群の中にいれば、いつだってひとりなのだから群に交じって開始し、群に交じって終えることが出来る。それなのに。

 先生と一対一だなんて、ただでさえ目立つ。名前すら正しく言ってもらえなかった日には、学校の屋上から飛び降りてもおかしくない。それくらい、惨めだ。

 しかし、溜息を吐き続けたからといってランニング測定が無くなるわけじゃない。

 わたしは机にぶら下がった体育着が入っている鞄を微かに蹴って、わずかながらの抵抗を見せた。

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