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膝上スカート丈の距離  作者: 高瀬莉央
第一章 わたしと、彼女
6/12

0.5歩目

 自室で、制服をハンガーにかけたあと、部屋着に着替えるとベッドへダイブした。

 ぽふん、と硬い跳ね返りと共に、顔にちょっとの衝撃があり、わたしはうつ伏せの体勢で顔だけ横に向ける。

 そして何故か、今日の学校での風景を考えてしまうのだ。それが日課のようになっていた。

 今日学校で会話を交わした人、0人。挨拶をした人、0人。

 最初の頃は、挨拶を交わす子もちらほらいたのだが、面倒になって自分から挨拶をしに行かないようになると、挨拶を交わす人でさえいなくなってしまった。

 別に、気にすることじゃない。

 今のクラスには波長が合う人がいないってだけの話。友達がいないわけじゃない。

 友達、なんて単に人と人の群れに過ぎず、孤立しないために単体同士が集まっているだけのこと。

 複数が強い、みたいな風潮になっているからおかしいのであって、決して単体が悪いわけでも単体が孤独で惨めだということはない。

 目立つ存在でもないし、単体でいて困ることなんて(あまり)ない。

 今日は「適当にグループを作ってグループ学習な」という教師の配慮に欠けた発言もなかったし、平和な一日だった。この一言があるかないかで、わたしのその日は大きく変わる。

 この余計なひと言があったばかりに、わたしは教師の目を盗んでの単独学習か、ほかグループに混ぜてもらうための愛想笑いを作らなければいけない。

 この愛想笑いには惨めさも加わってくるのだから尚更悲惨だ。

 こういうときに、単体の弱さが露呈する。

 複数でいることの強み。単体でいることの弱さ。

 どんな世界にだって、サバンナで生きる動物だって本能的にわかっている。

 複数でいることは、即ち強みになるのだと。


 総じて平和な一日だった。変わったことはなにもない。

 それなのに、瞼を落とすと浮かんでくるのは林野心の笑顔だった。

 彼女はどうして、あんなにも笑っていられるのか。どうしてあの笑顔ひとつで、人を惹きつけることができるのか。

 考えてみれば、彼女は不思議な存在だった。

 クラスの女子が躍起になって仲間を探した一泊研修と言う名の親睦会で、彼女はほかの女子と同じように、仲間探しに躍起になってはいなかった。

 何故かと言えば、そのときすでに彼女の周りには数名の女子が、彼女のことを囲んでいたから。

 自己紹介から始まって、距離の探り合いやあだ名決め。そんな過程を経て集うことにした幾人もの女子たち。

 しかし、彼女はそういう風に仲間を集めてはいなかった。

 初日からすでに行動を共にするメンバーが存在し、研修中は常にそのメンバーで行動していた。

 それが目を引くきっかけにもなり、彼女を中心とした輪が更に巨大になる要因にもなったのだ。

 彼女は自ら人を呼び寄せたのではない。彼女は自ら、人を惹きつけたのだ。

 

 彼女は不思議な存在だ。

 そして、やはり思う。彼女とわたしは、なにがあっても交わることはないのだと。


 下敷きにしている、数えきれないほどの綿が詰まった掛布団が体に纏わりつく。

 そこからじめりとした嫌な感触が感じられた気もした。

 雨の季節が近い。

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