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膝上スカート丈の距離  作者: 高瀬莉央
第一章 わたしと、彼女
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0.4歩目

 彼女とわたしは、交わらない。相反する存在であることは知っている。

 林野心の周りには、笑うだけで人が集う。磁石とか、ある意味避雷針とか。似たような存在だろう。

 そして私は、どっちかと言えば砂鉄や雷の方で、自ら向かうことはあってもこちらに出向いてもらえることはない。知っている、そんなことは。

 けれど、それが苦だとは思っていない。

 この場所には出向いてくれるような聡明な人間がいないだけのこと。

 そして、私が集いたくなるような、有意義な人間がいないだけのこと。


 林野心だって同じだ。

 正直、彼女のなにがそんなに人を寄せ付けるのかわからない。

 確かにいつも笑ってて? 明るい性格なのは認めよう。

 でも、だからってそれにどれほどの魅力があるというのだろう。

 いつだって笑っている子も、明るい性格な子も、山ほどいる。そんな山ほどいる中の一人が、たまたまうちのクラスに配置されただけのこと?

 いや。そんな単純な問題ではない。

 このクラスにだって、いつも笑っていて明るい性格の子なんてたくさんいる。ほとんどがそうだと言ってもいい。

 それなのに何故、林野心にだけ、人々は集うのか。

 その心理が、さっぱりわからなかった。


 わたしはそんな無能な人間にはさっさと見切りをつけて、櫓からの見物を獲得したのだ。

 まだ、餌を獲得する術を知らないヒナは、親鳥に群がることでしか、生き抜いていけないから。






「おかえり、温子」

 ただいまも言わずに帰ったリビングで、母に声をかけられる。

 朝、母と兄と朝食を摂ったときに会話を交わして以降、今日初めて人に声をかけられた。

 わたしは、母と兄の三人で暮らしている。

 父親は、幼い頃に母と離婚したのでいない。


 優雅にお茶を飲みながら、母はリビングでテレビを観ていた。

 なにを見てるの、と近づけば、レンタルショップでレンタルしてきた洋画だった。

「今日までなの。返却」

「ああ、そういえば新作だったね。面白い?」

「うん。まあね」

「面白いって言ってる割には感想が呆気ないけど」

「ああもう。温子、話しかけないで。ストーリーがわからなくなっちゃう」

 わたしは、はいはい、と返事をしてその場から離れた。

 一見、突き放されたように聞こえる台詞でも、親子だから日常会話になる。

 わたしは今日、初めて自分の顔から笑顔が零れるのを感じていた。

 とんとん、と階段を上がり、二階の自室に向かう。

 兄はまだ、帰宅している様子はない。

 当然といえば当然だ。

 大学を卒業して三年になる兄は、教師をしている。

 わたしも、まだ小学生のころから兄に勉強を教えてもらうことが多かった。

 歳が離れている上に、なんでも出来る(ように見えた)兄は、私にとってスーパーヒーローだった。

 きっと、ものすごく偉い人になるんだろうと思っていた。

 そうするとわたしにも注目が集まって、アイドルになれちゃったらどうしよう、なんて可愛らしいおしゃまな考えも持っていた。幼い頃は。

 しかし、兄がなったのは結局学校の先生。

 別に、ありふれた職業だった。

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