0.2歩目
わたしは高見櫓に登ったわりには、クラスの女子のことを知らなかった。
例えばクラスの女子は、わたしのことを「宮川さん」と苗字で呼ぶのか。それとも「温子ちゃん」と親しく名前呼びしてくれるのか。それすら知らない。
知っているのはクラスに存在している女子グループの数と、それぞれの女子グループが今興味を持っていること。それも大したことがなくて、どのグループも昨日のドラマの話とか最近お気に入りの漫画の話とか駅前のコンビニ店員が格好いいとか化粧の話とか。実にくだらない話ばかりしている。
流れてくる情報は無数にあるけど、どの情報もわたしの中には留まらない。だってそんな話、誰とだってできるし。この子とでなきゃいけない、なんて話はひとつもないんだから。
窓の外を泳いでいる、大きくてふかふかの無数の雲。
わたしは小さい頃から、この春の空と空気の様子が大好きだった。
始まる、って空気。空の青も、雲の白も、空気の重みも。みんな新鮮で新しくて、春独特の穏やかな気候と相俟って街や建物や道や学校、空気自体がぴかぴかしてる。
そんな春が、大好きだった。
今でも大好きなその青と、空気の重みは変わらない。変わったのは、その中にわたしがいないってこと。
始まりの季節。始まりの空気。わたしはその中の一員じゃない。だって始まっていないのだから。その中に溶け込んだ一人ではないのだから。
世界から指で弾かれたわたしは、外から景色を眺めるだけ。ゆったりとした雲の動きを、更にゆったりとした私の時間に身を埋めて、ただじっと。過ぎていくのを待つだけ。
中肉中背、悪いところなんてない。
まあ、顔はとびきり美少女とはいかないし、輝くような白い肌も持ってないけど。
肩より少し長めの髪は、お風呂上がりにしっかりブローするし、毎朝綺麗に梳かしてる。特徴的な大きくて黒い瞳も、すらりとした鼻筋もぷっくりとした唇も持っていないけれど。
平均的な顔つきはしていると思う。睫毛が長くて綺麗と褒められたこともある。
おしゃれに敏感な子じゃなくても、流行の最先端をいく子じゃなくても、群がりの一人になれる。自分の笑顔の隣には、誰かの笑顔がある。
だけどわたしは、その群がりの一員にすらなれない。
宮川温子、十五歳。
スカート丈は、膝上五センチ。