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膝上スカート丈の距離  作者: 高瀬莉央
第一章 わたしと、彼女
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0.1歩目

 進級によるクラス替えも進学による周りの顔ぶれの一新も、小学校と中学校ですでに経験してきた。

 馴染みの友達との別れ、新しい顔ぶれとのふれあい。そつなくこなしてきたつもりだった。自分なりに。

 どんなクラスに放り込まれても浮くことなく皆と一体になれたし、どのグループからも嫌われることなく渡り歩けた。今まで誰かに嫌われていると不安になったことはなかったし、逆に皆から好かれていると自負してきた。

 クラスのトップグループに君臨する女子たちにも嫌われず、下手に出て小間使い的な役割にもなれたし、地味グループの子たちを「いい意味で」見下さずに笑顔で挨拶を交わしてきたし。

 他の女子がグループの格差に溜息をついたり上位グループには我関せずな態度をとっている中でも、なにをそんなにぴりぴりしているのかと広い顔で高みの見物できていたし。

 女子はすぐにその単体性と複数性を利用して仲間はずれとか好むけど、そんなのにもまったく縁がなかった。

 君臨グループの前ではそれ相応の顔を作れたし、平凡グループの中でもそれに見合った笑顔を作ってきた。

 今までわたしなりに、世間を上手く渡り歩いてきた。


 だからこの状況が納得いかない。

 この高校に決めたのは、ただ単純に自分の成績と偏差値を照らし合わせただけの結果。

 高望みしていたわけでも見劣りしていたわけでもなかったわたしは、順当に合格圏内に収まった。

 同じ中学から合格した子は何人もいるし、高校生活に大した不安もない代わりに大きな期待もなかった。

 今までずっと白く伸びていた線が、また新たに伸びていくだけ。

 黒板のチョークやペンと違うのはただ、すり減る心配もインク切れの心配もないってこと。

 色づかない代わりに単調な白線が、また三年分伸びただけなのだ。

 高校入学一日目は、入学式に担任紹介、山ほどの資料を抱えている内に学校から追い出されていた。

 二日目からいよいよ始まった高校生活。とりあえずわたしは同じ中学出身だった子に声をかけ、適当な一日を適当に過ごした。

 一週間二週間と過ぎていけば個々のキャラクターもはっきりし出して、女子が群がり始める。

 四月下旬に行われた一泊研修という名の親睦会でクラス女子間の距離は瞬く間に縮まり、雰囲気は一体となっていた。

 ビッと縦にラインが入ったのは、おそらくその日だと思う。

 元々同じ中学(わたしはオナチューとか言える脳みそなんて持ってないから)出身だった子たちと、それほど仲がいいわけでもなかった。

 中学でも同じクラス(同クラも同義)になったことなんてなかったし、友達の友達って感じで話したことが二、三回ある程度。話が膨らまないのが当たり前なら、気の合わないことなんて当然で。

 いつも、「心ここにあらず」状態だったことは否定しない。

 だから、クラスの大半の女子と同様、わたしにとってだって一泊研修はチャンスだった。いろんな子と話すことができれば、皆と仲良くなれると思ったし。

 中学生の頃だってずっと、一グループに属しながらもクラスの女子全員と万遍なく仲良しでいられた。高校入学と同時にそれがなにか変化するのかと言ったら答えはNO。変化するはずもない。

 クラス皆に顔と名前覚えてもらって、とりあえず一通りの子と仲良くなって。自分の在るべきグループ決めればいっかって。考えが軽いわけでも浅いわけでもなく、至極単純にそう思っていた。

 一泊研修から帰ってきて一度日曜日を挟み、さあ今日からだと意気込んだ月曜日。

 わたしは初めてクラス内の空気の変化に気づく。

 どの女子間にもすでに確固たる空気が出来上がっており、その隙間を見つけることができない。今までわたしが見つけて入り込んでいた隙間が、どのグループにもないのだ。

 開け放たれた扉がない。どの入口も扉もすでに固く閉じられていて、開ける方法を見つけられないのだ。

 鍵を探す、ノックしてみる。思いつく限りのあらゆる手段は試した。

 しかし部屋の中にいる住人はわたしの存在に気づかず、こちらを振り向くことはなかった。

 仲間はずれ、しかと、なんてことではない。だってわたしを嘲笑う者など一人もいないし、挨拶もそれなりには交わすのだから。

 しかし、扉の向こう側にだけはいけないのだ。それは向こう側の意思ではない。はっきりとしたわたしの意思で、「入れない」と思ってしまう。

 疎外感、という言葉が一番ぴたりと当て嵌まるのだろうか。

 中学生から高校生。少女たちは日々成長し、大人になったのだ。そしてここで、あるべき社会のルールを身に着けた。

 「自分たちの、確固たる世界を持っていなければ弱みになる」「流れ者に秘密を教えることは、秩序を乱すことなのだ」と。


 つまり、今までどこのグループ、どんな女子にも染まっていたわたしは、自分のカラーを持っていなかった。誰にも、「この子と一緒にいたい」「この子と話したい」「この子と同じグループになって日々の様々を共有したい」と思わせることができなかったのだ。

 ずっと、「なんとなく」気の合う子たちのグループに属してきた。ずっと「特別この子たち」と思えるなにかを持ったことがなかった。

 クラスの空気や雰囲気の流れで、たどり着いた先がいつもわたしの所属グループだった。

 それでも今まで一切不自由しなかったのは、この社交性。

 雰囲気やカラーに合わせていくらでも自分を変化させることができたし、変形もできた。どこにも馴染めて染まることができた。それが最大の強みであり、これから生きていく上で絶対必要となる条件だと思っていた。

 しかし、裏を返せばそれは「自分」という光る色を持っていなかったということだ。どんな形にも変えられてしまう粘土みたいなわたしは粘土故に誰からも受け入れてもらえなかった。

 マルにもシカクにもサンカクにもなれなかったわたしは、誰かの型に嵌ることはできても誰かがわたしの型に嵌ることはできなかったのだ。


 気づいて、わたしは高見櫓に登った。

 友達ができなかったんじゃない。作らなかったの。滑稽な女子たちを、この櫓から見物するために。

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