不良の周りを幸が舞う
今回は結構長めです。
連載にしようかと思ったのですが
一か所にまとめてしまったので
短編で出すことにしました。
長いです。
本当に暇なときに軽い気持ちで読んでいただけるとありがたいです。
第一話
放課後の教室の扉を思い切り開け、教室には音が反響してガラスが震える。
そのままズカズカと入ってきた男
千野和正、高校一年。
学校中から恐れられる不良である。
制服にはチェーンなどのアクセサリー
髪は染めていて、校則を守っている部分は制服を着ているくらいしかない。
「あの糞教師が!」
そう叫びながら、一番近くにあった机を蹴り飛ばす。
連鎖してぶつかった机も倒れ、教室はまた一瞬騒々しくなる。
「あんたねぇ……いい加減学習しなさいよ、殴ったら怒られる、こんなの小学生でもしってるわよ」
教壇に座っているのは白華詩美里、同じく高校一年。
学校中から信頼される風紀委員。
こちらは、校則を破っている部分が全く見当たらない。
少し長めの髪をピンで留めている。
「うるせぇな!」
「悪いのはあんた、いい加減認めなさい」
「悪いのは分かってんだよ! 手が出ちまうんだから仕方ねぇだろうが!」
「幼稚園生じゃないんだから、悪いか良いか考えてから手を出しなさいよ」
美里は教壇から降り、机といすを片付け始めた。
「それが出来りゃ苦労は無い」
「これだから馬鹿は」
「誰が馬鹿だ!」
「あんたしかいないでしょうが!」
「あぁ?! やんのかこの野郎!」
「……あんた、か弱い女の子にそんなこと言って恥ずかしくないの?」
「か弱いって自分で言う奴がか弱かった試しはねぇ!」
「ふっ、私以外の女の子に怖がられてロクに話したことも無いくせに」
「……うっせ」
「まぁ、せいぜい明日は呼び出されないように気をつけなさい」
美里は和正の蹴り飛ばしたものを奇麗に片付け、教室から出て行った。
次の日
「うあああ! 腹立つ! 誰だ先公にチクッたやつは!」
「……あんたさ、本当に学習出来ないわけ?」
一時間目から放課後まで呼び出しを食らった和正に
美里は哀れみの視線を向けながら問いかけた。
「和正~いい加減学習せぇや」
黒板に落書きをしている天然パーマの男子生徒が追い打ちをかけるように和正を指差した。
彼は諒平、二人の共通した友達。
親の都合でいろいろなところを点々としていたせいか
ごちゃごちゃになったエセ方言とも取れる口調でしゃべる。
「だから何度も言ってんだろ! 自分で止めらんねぇんだよ!」
和正が机を蹴り飛ばし、美里はため息をつく。
「うまいもん食ったら落ち着くがな、家に食い来るか?」
「あー諒平の料理おいしいもんね」
「じゃろ?」
「じゃろじゃねぇよ! 殴る前に毎回飯食える余裕があったら殴らねぇよ!」
「殴る前に深呼吸しなさいよ」
「気が付いたら目の前におっさんが倒れてて深呼吸すんのがやっとだ」
「遅っ!」
思わず諒平が手を止め、突っ込んだ。
「分かってる!」
「あんたもそれなりに苦労してんのね」
「それなりにって何だ、めちゃくちゃ苦労してんだ」
「それなりにでしょ、私の家が茶道の家元やめるときどんだけ大変だったと思ってるの?」
「知るか!」
こんな他愛もない会話をした後、和正は帰宅した。
帰宅するまで、すでに二人殴り飛ばしている。
「向こうから殴ってきたとは言っても……さすがに殴り返すのはまずかったか……」
そんなことをつぶやきながら布団をかぶった。
この次の日からだ、和正が変わり始めたのは。
最初は些細なことだった。
道端で五百円を拾う、ただそれだけ。
和正も大して気にしてはいなかった。
次に、財布を拾った。
さすがに五百円のようには行かず、交番へ届け登校。
おまわりさんがとても驚いていた。
次の日には札束入りのボストンバックを拾い。
次に、拾った宝くじの番号が一等を示していた。
「おい、最近なんかオカシイ、どういうことだ?」
放課後いつものように三人だけの教室で雑談に耽っている。
ただ、今日は机が散乱していない。
「私に聞かないでよ、良いんじゃない? 他の人もあんたにちょくちょく話しかけてくれるようになってるし」
「金目当てが見え見えだ」
「頭とか、大丈夫か? 妄想とかしとらんか?」
相変わらず落書きをしている諒平。
「お前は殴り飛ばされたいのか」
「……いつもなら普通に手が飛んできたと思うたが、嫌におとなしいなぁ」
「そういえば、あんた今週まだ呼び出されてないじゃない?」
「ああ、そういや誰も殴りに来なくなった」
「そろそろ死ぬんじゃないの?」
「まだ死にたかねぇよ」
しかし、一向に死ぬ気配は無く。
むしろ運はどんどん和正に舞い込んできた。
買った宝くじが当たらなかったことは無く、拾った宝くじですら一等前後賞を射抜く。
何かするたびに成功し、金があふれる。
和正はもともと頭が良く
それを妬まれ生徒や教師に嫌われた反動で不良になったため
勉強も、呼び出しを食らったわりには成績が良かった。
金の手に入る方法などいくらでも知っている。
和正はそのうち、学校に来る回数が少なくなっていた。
第二話
高校の放課後、帰り道を美里と諒平が二人で歩いている。
しかし、美里の表情はすぐれない。
「……あの馬鹿」
「みっちゃん? どしたん?」
ぼそっと呟く美里の声を拾い損ねた諒平は美里を見て聞き返す。
「あ、いや……なんでも無いよ」
平然と普通の笑顔で返すが、諒平には作り笑いだとすぐにわかった。
「あー、なんでも無いとか大丈夫とか、当てにならんがな」
「諒平はなんでそんなに疑り深いかなぁ……私は大丈夫だって」
「……そーかい、なら良いけどなぁ」
諒平はどうにも納得できないような顔をして
美里から目をそらした。
「……うん」
しばらく会話が宙に浮き
「和正か?」
唐突に諒平がつぶやいた。
「! な?!」
虚をつかれた美里はついリアクションをしてしまった。
「……あー」
なるほど、と言わんばかりの表情の諒平。
「な、何よ!」
「和正は最近学校来とらんし、さすがに気になるか」
「どーせ、誰か殴って懲役でも食らったのよ」
「いやー、一週間くらい前はぴんぴんしとった」
「……会ったの?」
「ん、あいつは俺とは違って頭良いやつだから、週五百万稼いどるらしい」
「五百万?」
「ああ、現在進行中で増えとるとかな、来週には週一千万は行くとか言っとった」
「そんなにお金が必要ってこと?」
「いや、なんか見下しとった奴を見返すんだとか、で、わしにもコレ叩きつけよった」
諒平はカバンから茶色い封筒を取り出した。
「……何それ」
「百万」
また沈黙が流れた、美里はあいた口がふさがらない様子で
諒平は、美里が話し始めるのを待っている。
「……あいつ、なんでそれを?」
「なーんか、認めてくれたお礼とか……」
すると美里は諒平を早歩きで抜いていってしまった。
諒平は慌てて美里を追いかけ、呼び止めた。
「どしたん、そんなに急いで」
美里は足を止め諒平を睨んで。
「決まってるでしょ! 乗り込むのよ!」
「……どこに?」
「和正の家! そんな簡単にお金を投げるやつだなんて思わなかったわ!」
「……やめといた方が「行くって言ったら行くの!」
こういうときの美里は何を言っても聞かない。
諒平は渋々美里に付いていくことにした。
そして……
「なによこれ!」
「なぁ、言ったろ?」
美里の目の前には、和正の家では無く
見たことも無い豪邸が聳えていた。
今までよりも敷地は明らかに大きくなり
鉄でできた門の奥に堅そうな木の扉が見える。
とても中に入れそうにはない。
「ど、どうなってるの?」
「見ての通り、二か月で家を買ってもうた」
「そ……そんなことが……」
「呼び鈴、押すか?」
諒助が美里にそう聞いたときに美里の顔は少し気抜けしていた。
「押さなくて……いい」
「そうか」
諒平たちは、気まずい空気のまま和正の家を後にする。
そんなことを知らない和正は、自分の部屋で一人パソコンに向かっていた。
自分の買った株はぐんぐん上昇を始め、ドルを買えばドルが上がる。
まさに和正だけが得をする世の中だ。
しかし、和正は必死だった。
どうあがいても、和正の本当の願いは叶わない。
自分は普通の学生として、普通に生活したい。
天才じゃなくていい、普通に、髪を染めたり
衝動で人を殴るまで悪化する前、親にほめられるだけで誰よりも幸せだと思えたあの日に。
「……戻りたい」
和正がつぶやき俯くと、パソコンの画面は
和正の手元にある少し汚れた宝くじと同じ番号を映し出していた。
第三話
それから二カ月が経ち。
和正は、いつの間にか会社の社長になっていた。
ある日突然、何度か聞いたことのある社名と秘書を名乗る男が現れ。
「今日からあなたが社長になりました」とだけ言って帰って行った。
週に何度かやってきては、新しい企画の資料を読み上げ
和正の了解を得ようとする言葉に適当に頷くと、そのまま何も言わずに帰っていく。
そして、次の日には、たまたま開いたサイトのバナーに
男の言っていた内容から連想できる商品が広告される。
ぼんやりとでは有ったが、自分がそれなりに権力を持っていることを実感し始めた。
しかし、一方ではこれは夢なのではないかと言う思いもぬぐい去れない。
そして今の今まで何一つとして自分の願いは叶わず
それどころか、日を追うごとにどんどん普通の日常から離れていく。
諒平にまた来いと言ったにもかかわらず、あれから何の連絡も無いし。
外に出ようにも、外ではカメラとマイクを構えたマスコミが
実質的に社長となった高校生に取材をしようと押しかけとても出られそうにない。
家に居ればいるで、「ぜひわが社の商品を御社に役立てたい」と言うおっさんたちが現れ。
「お父さんの友達だが融資をしてほしい」や
「お前の秘密を握った、ばらされたくなかったら三億払え」
等、連日神経のおかしくなりそうな出来事ばかり起こり、どこにも逃げられない。
和正は、ついに社長として本格的に仕事をすることに決めた。
何せ、学生とはいえそれなりに権力もある、ウジウジ腐っているよりは何倍もましだ。
それから二日後には、和正は秘書の言うことに熱心に耳を傾け始めた。
そして、放課後まで立たされてもそれなりに勉強のできる頭を生かし。
どんどん会社を大きくした。
しかし、家から出られない状況は続いたので。
ロボットカメラを会社に設置し、そこにいるかのように社内を家の中で周り。
社員ともしきりに話した。
誰からも嫌われたくはない。
向こうから見ればただの画面に映る高校生だ。
しかし、同時に社長でもある。
最初は偏見で見ていた社員も、話すたびにだんだんとなじんできた。
社長とのみ敬語を禁止する、と言う規律を作ったが
それでもゴマを磨るために敬語を使い続けるものや
敬意を払う意味で敬語を使わせてほしいと申し出るものもいたため
規則を作ったわずか二日で、社長への言葉づかいは自由と改めた。
その結果、社に入って日が浅い者や
タメ口で社長に話しかけることに抵抗があった者も
誰もが気さくに社長と話し、社長も社員全員の名前を頭に入れるため話しかける。
三週間もたてば、誰からも信頼される社長になっていた。
すると、前にもましてどんどんと金が舞い込む。
もう何も必要ない。
社員の要望はどんどん叶え、どんな無理難題なアイデアも
和正は臆すること無く取り組み
無理難題な発想を何倍も超える発想で打開していった。
思い通りにならないことはない
みんなが俺を信頼してくれている、これこそ自分の求めていたもの。
和正はそう感じた。
突然笑いがこみあげ。
思わず噴き出してしまった。
「社長、どうなさいましたか?」
スーツを着た男が紅茶を持って和正に尋ねる。
「いや、コレ楽しいなと思った。なんだろうと思い通りだ」
画面を指差しながら笑った。
「左様でございますか」
秘書は机の上に紅茶を置く
もう秘書と言うよりも執事のような扱いだ。
和正は彼を非常に気に入ったようで、家に住み込みで置いている。
「お前も、何か要望があったら気軽に言ってくれ」
「私は何があろうと社長についていくだけですから」
秘書はただ笑って部屋から出て言った。
「……気色悪っ」
……どうやら気に言っていると言うより
便利だから置いているだけらしい。
第四話
さらに半年が過ぎた。
和正の会社は、この国に足を入れた瞬間から関わっている、と言っても過言ではないほどに
規模を広げていた。
ビル、道路、家具、家と大きなものから
ネジや梱包材、脱酸素剤に至るまで。
わずか半年で大規模な進出を成し遂げ
景気の起爆剤となり、経済ごとふっ飛ばした。
和正の会社を除いた企業の株は低迷し
その分が和正の会社に集中している。
さらに、今年の就職志願者は去年の十倍を超えると予想され。
実際に今からコネを使ってくるものもいたが
それをよそに、和正はあらかじめある条件を表明した。
「我が社はよほど社員の誰かが気に入らない限り高学歴者は全部捨てる」
表向きには、低学歴者の方が苦労を積んでおり
人に敬意を払い、死に物狂いで仕事を覚えてくれる。
という社員の意見が八十パーセントを超えた、であった。
実際、大企業でありエリート組と呼ばれるものもいたが。
上司である人間が自分より学歴が低いと見下す。
全く指示を聞かない、それで何度か会社に損害を与えたことがあり
むしろこの結果は当然と言えた。
そして裏では和正の復讐でもある。
今まで和正を蹴落とした教師も学校を鼻にかけていたからだ。
この条件を全国に向け発表した時期は丁度夏休みが終わったあたりだったが。
高校や大学など国中の学校は大騒ぎになった。
ここさえ入れれば安泰、むしろ、入らなければ生きることすら難しい
他のどの会社も、ほとんどこの系列だ。
そんな会社に入るために入学したのに、その学校の履歴があればその人間は受け付けない。
まさに天地がひっくり返った。
和正の学校はあらゆる分野に精通しており
そうなると高学歴者は実質的に就職の資格が消えることとなる。
同意しないからと言って特に今までの方針を変えないと言う部分を重点に置いてはいたが
最初のうちは反対が多かった。
上層部の息子、娘は当然それなりの学校へ通っている。
そして、その学校のほとんどが、入社規制に引っ掛かっていた。
しかし、その企業に属する幹部、及び一部優秀な社員の子供は入社資格を与える。
と言う条件をちらつかせるだけで
一瞬で手のひらを返した。
決定するのは上層部。
賛成派が多かったにもかかわらず渋っていた企業は
ほぼ全て、和正に同意した。
一方
今まで頑張ってきた努力が泡のように消える。
小学校受験や中学校受験をを考えていたものは市立に切り替え
中学生も、ひっかからないギリギリのレベルの高校へ行くものや
それを理由に親を丸めこみ、受験の必要ない高校を選ぶものまで様々だった。
大騒ぎになって当然だ。
会社まで何度も足を運び、泣いて頼む物までいたと言う。
しかし、和正はこの声明を取り消すことはなかった。
そして、最後まで反対していた一部の中小企業の良い分は
「ただでさえ入る人間が少ないのに、これでは我が社はつぶれる」
と口をそろえた。
そこで、資料を提出すれば無償で広告を新聞に配布する。
と言う条件を出したところ、あっさり受け入れた。
そして今まで賛成派だった会社にもこれを適用。
結果的に、誰もが知っている学校の人間であればある程
就職が厳しくなると言うことを示している。
和正がコーヒーを口に含むと
ゆっくり扉が開き、スーツの秘書が現れた。
「お疲れ様、コーヒー、飲むか?」
「いえ、ご遠慮させていただきます」
「助かった」
「はい?」
「お前が広告の案を出してくれたおかげで反対する会社はもう無くなった」
「左様でございますか、お力になれたようでなによりです」
「さて、今日は……」
和正が書類に目を通そうとしたときに、携帯が鳴った。
「ちょっと待ってくれ」
秘書にそう言うと、携帯を取り耳にあてた。
「もしもし?」
≪……遅い!≫
それは、和正も久しぶりに聞く声。
懐かしい声だ。
「……美里?」
≪あんたそれでも社長なの?! 全然電話出ないじゃない!≫
「……俺も忙しいんだよ」
相変わらず元気そうで生意気なその口調に懐かしさを感じながらも
ため息交じりにそう答えた。
≪で? いつ学校来るのよ?≫
「はぁ? 学校?」
しばらく聞かなかった単語を耳にし、もう一度聞き返す。
≪諒助も自分の作った料理誰も食べてくれないから凹んでるし……全部あんたのせいよ!≫
「まぁ、そう言うなって」
≪うっさい! なんであんたはそういつもいつも!≫
「チョイ静かに話せ、耳が痛い」
≪明日≫
「あ?」
≪明日あんた引きずってでも連れて行くから≫
「……え?」
≪首洗って待ってなさい!≫
「ちょ、ちょっと待てあのな」
和正が弁解しようとしたころには、電話は音を立てて切れた。
「……はぁ」
「いかがなさいましたか?」
「学校だとよ」
「学校?」
「明日学校に引きずってでも連れて行くから覚悟しとけと」
「おやおや、物騒ですね」
そういう秘書は、少し嬉しそうに笑う。
「そういうわけだから、明日は誰も入れないように頼む」
しかし、和正の一言にすぐに笑みは消え、戸惑った表情で聞き返す。
「……よろしいのですか?」
「ああ、良い」
「……左様でございますか」
秘書は軽くお辞儀をすると、部屋から出て行った。
第五話
和正の家の前には秘書によって三十人のSPを配置されている。
窓の外を眺めた秘書は
「……ここまでなされるとは、よほど学校に行くのが嫌なのですね?」
「そーいうことだ」
「……それでは、私は最終確認へ行って参ります」
「絶対、入れんなよ?」
「かしこまりました」
秘書が部屋から出ていくと、和正はため息をついた。
それからしばらく経ち、外が騒がしくなり和正が外を覗く。
しかし、何か揉めているようだが何が起こっているかは分からない。
じきに終わるだろうと予見し、自分の椅子へ座ると
紅茶を口へ運んだ。
そしてパソコンを操作しようとした時。
乱暴に部屋の扉が開いた。
「ちょっと! 何よあれがお客様を迎える態度な訳?!」
かん高い声を上げて和正に迫ってくる。
「な、なんでお前ここに」
「申し訳ありません……突破されました」
後ろから少し汚れたスーツの秘書が片足を引きずりながらやってきた。
「SPがそう簡単に突破されるわけ無いだろうが!」
「あいつらは諒平の料理の餌食になってるわ」
和正がモニターをつけ、画面が何度か切り替わると。
そこには大きい鍋の中身を三十人のSPにふるまう姿が映っている。
「社長……私は彼らの治療へ行って参ります」
「ウソ付け! お前諒平の料理食いたいだけだろ!」
秘書は「では失礼します」と言って、さっきとは逆の足を引きずって出て行った。
部屋には二人だけ取り残され。
「……で? 行くの? 行かないの?」
威圧感が半端ではない。
しかし、和正は押し黙ったように考え始めた。
「あんたね、私達がどんだけ苦労してここに来たと思ってんのよ!」
和正が口を挟もうとするが、美里は構わずに続ける。
「あんたがいなくなってから学校は平和よ! でもすっごく物足りない!」
「……ああ、そうか、それで?」
そう和正が言い放った瞬間、プッツンと美里の何かが切れた。
さらに和正へ迫ると
襟首をひっつかみ
引きずりながら扉へと向かった。
「ちょ、痛てっ痛いやめろ」
「言ったでしょ! 引きずってでも連れて行くの!」
「待て、この先は階段だ! さすがに死ぬ!」
「良いわ! いっそのこと死になさい!」
「分かった! 行くからやめろ!」
その言葉を聞いた美里は手を離し、止まった。
「痛……本気で引きずんなよ……」
首を摩る和正を見下ろした美里の顔は、鬼そのものだ。
「…………行くのよね?」
とても冗談が通じる状態ではない。
「……着替えてくるからちょっと待ってろ」
和正は、大急ぎで自分の部屋へ駆け込み。
それを見た美里は、ため息をつくと力なくその場で崩れ、倒れた。
「…………よかった」
一方その頃
「ほーれ、おかわりはたーんとあるがや!」
諒平は大き目の鍋にシチューを作りSPに振る舞っていた。
「「「おおー!」」」
「諒平様とおっしゃいましたか? 流石ですね、絶品です」
SPと秘書はシチューを食べながら諒平を褒めちぎった。
「にしても、こんな簡単にみっちゃんを入れてくれるとは思わんかった」
「ええ、まぁ、彼らに今回は休暇のつもりでのんびりしてほしいと」
「そんで、最初はきちんとしとったのに、今はこの状態かいな」
「そういうことです」
しばらくすると、堅そうな木の扉が開き。
美里と和正が出てきて、美里は諒平に笑顔を向ける。
SPは急に立ち上がり、和正に敬礼すると
またシチューを食べ始めた。
和正はまだ朝だと言うのに少し疲れた顔をしながら。
「じゃあ、行くか」
諒平の肩をたたき、そう言うと。
美里と諒平は頷き、報道陣がわめいている入口へ走って
一気に突破した。
ごちゃごちゃになって学校へ向かう集団を秘書は笑顔で見送っていた。
しかし、結局一連の出来事の原因は結局分からなかったという。
おわり
……はい。
申し訳ないです。
なかなか良い作品ができませんでした……
誤字脱字、この表現おかしい、ここ掘り下げなさい
など
一言でも感想いただけるとありがたいです。