監禁ENDしかないヤンデレゲームの世界に転生しましたが、推しなので問題ありません!
あ、ここ、キントリだ――
乙女ゲームの世界に転生したのだと気がついたのは、前世の推しミハエル様と初めて顔を合わせた時だった。
『監☆禁☆愛 〜小鳥は愛の鎖に囚われる〜』 略して禁鳥。
攻略対象は全員ヤンデレで、エンディングはもれなく監禁という、クソゲーとして一部で話題になったゲームだ。
制作陣のヤンデレの解像度が低い!と言われていたのはその通りで、だけどビジュアルは良かったのだ。
私が一目惚れしたのは、教皇の息子で将来は高位神官が約束されているミハエル様。
金茶のストレートロングで、中性的な顔立ち。
物腰も柔らかで喋り方も優しい。
が、腹の中は真っ黒。
今だって、お人形さんみたいに微笑んでいるけど、きっと心の中では私の価値を値踏みしている最中だろう。
この世界の神官は、神に使える職ではあるが、結婚に制限はない。
貴族ではないが、貴族並みの権力も持っているのが教会だ。
当然、政治的にもいろいろなつながりがあったりして、その一つとして私とミハエル様の婚約があった。
私の名はベラドンナ・カダル。カダル伯爵家の娘であり、ミハエルルートの悪役令嬢でもある。
将来は妖艶な美女になる予定だが、7歳の現時点ではまだかわいらしさが勝っている。……と思う。
「はじめまして。ベラドンナ・カダルです」
まだ7歳だが、淑女教育はもう始まっている。
貴族令嬢らしく、精一杯おしとやかに挨拶してみせた。
「ミハエル・ルドルーです。今日はよろしくお願いします」
7歳のミハエル様!幼少期のスチルはなかったから、ご褒美が過ぎる!
ゲーム内で語られたのでは、ミハエル様とベラドンナの仲は最初は良好だったらしいのだ。
それが、成長するにつれベラドンナが妖艶になり、またベラドンナ自身も男性にチヤホヤされるのを好んだため、二人の関係は微妙なものになっていった、とあった。
私はミハエル様推しですからね!
他の男によそ見なんてしませんわ!
固く誓った出会いの日から三年、私たちは順調に仲を深めていた。
とはいえお互いまだ子供なので、主な交流は文通。
私は、今日はこんな勉強をしましただのお庭のお花が咲きましただの、他愛のないことをせっせと書き綴った。
ミハエル様からのお手紙は、なんと言うかそつがないというか、きれいにまとまったものだった。
この当り障りのなさ、さすが将来腹黒陰険神官だわ!などと、密かにオタク心丸出しで堪能していたのは秘密だ。
10歳のミハエル様は、ぱっと見美少女のようだ。
ゲーム中でも中性的ではあったが、現時点では清楚系美少女だ。
そして私はすでに妖艶の片鱗が見え始めて、弱冠10歳にして背徳的な色気を感じさせている。
鏡越しの姿に、客観的にそう思ってしまうのは、私の中身がアラサーだったからかしら。
清廉を絵に描いたようなミハエル様と、退廃的美女のベラドンナの対比は、ゲーム内でも描かれていた。
可憐なヒロイン、ジュネーに惹かれてしまうのは至極当然な事ととして。
今は中身が私なので、高慢さの欠片もないんですけどね。
むしろもうちょっと、高慢さがある方がいいのかしら、などと思ってしまう。
そんなことを考えてしまうのは、現在のこの状況、パーティでどこかの貴族令息に絡まれているのである。
このパーティは、第二王子リチャード様の誕生日を祝うもの。
まだデビュタント前の同世代の子供たちが集められていた。
「俺の父上は財務大臣政務官なんだ。宮廷でも偉いんだぞ!」
それ、偉いのはあなたのお父上であって、あなたは何も関係ないですよね。と、言えたらどんなによいか。
「そうなのですか」
私は精一杯の無表情で返した。
「今度うちに遊びに来いよ」
令息は強引に私の腕をつかむ。
「離して」
中身アラサーでも、身体は10歳の女の子なのだ。
年上の男子の方が力がある。
「人の婚約者に、気軽に触れないでもらえるかな」
その声と同時に、大臣の息子とやらの手が私から引き剥がされた。
「ミハエル様!」
ミハエル様は財務大臣の息子の腕をつかんだまま、私をかばうように彼と私の間に入った。
「いてて!何だよお前…」
令息がミハエル様に文句を言おうとしたとき、背後が騒がしくなった。
「何かあったのか、ミハエル」
振り返ればリチャード様と、ほか数人がこちらへ近寄ってきた。
「私の婚約者に無礼をはたらく者がいたので」
いつもの微笑を消した、真顔のミハエル様が答えた。
ふうん、と王子に睨まれて、大臣の息子はヒッと小さく声を上げ、しどろもどろに言い訳をしながら逃げるように立ち去った。
「ミハエル様、ありがとうございます」
ホッとして自然と笑みがこぼれる。
ミハエル様を見上げながら礼を言うと、なぜだか周りがざわついた。
リチャード様も驚いたような顔をして、目元がほんのり赤い。
「申し訳ありません、リチャード様、失礼します」
そういうなりミハエル様は私を半ば強引に連れ去るようにその場を離れた。
「ミハエル様、どうされたのです?」
私が尋ねるとようやく立ち止まって、私の顔をじっと見つめながら言った。
「あのような表情をみだりに人に見せてはいけません」
そういうミハエル様の目元も、ほんのり赤かった。
「私、変な顔してました?」
不安になって両手で頬を押さえていると、ミハエル様はクスッと小さく笑いを漏らした。
「変ではありません。魅力的すぎてあぶないのです」
「みっ魅力的?!」
今度は私が顔を赤くした。
このあたりから、ミハエル様との交流が増えたように思う。
ゲーム開始時点では既に仲が微妙だったようなので、今のところゲームとは流れが変わっているようだ。
ゲームでミハエル様ルートの時のベラドンナは、黒魔術の生贄にされていた。
そう、黒魔術。外からは全く分からないのだが、黒魔術に手を染めてしまっているのだろうか。
確か、教皇の息子として教会の教えを強く受けてきたが、実は神が信じられない、というような理由だったと思う。
そんなことで、とも思うが、腹黒なのも冷酷なのもミハエル様の魅力だ。
でも、できることなら、危険なことには手をだしてほしくないなぁと思う。
前世からの推しを超えて、私はミハエル様に恋をしていた。
ヒロインが現れたら、ミハエル様もきっと心を奪われてしまう。
その時、せめて生贄にされないくらいに嫌われてないといいんだけど。
13歳で学園の中等部に入学する頃には、ベラとミハエル、と呼び合う仲になっていた。
ゲームではベラドンナはミハエルと呼んでいたけど、ミハエルの方はベラドンナ嬢だったはず。
原作より仲が良くなっていて素直に嬉しい。
第二王子リチャード様は一年先輩で、ミハエルも側近の一人として、行動を共にすることが多かった。
他の攻略対象である、公爵家嫡男腹黒陰険メガネ枠アラン様、寡黙な騎士のドルク様、そしてミハエル。
来年になったらここに、年下のロディマス様も入るだろう。
17歳の高等部でヒロインが編入してくるが、現時点ではまだ、各自穏やかな人間関係を築いているようだった。
そして王子たちが共にいるように、私の方もそれぞれの婚約者の令嬢たちと交流を深めるようになった。
リチャード様の婚約者である、公爵令嬢キャロライナ様。少し気が強いところはあるが、淑女のお手本となるような方だ。
アラン様の婚約者は、伯爵令嬢レティシア様。
こちらは物静かでいつも穏やかな微笑みを浮かべている方。
そして私ベラドンナ。今のところは、ミハエルとも、キャロライナ様たちともよい関係を築けていると思う。
ゲームでのベラドンナは、男子生徒に囲まれて、女友達は居ないようだったし。
食堂の特別席にいると、殿下たちがやってきた。
「やぁレディたち、待たせて済まない」
「お気になさらないで。実習だったのでしょう?」
殿下とキャロライナ様も親しげに話している。
私たちは昼食もこうやって、一緒にとることも多かった。
ミハエルは神官になるから、卒業後も殿下のそばに仕えるわけではないけれど、王家と教会が円満な関係を続けるためには必要な交流でもある。
「そういえばベラったら、また男子生徒に声をかけられていたわね」
キャロライナ様がいたずらっぽく笑う。
「やめてください」
「そうなのか?」
困ったようにとめる私の声にかぶさるように、ミハエルが問うてくる。
「婚約者がいますから、他の男性と出かけたりしません、と毎回はっきり断ってるのですけど」
そう、ちゃんと断っているのだ。
「ベラドンナ様は、同じ女性であるわたくしから見ても、色っぽいですものねぇ」
レティシア様まで同調してくる。
「ミハエルも心配が尽きないな」
リチャード様が冷やかすように笑って、ミハエルの肩を叩く。
「でも変ですわね」
レティシア様が、思案するようにつぶやいた。
「何が変なんだ?」
アラン様が問いかける。
「ベラドンナ様から男子生徒に声をかけることはもちろんありませんし、思わせぶりな態度をとることもありませんのに。なぜかあまりよろしくない噂が流れているようですわ」
「そうね、ベラをやっかんででたらめな噂を流している者がいるかもしれませんわ」
この外見のせいで、勝手に男好きだと思う人がいるのはわかっている。
「その話はここまでにしませんか?ベラがしおれてしまう」
しょんぼりしている私に気づき、ミハエルが優しい声で話題を変えてくれた。
昼休憩が終わりベラドンナが食堂からでたのを確認して、ミハエルはレティシアに声をかけた。
「先ほどの、ベラについての噂、教えていただけませんか?」
「……で、好きな男がベラドンナ嬢に好意を寄せているのをやっかんで、その女生徒が噂を流していたと」
「ええ、すぐに判明する程度のお粗末な嫌がらせでした」
話しているのはリチャードとアラン。
「神官の婚約者が男好きなどという醜聞は見過ごせませんからね」
ミハエルは二人の視線を受けて、ニッコリと微笑んだ。
リチャードとアランはお互い顔を見合わせて、無言で肩をすくめた。
それからしばらくして、学園から一人の女生徒が退学したが、それが話題になることはなかった。
そして私は社交界デビューを迎えた。
高位貴族のほとんどが、王家主催の夜会をデビュタントの場に選ぶ。
私もまたそれにならい、その日に合わせてドレスを仕立てた。
デビュタントのドレスには、白か白に近い淡い色の布を選ぶことが多い。
私は黒髪黒目なので、白のドレスを仕立てることにした。
そして夜会当日。
白のドレスは清楚だが、初々しさが見当たらない妖艶な美女が鏡に映っていた。
艷やかな黒い巻き毛、少しタレ気味の黒目の大きな瞳。
唇はぽってりと厚く、紅は控えめにしか差してないのに紅い。
首飾りは、金にミハエルの目の色と同じ新緑の宝石が光る。
迎えに現れたミハエルも、お揃いの白い礼装だ。
長い髪を今夜はゆるやかにまとめている。
そしてカフスにあしらわれたのはブラックダイヤ。
私の色である黒だ。
「ベラ、今夜は一段と綺麗だ」
「ミハエルも素敵よ」
ミハエルの目が私の胸元に落ちる。
「その首飾りも似合っている」
「ええ、お互いの色を纏って嬉しいわ」
「……私の色の首輪のようでよいな」
ミハエルが小さくつぶやいた言葉は聞き取れなかった。
公の場で初めてのダンスに緊張していたが、ミハエルに、
「大丈夫、私だけを見て。ベラ」
そう囁かれて彼のリードに身を任せたら、驚くほどに軽やかに踊ることができた。
今年の一番の注目は、なんと言ってもキャロライナ様だろう。
だから私は、ひっそりと目立たないように過ごして…なんて、甘いことを考えておりました。
ミハエルがほんの少し離れた隙に、下心見え見えのおっさんに絡まれています。
以前もあった気がしますね。
「カダル家の令嬢は黒き宝石のようだと聞いていたが、まことでしたな」
伯爵家当主だというオジサマが、値踏みするように私をジロジロ見てくる。
私はただ薄く微笑んでそれを受け流す。
「あなたのような美しい女性は、若造では足りぬでしょう」
おっさんが私の手を取る。
「私が大人のダンスというものを教えて差し上げましょう」
いーーーやーーーーー!
心の中で全力で叫んだ。
だが私の顔は周りから見れば、「あらまぁ困ったわねぇ」くらいにしか見えないらしい。
その間にもおっさんは、私の手を手袋越しに撫でるように触ってくる。
「失礼。彼女は今夜が初めてです。ご容赦くださいませんか」
ミハエルが、そっと、かつしっかりと、おっさんの手を私からはがしてくれた。
「神官見習いの若造が」
失礼なことを言うおっさんに、ミハエルは微笑みを浮かべたまま、何かをそっと耳打ちした。
途端に、おっさんの顔色が変わる。
「さあ、あちらへ行こう。一人にして悪かったね」
そっと背を押され、ちらりと後ろに目をやると、おっさんは顔色を悪くしたまま立ち去っていった。
「何を言ったの、ミハエル」
「人には、知られたくない秘密のひとつやふたつあるだろう?それを囁いただけだよ」
ミハエルはずっと、柔和な微笑みを貼り付けたままだ。
「ふふ、怖い人」
「私が怖いかい?」
「いいえ、頼もしいわ。助けてくれてありがとう」
うっとりとミハエルを見つめながら微笑むと、ガラスの割れる音がした。
向こうでどこかの令息が、こちらを見たまま固まってグラスを落としたようだった。
「ベラドンナ嬢が微笑むたびに、グラスが割れそうだ。王宮中のグラスを集めることにならなければいいが」
笑いながらリチャード様がキャロライナ様と共に現れた。
「まぁ!殿下ひどいですわ」
リチャード様の軽口に私もおどけて抗議してみせる。
それからキャロライナ様と向き合って、互いの装いを褒めあった。
キャロライナ様のドレスも白だが、その上にダイヤモンドやサファイアが縫い付けられ、眩く輝いていた。
装飾品もダイヤモンドと大粒のサファイアがあしらわれ、公爵家の財力がよくわかるというものだ。
「第二王子とその婚約者とも親しいと、周りに印象づけておかなければね。私たちのかわいいベラドンナに不埒な輩が近づかないように」
キャロライナ様が迫力のある笑みを浮かべながら言った。
実際、それは私にとってとてもありがたいことだった。
王子の目の前で、私にセクハラする者もさすがにいないだろう。
初めての夜会を楽しみながら、これがいつまで続くのだろうかと、不安が小さなシミを心に落とす。
ヒロインが学園に編入してきたら、ミハエル様は心を奪われてしまうのだろうか。
その時に私は、静かに離れることができるのだろうか。
「ベラ、疲れたのかい?」
帰りの馬車の中、ミハエルが気遣う。
「もし、もしね、とてもかわいくて素敵な女の子が現れて、ミハエルが心を奪われてしまったら、て思ったの」
不安が口をついて出てしまった。
「いったいどこからそんな話が出てくるんだい?」
ミハエルが驚くのも当然だろう。
「突然変なことを言ってごめんなさい。少し不安になっただけ」
「今夜だって、誰の目にも触れさせたくなかったというのに」
「えっ?」
ミハエルはただ、静かに微笑んだ。
そしていよいよヒロインであるジュネー様が編入してきた。
ロディマス様も入学し、これでキントリの登場人物は全員揃ったことになる。
だが人間関係はゲームとは少し変わってきている。
まず私とミハエルを筆頭に、それぞれの婚約者とは良好な関係を築いている。
私たちがいるときは、ドルク様はあまりご一緒なさらないので、どちらかと言うと影が薄い。
ロディマス様も、リチャード様の取り巻きというよりは、ミハエルとのほうが親しいようだ。
この学年になってからの編入は珍しいため、興味を持った人も多かったが、リチャード様はあまり関心を持たなかったようだ。
ミハエルもまるで気にした風はない。
だが、それでもゲームの強制力なのか、ジュネー様の方から攻略対象に関わる場面が度々見られた。
ミハエルは表向きはとても柔らかな雰囲気だからか、ジュネー様からよく話しかけているようだった。
ロディマス様とも親しげに話しているところを見かける。
誰狙いなのかはっきりしない行動に、私のモヤモヤと不安も高まる。
そんなある日、ジュネー様がすれ違いざま、
「転生者?」
と私にだけ聞こえるくらいの小声でつぶやいた。
ハッとして顔がこわばる。
「やっぱりそうなんだ?」
ジュネー様は足を止めた。
「攻略対象っぽい人はいるのに、なんかみんな婚約者と仲いいし!おかしいと思ったんたんだよね」
ヒロインの愛らしい外見が台無しだ。
「で、ここ、なんて作品?」
知らずにミハエルたちに近づいていたのか。
「キントリですわ」
「げ!クソゲーじゃん!」
吐き捨てるように言われて、私はムッとした。
「全員ヤンデレだっけ。あー、でも、愛されるのは悪くないよねー」
こんな人にミハエルが奪われたら……そう思うとムカムカしてきた。
ずっと不安だったのに。
「ねぇ、知ってるなら協力してよ!」
「お断りします」
図々しい要請を、間髪入れず拒否した。
「はぁ?なんでよ」
「むしろこちらがなんで?ですわ。あなたに協力する利が全くありませんもの」
「ジュネーちゃん!」
彼女がさらに何かを言おうとしたタイミングで、話に割って入った人がいた。
「あ!ロディマス様〜」
くねくねと、媚びを売るような表情に早変わりした。
「どうしたの?ジュネーちゃんって、ベラドンナ様と知り合いだっけ?」
「それが…ベラドンナ様冷たくて〜」
「なになに?オレが話聞くよー」
ロディマス様は軽い口調でジュネー様に合わせながら、私に目配せした。
ああ、助けてくれたんだわ。
私はツンと顎を上げ、そのまま離れた。
その日の帰り、ミハエルに誘われて、私たちは一緒の馬車で帰ることにした。
「ロディマスから聞いたが、大丈夫だったかい?」
やっぱり知っているのね。
「ええ、ジュネー様に絡まれましたわ」
「ああ、彼女、ちょっと特殊だね」
特殊とはどういう意味合いなのだろう。
惹かれ始めているの?
ミハエルの顔から、スッと笑みが消えて真顔になる。
「ねぇ、ベラ。何か心配事があるなら私に話して?」
ゲームの強制力が不安なの、なんて話せるわけもない。
無言で首を横に振る私の顔を覗き込むように、ミハエルは近づいた。
「君は時々、とても遠い目をするね。まるで、私を通して別の何かを見ているようだ」
ドキリとする。
「その…ミハエルが、ジュネー様に惹かれたらどうしよう、て」
「そんなわけあるはずがない」
力強く否定して、それから鋭い目で私を見た。
「ねぇ、ベラ。今さら、私から離れるなんて思わないよね?」
「離れたくないわ!」
心の底からそう思う。
ミハエルの目が、ゆっくりと細くなる。
口の端を微かに上げて、いつもと違う、昏い笑みを浮かべた。
「私のベラ。君は何も心配せず、私だけを見ていて」
ヤンデレなんて軽い言葉じゃない。
ミハエルのこの昏い笑みを向けられることに、悦びを感じた。
今の私なら、彼が用意した鳥籠に、喜んで入るだろう。
そっと目を伏せて、彼の胸に頭を預けた。
私を抱きしめるその手は、しっかりと男性だった。
「ジュネー嬢ね。私にも厭に馴れ馴れしくて困惑していたんだよ」
ここは生徒会室。リチャード以下、いわゆる攻略対象たちが集まっていた。
「ハニートラップにしても、雑すぎるだろう?目的がわからなくてね」
「それにしても、よりによってベラドンナ嬢にちょっかいをかけるとは」
呆れたようにアランも言う。
ミハエルは温度のない笑みを貼り付けたまま、静かに口を開いた。
「私のベラを悩ませるものは、排除しなければいけませんからね」
「公爵家でも調べてみたが、男爵家の背後に誰かがついている様子はなかった」
「つまり、ただ身の程をわきまえていないおばかさんってことか」
ロディマスがクスクス笑いながら言う。
「じゃあオレがもらっちゃってもいい?貴族令嬢としての価値は正直薄いけど、個人的には面白そうなんだよね」
ふわふわの猫毛と甘い琥珀色の瞳。
普段はちょっとやんちゃな子猫のような男が、今は獰猛な肉食獣の目をして笑った。
「ベラに金輪際接触しないなら」
「商談成立だね」
物騒な取り引きをする二人に、他の攻略対象三人はただ、肩をすくめてみせた。
その後ジュネー様を見かけなくなり、やがて退学したことを知った。
「もしかして、なにかした…?」
恐る恐るミハエルに尋ねて見ると、彼はいつもの聖者のような微笑みで答えた。
「ジュネー嬢ならロディマスのところにいる」
(多分)と小さく続けたのは私には聞こえなかった。
そうか、ロディマス様ルートに行ったのね。それにしてはエンドが早い気はするけど。
その後ロディマス様の商会は、斬新な新商品を次々と開発してさらに発展した。
前世で覚えがある物も多かったから、きっとジュネー様が知識を披露したんだろう。
姿は全く見ないけれど。
それからは平穏に時間が過ぎ、私は学園を卒業し、間をおかずミハエルと結婚した。
式にはリチャード様とキャロライナ様、アラン様レティシア様も出席してくださったけれど、私のドレスを見て少しばかり引きつった笑いを浮かべていた。
真っ白なウェディングドレスに施された金糸の刺繍は絡みつく鎖のようだし、金に大粒の新緑色の宝石をちりばめた首飾りは首輪のように見え。
「全力で執着を見せつけてくるドレスだったよ」
とは、リチャード様の談、らしい。
式の後のパーティでは、幸せすぎてミハエルと見つめ合っては微笑むたび、会場からグラスの割れる音が響いた。
そして初夜。
ベッドに並んで座って寄り添う。
「このままベラをこの部屋からもう出さないと言ったら?」
どろりとした昏い笑み。
返す私の笑みもまた、きっと同じように昏いだろう。
「あなただけを見て生きていけるなんて、幸せだわ」
ゆっくりと抱きしめられて、何度も口づけをかわす。
「愛しいベラ。もう君を誰の目にも触れさせたくない」
「ええ、ずっと捕まえていて」
その言葉通り、私はほとんど屋敷から出ることなく過ごした。
ミハエルは神官だから、元々そんなに社交しなくてよいこともあり。
さすがにリチャード様とキャロライナ様の結婚式には出席したけれど、それ以外の社交の場に出ることはほぼなかった。
私はその生活に満足している。
私たちは、互いの愛の鎖でがんじがらめに縛られる。
ミハエルルート 軟禁?END




