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七星の戦記 Eランクの女子高生指揮官、最強の落ちこぼれたちを率いての異世界防衛戦 〜私の「戦術眼」には勝利へのルートが見えています〜  作者: 真野真名
第2章:泥の要塞

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第16話 ミリ単位の死線




 ドーゴンの仮設工房は、さながら狂った発明家の実験室だった。


 ゲンガイの不器用な施し(肉の配給)があってから、村人たちの態度はわずかに軟化していた。彼らは恐る恐るではあるが、千代の指示に従い、村中からありとあらゆる「鉄屑」と「日用品」を広場に集めてきていた。


 刃の欠けた鍬、底の抜けた鍋、錆びた釘、壊れた荷車の車輪、そしてどこから拾ってきたのかわからない空き缶の山。

 通常であればただのゴミの山だが、ドーゴンのスキル『廃材錬成ジャンク・クリエイト』にかかれば、それらは第一級の防衛設備へと生まれ変わる。


「うっほー! 最高! 使える部品がいくらでも転がってるな!」


 ドーゴンはゴーグルを額に押し上げ、油まみれの手で次々とガラクタを組み合わせていた。

 彼のハンマーが火花を散らすたびに、ただの農具が幾何学的な殺戮兵器へと姿を変えていく。


「お嬢ちゃん、見な! リクエスト通りの『空き缶鳴子』の完成だ!」


 ドーゴンが掲げて見せたのは、無数の空き缶を極細のワイヤーで繋ぎ合わせた代物だった。

 ただ音が鳴るだけではない。缶の内部には魔石の削りカスが仕込まれており、ワイヤーが引かれる張力によって特定の摩擦が生じ、微弱な発光と同時に耳障りな高周波を発する仕組みになっている。


「これをアーレイの作った迷路の死角に張り巡らせておく。敵の足がワイヤーに触れれば、どの地点から侵入したか、音の高さと光の色で一発でわかるって寸法さ」


「素晴らしいわ、ドーゴン。これなら夜間の奇襲も完全に探知できる。……こっちの不気味な鍋は何?」


 千代が指差したのは、三脚の上に固定された、底の深い巨大な鉄鍋だった。鍋の下には強力なバネが仕込まれており、側面には着火用の火打石が連動している。


「こいつは俺の自信作、『自動火炎放射鍋』だ!」


 ドーゴンは誇らしげに胸を張った。


「鍋の中に、村の連中が持ってきた古くなった食用油と、魔獣の脂をたっぷりと仕込んである。敵がこの前の踏み板を踏み抜くと、留め金が外れてバネが作動! 鍋が前方に傾くと同時に火打石が火花を散らし、灼熱の油のシャワーを敵の頭上にぶちまける!」


 生活感溢れる日用品が、えげつない無差別殺傷兵器に改造されていた。

 洗練されたあの世界にはない、滑稽さと残酷さが同居したブラックユーモアの極みだ。


 しかし、千代は笑わなかった。極めて真剣な表情で鍋の傾斜角を調べ、頷いた。


「完璧よ。これを枡形の角、敵が一番密集するポイントに設置して。……次は、人員の配置ね」


 千代の瞳の奥で、光のノイズが走った。

 『戦術眼タクティカル・ビュー』の最大出力。


 千代の視界の中で、村全体が均等な「グリッド(マス目)」によって切り取られ、チェス盤のようなデジタル空間へと変貌した。


 アーレイの作った土塁、ドーゴンの罠、そして敵の仮想進行ルート。

 それらのデータが統合され、千代の網膜に、敵の矢や魔法が飛び交う「射線キルライン」が赤いレーザーのように可視化される。


 逆に、敵からの攻撃が物理的に届かない「死角」は、緑色の安全地帯としてハイライトされた。


「オリエール。あなたの立ち位置を決めるわ」


 千代は、タワーシールドを背負って欠伸をしていた重装歩兵の女を呼びつけた。


「あんたの指示通りに動けって契約だったわね。で、私はどこで壁になればいいの?」


「ここよ」


 千代が指差したのは、枡形の出口――敵が土塁の迷路を抜け、村の広場へなだれ込む直前の、最も攻撃が集中する絶望的なポイントだった。


「……本気? ここじゃ、敵の魔法部隊の集中砲火を正面から受けることになるわよ」


「ええ。だから、あなたの『守護者の誓い』が必要なの。あなたがここで全ての敵意ヘイトと攻撃を吸収してくれれば、その後ろにいるゲンガイとレオハルトが完全にフリーで敵の側面を叩ける」


 オリエールは舌打ちをしたが、盾を構えて千代の指定した位置に立った。


「そこから、右へ五センチずれて」


「はぁ? 五センチ?」


「そう。あなたの今の位置だと、右斜め前方にある廃屋の屋根から敵の弓兵が射撃した場合、入射角があなたの盾の縁を掠めて、後ろのカミイの頭に当たる確率が三割あるの」


 千代は、視界の赤いレーザー(仮想射線)をミリ単位で調整しながら、極めて冷酷に言い放った。


「五センチずらせば、すべての射線はあなたの盾の分厚い中央部分に収束する。……盾の角度をもう少し内側に。右足の重心を落として」


 オリエールは内心で毒づきながらも、指示通りに体を動かした。

 彼女はプロの傭兵だ。直感で理解したのだ。この少女の言う「五センチ」が、戦場の恐怖からくる出鱈目ではなく、何らかの異常な知覚に基づいた、極めて物理的で正確な演算結果であることを。


「……なるほどね。あんたの目には、未来の矢の軌道が見えてるってわけだ」


「未来じゃないわ。ただの確率論よ」


 千代はUIのグリッド表示をオフにし、深く息を吐いた。

 こめかみが割れるように痛む。大量のデータを処理しすぎた代償だ。鼻の奥から血の匂いがした。


「アーレイの地盤で敵を誘い込み、ドーゴンの罠で足を止め、オリエールがすべてを受け止める。……盤面は整いつつあるわ」


 泥の盆地は、もはやただの貧乏村ではなかった。

 そこは、七人の異端者たちによって設計された、巨大な殺人装置へと変貌を遂げていた。


 空から、大粒の雨が落ちてきた。

 乾いた泥が水分を含み、重く粘り気のある沼へと戻っていく。


 開戦まで、残り九十時間。


 タイムリミットは、確実にその針を進めていた。




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