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迷子


目が覚める頃、外の景色はすっかりと暗くなっていた。


私は、眠い眼を擦りながら今日泊まるところを探すべく

施設を出ようとしたが、ここは馬鹿みたいに広いため迷子になってしまった。


夜になってもここの施設の動きは活発で、みんな忙しそうに働いている。

山積みの資料を運ぶ人、よく分からない機械のテストをする人、コーヒーを片手に資料を閲覧する人、

いや、人とは言ったが人の種類も様々だ、獣人だったりエルフだったり、悪魔に天使に数えだしたらキリがない。


ここには色々な種族が働いている、かなりそういった間口が広いようだ。

ドールである私も、ここならきっと何の弊害もなく働けるだろう。


そんな事を考えながら歩いていると、遂に出口を見つけた。


「やっと見つけた…」


思わず安堵の声が漏れる。


道案内の看板が一つでもあれば私はもっと早くここに辿り着いだろう、

今度ケンゾウさんにこの辺の事を相談してみようと思う。


そんな不満を感じつつ、私はさっさと施設を後にした。


ーーーーーー



「ここどこだ?」


施設を後にした私は早速迷子になっていた。


レムルスは広い、ほぼ初めて来たような都市で道案内も付けずにただ闇雲に歩き回るのは正に自殺行為だった。


「一人でホテルを探し回るべきじゃなかったな…」


こういう事も今までマスターがやってくれていた、

失ってから初めてそのありがたさに気づく、

マスターが恋しい、またあの声を聞きたい。


思わず不安で泣き出しそうになる、

まぁ、ドールだから涙は出ないのだが。


知らない土地の知らない空気というのはこんなにも怖いものなのか、自分の心の弱さを改めて痛感してしまう。


結局、私は恐怖と不安に押しつぶされて、その場に

下を向いてしゃがみんこんでしまった。


ーーーーーーーー


しゃがみこんで数十分、なにも状況は良くならない。


ふと、声が聞こえる。



「お前は何も出来ない。」


うるさい、急になんだ。


「一人では無力な哀れなドール。」


そんなことわかってる、だが言わなくてもいいじゃないか。


「マスターに頼りきっていただけの愚か者。」


どうして私にそんな文句を言ってくるんだ、別に私は君たちになにかした訳じゃないだろう。


「なぜ自分から行動を起こせない、情けない。」


どうしてそんな…


周りからヒソヒソと私の事をバカにする声が聞こえてくる、お前たちに私の何がわかるというのだ。

怖くて顔をあげることが出来ない。

だが、そいつらの声は何も間違っていない、私は本当に無能なドールだ、自分から問題を解決でない、助けを求めることもできない、今までマスターに頼りきっていただけの情けないドール。


そいつらの声は私の心を押し潰すのに十分だった。



動く気が起きない、もういっそこの場で死んでしまいたい、彼らの声がどんどん私の心を蝕んでいく、私の心はとっくに限界を迎えていた。


会いたいよ、マスター…




「お困りのようだな。」



ふと、顔を上げると謎の女性が目の前に立っていた。


「もし良ければ、この偉大なるストレイキャッツがキミの悩みを聞いてあげようじゃないか。」


親しげに話しかけてくれる彼女だが、どうもテンションがおかしい、酔っ払っているのだろうか?

もうこの際誰だっていい、誰かに縋らせて欲しい、

そう思った私は彼女に悩みを打ち明けた。


「初めてこの街に来たんですけど今日泊まるホテルが一件見つからなくて…周りの人もみんな冷たくて……ずっと歩き回ってるんですけどこの街広すぎて…」


弱々しい声が私の口から吐き出される、その声は声と言うには余りにも小さかった。


だが、彼女はそんな私の小さな声を聞き取り優しく答えてくれた。


「なるほど、確かにこの街は広い、初の観光となれば迷子になるのは確実だ、だが案内してくれる人がいるとなれば話は変わってくるだろう。」


彼女はそう言うと、しゃがみこみ私の方に目線を合わせて再び喋りだした。


「もし、キミが良ければ私がこの街を案内しようか?」


その言葉は、冷たく冷えきってしまった私の心を溶かすのには十分すぎるくらいの温かさだった。


「え、ほんとですか!?是非ともお願いしたいんですけど!」


「お、さっきより大分元気になったな、顔も随分晴れやかになったように見える、立てそうか?」


そう言うと彼女は笑顔で手を差し伸べたので、

私はその手を取り、もう一度立ち上がることができた。


「じゃあ行こうか、着いてきてくれ。」


「そうだ、キミの名前は?」


「アルトと言います、そちらは?」


「私の名はストレイキャッツ、気軽にキャッツとでも呼んでくれ。」


こうして、キャッツさん主導のレムルス観光回が始まった。


ーーーーーーーー


「とりあえず、腹は減ってないか?」


「この辺にパスタが美味い店があるのだが、良かったら観光の前に腹ごしらえをしないか?」


歩き始めてすぐにキャッツさんが聞いてきた、

私はドールなのでお腹が空くと言うことは無いが、

そろそろ充電をしたいと思ってた所だ、

恐らく病室のベッドで寝かされてる間も充電とかされてないだろし、そろそろ電力をチャージしないとまずい。


「そこのお店って充電とかできますか?」


「?出来ると思うが、どうかしたのか?」


「あ、私の体電気で動くんですよ、だから充電したいなぁって。」


「そういうことだったのか、なら少し歩いたところにサイボーグやアンドロイド剥けの充電スタンドがある、有料だが今回は私が出そう。」


「良いんですか?本当申し訳ないです、何から何まで。」


「気にするな、困った時はお互い様だ、こうやって困った人を助けるのがストレイキャッツの役目だからな。」


こうして彼女の案内で充電スタンドに向かうことになった。


ーーーーーー


「この辺ってなんだかメカメカしい方が多いですね。」


先程からすれ違う人物のメカ率が高い。


一部が機械化している人や、全身機械の機械人間とか、

全員どこからしら部位が機械化してる。

キャッツさんの腕も機械になっており、

この辺りの地域はそう言う人達が集まっているのだろうか。

私も、機械というかドールなので何となく親近感を感じる、この辺りの雰囲気、割と好きかもしれない、


どこからともなく聞こえてくるモーターの駆動音や何を意味してるのか分からないビープ音、歯車が回るような音も聞こえ、時折蒸気を排出するような音も聞こえる。

この地域のロボの種類だけで一体どれだけの数になるのだろうか。


「どうしてこの地域にだけこんなにメカな方が多いんですか?」


「それはこの辺に立ち並んでる店がそういった顧客に向けた店が多いからだ。」


そう言うとキャッツさんは辺りの店を指さした。


その指さした店はどれも、パーツショップだったり、メンテナンスサロンだったり、明らかに機械の客向けの店だった。


「こういった店自体はレムルス中にあるが、こうやってメカ向けの店だけが集まっている区画はレムルス全体で見ても珍しい、キミが先程言っていたメカが多い理由と言うのはこういう店を探すと自然とここに集まって来るからという訳だ。」


「なるほど…勉強になりました。」


充電スタンドがある理由も恐らくこういった事が理由なんだろう。



そんな会話をしているとあっという間に目的地に着いた


スタンドには様々なロボやサイボーグが集まっており、その種類は様々である。


私は何とか空いてるスタンドがないか手当たり次第に探ることにした。


少し探すと空いている充電スタンドがあったので、他の人に取られないうちにさっさと充電を始め、至福の時を味わった。


「うめ…うめ…」


身体中に電力が行き渡る、乾き、飢えていた私の体に新鮮な電力が溢れ出す、なんて上質な電気なんだ、

いや、電気に上質とか劣悪とかあるか分からないけど、この電気は特に美味しい、身体中が喜ぶのを感じる、

私はしばらくこの素晴らしい電気を堪能した。


ーーーーーー


「ご馳走様でした。」


充電を満タンにした私は、近くで待っていたストレイキャッツさんと合流した。


「満足したようだね、その顔を見るとわかるよ。」


「お陰様で充電することができました、ありがたいありがたい。」


おなかいっぱいで眠くなりそうなくらいだ。

こんなに美味しい電気は生まれて初めてかもしれない、

こんなに素晴らしい電気を頂けるならバッテリーパックも持ってくるべきだった。


「それじゃあ、キミの腹も満たせたようだし、当初の目的であるホテル探しに戻ろう。」


「丁度この辺にいつも空いてる宿がある、今日はどうか分からないが、どうせ空いてるだろう。」


「おお!では早速そこへ向かいましょう!」


「少し歩くことになるが大丈夫か?」


「さっき充電したばかりですからどこまでも歩けますよ!どんなルートだってばっちこい!」


今の私ならどこへだって行けると思う、レムルスの端から端までだって今の私なら横断できる気がする、

それくらい今の私は調子がいい。


「なら、行くとしようか、少し入り組んだ道を歩くから離れるんじゃないぞ。」


こうして、ホテルまでの長くて短いような旅が幕を開けた。


ーーーーーー


「え、ここから先にホテルがあるんですか?」


そこは薄暗い路地だった、いかにも霊が居そうな雰囲気のあるこの路地を今から進むらしい。

流石にこの先にホテルがあるようには思えない、あるとしてもそれはきっと人間用ではない。

ネズミとかゴキブリとかがメイン層のとても素晴らしく手入れの行き届いている死ぬほど綺麗なホテルなのだろう。


「あぁ、ここからしばらく歩くとあるぞ。」


「ここから入り組み出すから見失わないようにしてくれ」


「わ、分かりました、行きましょう。」


霊が怖い訳ではない、ただこの視界が悪い空間を歩くのが私はどうも苦手だ。

曲がり角から敵が飛びしてこないか、奥から何かが迫ってこないか、なんだか良くないことを想像してしまう、決して霊が怖いわけではない、むしろ霊はプラズマと言うのだから、私のエネルギーにしてあげたいくらいだ。


そんな事を考えながら、私は普通に剣と盾を構えて戦闘態勢を取りながら路地を進んだ、決して霊が(ry


ーーーーー


「そんなに構えなくて良いのだが…」


「何があるか分からないですから。」


しばらく歩いているとキャッツさんが遂に私の武器に突っ込んだ。


だが、私はこの路地を歩いて何度も襲いかかってくる影を見かけた、その度に私は剣を振り回したのだが、その度にキャッツさんは驚いた表情をしてこちらを心配してきた。


どうやら彼女にはその影が見えていないらしい、恐らくちょうど死角だったのだろう、ここは狭いし。


「その…あれだ、私は何度かこの路地を歩いたが一度も危険な目にあっていない、そんなに身構えなくて大丈夫だ。」


そ、そうなのか、だが、先程から私は何度も襲われていたのだが。

襲われていると言っても私自身、怪我をしている訳では無い、毎回ギリギリのところで影を払っている。


まぁ多分、この辺の奴らはそんなに強くないのだろう、もし何かあっても彼女が助けてくれるだろうし、多少は安心しても良いのかもしれない。

流石にこの狭い路地で盾を構え続けるのも大変になってきたし、そろそろ警戒を解いて良いだろう。


私は盾を下ろし警戒態勢を解いた。


「そろそろ着くぞ。」


警戒態勢を解いたがそろそろ着くらしい。

結局ほとんど最初から最後まで警戒モードだった。



路地を抜けると広い空間に出た、その空間には小さな建物がポツンと一軒だけ建っておりその建物から漏れだした淡い光を見てるとなんだか落ち着いてくる。


広いと言っても建物1個分くらいの、丁度小さめのホテルが一件収まるくらいのそれくらいの空間だ。



どう考えても目の前の建物がホテルだろう、

外装はちゃんと綺麗で手入れが行き届いてるように見える、建物の周りには小さな庭のようなものもあり、思った以上にこの建物からは人の気配を感じる、あんな路地の奥にこんな綺麗な建物があるとは思わなかった。

もしホテルじゃないならこの建物は恐らく…恐らく何だ…?


何も想像つかない、この建物がホテル以外の可能性が想像できない、ここに来るまではこんな所にホテルがあるわけないと思ってたが、まさかこんなにもホテル以外の想像がつかない建物があるとは。


て言うかまず建物の上にデカデカとホテルって書いてあるし。


今どきこんなにもホテルを主張する建物も珍しい、

もしかしてフェイント?

ホテルに見せかけたトラップハウスではなかろうか。

ほら、疲れきった旅人を狙うたまに都市伝説で聞くアレ。

そう考えるとそうにしか見えなくなってきた。

先程まで落ち着いた雰囲気に見えた光も今では、

チョウチンアンコウの光のような疑似餌にしか見えない。


私の危機感知信号がすごい勢いで反応している、これは絶対にクロだ、騙されないぞ。


そう思うと、ストレイキャッツさんも怪しく見えてきた、彼女はここまでなんの脅威にも出会わず私を案内してきた、恐らくそれは彼女が彼らのグルで私を騙そうとしているからだ。

そう思った途端彼女の顔がとても怖く見えてきた、先程までは何も無かったのにその顔が急に恐ろしくなったように見える、それと同時にさっき聞こえてきた私を罵倒する声も聞こえ始めた、どうなっているんだ。


私は突然の出来事に耐えられ無くなり咄嗟に武器を構える。

すると突然路地で襲ってきた影が私に襲いかかってきた!

その数は数え切れない、捌き切れそうに無い、なんて数だ、咄嗟に私はキャッツさんに助けを求めようと彼女の方を向いたが、やはり彼女にはその影が何も見えてない、それどころか再度武器を構えた私に少し困惑しているようだ。

私は武器を振り回しながら声にならない声をあげる。


「なんで!どうして!私何もしてないのに!」


「あなたもそうなんですか!私を!私を傷つけて!」


「どうして!こんな!」


影が私を覆い尽くす、痛い、痛すぎる、私の全身がまるで何かに飲まれて行くようだ。

傷は出ないが痛みだけを彼らは与えてくる、どういう攻撃なんだ。

飲まれる度になにかの声が私の脳に響きに渡る、

その声はどれも私の人格を否定するようなものだった。

私が叫ぶ度にその影達はどんどん大きくなる、まるで私の恐怖を糧にしているかのように。


キャッツさんがこちらに何かを言っている、だがその声は聞こえない、というかなんと言ってるか聞き取れない。

恐怖が私の五感を全て支配しているからだ。

今私の耳に入る言葉は全て私に対する罵倒にしか聞こえない、何も聞きたくない。


私は半ば錯乱状態となり彼女に襲いかかった、彼女さえも私に何か罵倒しているように感じてしまう。


私は叫び声を上げながら武器を振り回し彼女に向かった。

彼女は私の味方ではない、奴らのグルだ、私をこんな危険なところまで連れてきた明確な敵だ。


そう思うと一気に怒りが湧いてきた、彼女を、いや奴をここで殺さないと。



私は奴に斬りかかった。


奴は素早い身のこなしで私の攻撃を全て躱す、だが、奴からは何も攻撃してこない、それどころかまだ何かをこちらに訴えているようだ、どうせろくな事じゃない、それともこの期に及んでまだ仲間のフリだろうか、気持ち悪い、早く本性を表して私に攻撃をすればいいのに。


そう思っていると、奴の表情が変わった、その顔はとても悲しそうに見える。

私は一瞬動揺してしまい攻撃を止めてしまった、


次の瞬間奴は私を瞬時に組み伏せその後すぐに私は奴に絞め堕とされた。


組み伏せる時も絞め堕とす時もずっと彼女は悲しそうな表情をしていた。


私の意識が薄れると共に影も薄れてゆく、まるで私の意識と同化しているようだ。





そういうことだったのか。





全てを理解した私は、キャッツに対する申し訳なさでいっぱいになりながら意識を手放した。



もっと早く気づいていれば良かったのに






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