組織
「アルト、何故私は君を作ったと思う?」
「いきなりどうしたんですか?」
マスターが唐突に質問してきた、質問の意図がわならない。
マスターは私に悪いことを手伝わせるために作ったはずだが今更そんな事を私にさせるつもりはないだろう。
そんな事をわざわざ聞いた理由は一体なんなんだろうか。
「今更そんなことを聞く意図が分かりません、悪い事の手助けはしませんよ。」
「あぁ、やっぱり覚えてたんだね、その事について少し、話しておきたいことがあるんだ。」
「何度も言いますが悪い事は手伝いませんよ、それでも何か話すことありますか?」
「大丈夫大丈夫、そんな事を頼むつもりはないよ、少し真面目な話なんだ。」
マスターの声がワントーン落ちる、この声のマスターは本当に真面目な話をする時のパターンだ。
この時のマスターの話は基本的におちょくることができない、おちょくるような雰囲気がどこにもないのだ。
「私は君を最初は悪い目的で作った、それは本当だ。」
「知ってます。」
「だけど君と一緒に過ごすうちに僕の心は変わってきた、君をそんな事に巻き込みたくなくなったし、私自身そんな業界から足を洗おうと思った。」
「僕がここまで変われたのは君のお陰なんだ。」
「そんなこと言われると照れますね。」
「それでなんだけど、君にお願いがある、どうか聞いて欲しい。」
「君には人を守れるドールになって欲しい、その剣も誰かを守るために使って欲しいんだ。」
「人を守るドール?」
まぁ、マスターの言ってる事はとても大事なことだ、
私の剣はマスターを守る為にあるとも思っている、
他人の為にこの剣を振るう事は私はご遠慮願いたい。
この剣は私とマスターの為の剣だ。
「そう、私は君の事を誰かを傷つけるために作ったけど、やっぱりそんな事じゃなくて誰かを守るとか、なんと言うか、人の為になるドールになって欲しい。」
「私は今のところ私自身とマスターしか守るつもりありませんよ。」
「確かに今はそうかもしれない、だけどこれから生きていく間色んな人に出会うと思うんだ、
その時はその剣を色んな人のために振って欲しい。」
「これは僕というかマスターとして君に命令したい。君は人の為になるドールになるべきだ。」
そんなにお願いされてしまうと私も断るのが申し訳なくなる、本当は断りたいがマスターがこんなにお願いしているんだ、その命令をしっかりと聞き入れよう。
「しょうがないですね…まぁたまになら人の為に剣を振っても良いかもしれませんね、ならば!その命令、
ドールとして、しっかりと遂行しましょう!」
「アルトならそう言うと信じてたよ。」
「これからは出会う人達皆を大事にするんだよ、その出会いと経験はきっとアルトの役に立つと思う、
どんな事があっても、何があってもそれだけは忘れないで欲しい。」
その言葉を聞いた瞬間私の視界が白くぼやけた。
そうだ、私はーー
ーーーーーーーーーー
目が覚めるとそこは病室のような空間だった、周囲を見渡すとそこには、トゥナさんの姿が見える、どうやらあの時私が倒れた後ここに運ばれたようだ。
「あ!目が覚めましたね!」
彼女は私の傍まで駆け寄りなぜ私がここに運ばれたのかを説明してくれた。
どうやら私が倒れた後すぐにトゥナさんとカルムさんで奴らの親玉を倒したらしい
なんでも私が親玉に与えたダメージがかなり大きかったそうで直ぐに片付いたそうだ。
だが、カルムさんの傷が想定より深かったらしく今は他の病室で休んでいるらしい。
一応私より先に目は覚ましたようだがまだ動き回れるような状態ではないそうで、恐らくあの時は相当無茶をしていたのだろう。
「とりあえず、アルトさんのボディの修理は私達の組織の技術者方に任せましたがお身体の方は何も問題ありませんか?」
今の所体に異常は起こっていない、私のボディは色々なパーツを組み合わせれるように応用が効く素材が使われているのでよっぽど変なものを使わない限りは私の体に適応する。
「今の所特に以上は起こってませんよ、ご安心ください。」
「それなら良かったです、じゃあ、早速で申し訳ないのですがアルトさんに会いたい人がいるそうなのでここにお呼びしても宜しいですか?」
私に会いたい人物?マスターが見つかったのだろうか、それなら嬉しいのだが正直そこまで期待していない、
まあ、とりあえず会うだけ会ってみよう。
「私なら大丈夫です、もうその人はここに居るのですか?」
「あ、大丈夫ですか?じゃあ、今お呼びしますね。」
そう言うと彼女は部屋出て行った、それからすぐ彼女は一人の男性を連れて戻ってきた。
彼は少しやつれたような風貌をしており、話す前から彼が経験したこれまでの苦労を感じてしまう、この人がトゥナさんが会わせたかった人物なのだろうか。
「初めまして、私の名はケンゾウ、この組織での指揮を担当しています。」
「前回の作戦において、協力していただいた民間人の方がいるとの報告を受けたので、今回その協力者であるあなたに話を伺いに来ました。」
「なるほど?」
「特に、レベル2個体との戦闘において多大なる活躍をされたとの報告がありその辺についても少し話を聞かせてもらいたい。」
と言っても、私は特に特別なことはやっていない、
ただ私は、自分のやりたかったことをやっただけだ。
結局、奴らを倒したのはトゥナさん達だし私のした事は強いて言うなら、親玉の気を引いたくらいだ。
「特に大したことはやってませんよ、ただそこで人探しをしてただけです。」
まぁ結局見つからなかったのだが、
それでも生きて帰れただけ良い方だろう、
あの空間だと生き残るだけでも苦労しそうだった。
「ですが、彼らの話を聞くとあなたがいないと生きて帰れたかも怪しかったそうですよ、あなたの行動はそう簡単にできるものではありませんからもっと胸を張ってください。」
そう言われるとちょっと照れてしまう。
「さて、それで本題なのですが。」
そう言うと彼は腰を降ろし、少しかしこまった表情になった。
もしかして私の武装について言いたいことがあるのだろうか。
確かにレムルスでの武器の携帯は違法だ、
私もここに来てちょくちょく注意を受けている。
そういう時は基本的に、
これ以外のパーツがないと言えば渋々見逃してくれた。
今回もそういう注意だろうか。
「単刀直入に言うと私達の組織に入って欲しい、共に戦って現場の仲間を守って欲しいのです。」
なるほど、そう来たか。
「あなたくらいの戦闘能力だと加入直後から作戦に出ることになると思いますが、その分報酬も用意します。」
どうしたものか。
正直に言うと、マスターがいない今、私の懐がかなり寂しい状況である、
ホテルとかもマスターがとっててくれたので寝るとこすらも無い、
整備してくれる人もいないし、私の選択は一つしかなかった。
「入ります!入らせてください!」
そう言うと彼は少し驚いた表情をしたが、すぐに返事を返してくれた。
「そこまで元気の良い返事を貰えるとは思っていませんでした、ここの仕事は結構命懸けだけど本当に大丈夫ですか?」
問題ない、命懸けの状況なら何度も経験してる。
「大丈夫です、多少スリリングな仕事の方がやりがいもありそうですし。」
「でしたら、こちらの書類に名前等の必要事項を書いていただいてーー」
出された書類に書くべきことを書いていく、書いてる感じこの書類は元いた世界の履歴書に該当するらしい、
履歴書と聞くとふと、昔の事を思い出す。
かなり前の話だが一度、マスターに内緒アルバイトに応募しようとしたことがあった。
履歴書に色々書いてる時、私の気持ちは新しい事への挑戦に対するワクワクでいっぱいになっており、
新しい仕事の事やこれから出会う人間の事を想像すると、興奮で何度もペンを壊しそうだった。
だが、そんなワクワクは直ぐに終わる事になる。
求人紙の募集要項をもう一度よく確認すると端の方に
「人間のみ募集、人型ロボ・ドールは採用不可」
と書いており、
ドールである私はスタートラインにすら立てていなかった。
この瞬間はかなり自分に響いた。
今まで人間として過ごしてきた私が初めて人間として扱われない瞬間だったからだ。
自分は人間でなくドールだと言う事をこの瞬間、
身をもって味わった。
今までそんな事を思うことはなかったのだが、
この時ばかりは自分がなぜ人間ではないのか神に問いただしたかった。
マスター以外の人間と話す機会もあったが、
全員私のことを人間として接してくれていた。
今思うとみんな私に気を使ってたのかもしれない、
そう思うと少し申し訳なくなる。
なんにせよ私はこの「履歴書」とやらには苦い思い出しか残っていない。
自身が人間ではない事を思い知らされたこの「履歴書」をこれからも好きになる事はないだろう。
「書き終わりました、こんな感じでよろしいですか?」
「大丈夫です、ではこれはこちらの方で処理するので
次は施設の案内をしましょう、歩けそうですか?」
「多分もう歩けると思います、よっこいしょ。」
私はベットから起き上がり軽く体を動かした、特にこれといって不調は感じないむしろパーツが新調されて軽いくらいだ。
「問題なさそうですね、それでは、着いてきてください。」
私は、ケンゾウさんと共に病室を後にした。
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「とりあえず仮ですがここがあなたのオフィスです。」
「こちらの部隊の人数が少ないと文句が上がっていたので恐らくアルトさんはこのままこの部隊に所属する事になると思います。」
「なるほど?」
「アルトさんの仕事は基本的に屋外での活動になるの思いますが、ヴォルテックスの処理報告や異界漂流物の報告などデスクワークも時折あるのでその際はこちらのオフィスで活動する事をおすすめします。」
デスクワークがあるらしい、正直めんどくさい。
私は文章にまとめるのが苦手なのだ、
ある程度テンプレートはあるだろうがそれでも苦手なものは苦手だ、
出来るなら他の人にこの仕事は押し付けたい。
「報告書と言っても出会ったロストエコーの特徴や、
ヴォルテックス内部の様子、救助した民間人の事を書いて貰うくらいなのであんまり身構えなくて大丈夫ですよ。」
「くらい」と言うが私からすると充分多い、一文字事にボーナスでも出ないのだろうか。
「そういえば、アルトさんはどれくらいヴォルテックスについて知っていますか?」
「いやぁ…実は全くと言っていいほど知らなくて。」
「それなら、ちょうどこれからヴォルテックスについての講習があるので出席してみてはいかがですか?」
なんと都合のいいタイミング、ありがたく活用させて貰おう。
「あ、じゃあ折角ですし出席してみようと思います、
どこでその講習はあってますか?」
「それならそこまで私が案内しますよ、着いてきてください。」
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しばらく歩くとその講習がある場所に着いた。
小さな会議室のような空間でその中には数名の隊員と先生のような人が一人いてもうすぐ講習が始まりそうな雰囲気を出していた。
「では、私は一旦ここで失礼します、何かあったらオフィスの皆様にお訪ねください、では。」
そう言うとケンゾウさんはどこかに去っていった
もう少し色々聞きたかったが、ケンゾウさんが去ってすぐに講習が始まってしまった
「ではこれよりヴォルテックスの基本について学んでもらいます。」
なんとタイミングの悪い、今すぐにでもやめてもらいたいくらいだ。
「ヴォルテックスとは次元災害のことであり、内部ではロストエコーが徘徊しています。」
大体みんなの話を聞いてるとそんな気はしてた、そんなこといちいち言われなくてもわかってる。
「ロストエコーというのは我々に敵対的な存在で、如何なる方法においても彼らとの平和的に接する方法はありません」
もとよりあんな姿形のやつに平和的解決方法があると思うほうが間違いだ、どう考えても人類に敵対的なオーラを出しているに決まってる。
「彼らの体はEPD粒子とそれを収束させるエゴオーブによって生成されており、EPD粒子には物理攻撃が効きますがエゴオーブには物理攻撃が効きません。」
それは知らない、ここを聞けただけでも今回の講習に来たかいがあった。
「エゴオーブが存在する限りEPD粒子を再度収束させ再生を試みますが完全な再生には長い年月がかかるので基本的には気にしなくて大丈夫です。」
確かに、それならあまり気にしなくて大丈夫そう。
「彼らにはレベルが存在しており基本的に遭遇するのはレベル1かレベル2です。」
なるほど、じゃああの時屋上で出会った親分個体はレベル2だったのかもしれない。
「レベル1個体は一体なら一人で相手にしてもあまり問題はありませんが、レベル2個体だと複数人で撃破することをおすすめします。」
ふむ、大体わかってきた、要するに殴れば死ぬんだな?
理解。
「さて、ヴォルテックスの話に戻りますが、ヴォルテックスには中心にホーキング・コアと呼ばれる物体が存在しており、
それを破壊することでヴォルテックスの収縮が開始しやがて消滅します、
基本的に皆さんはこのホーキング・コアを破壊するのが任務となるのでこの辺はよく覚えておいてください。」
その後色々な話が続いたがそこまで集中力が続かなかったのでここからは覚えていない。
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「今回の講習は以上です、何か質問等ありますか?」
どうやら終わったらしい、ホワイトボードの消えない汚れを目で追って繋げる遊びをしてるとあっという間に時間が過ぎてしまう。
「特に何も無さそうですね、それではお疲れ様でした。」
そう言うと先生は直ぐに帰った。
正直みんなそんなに真面目に聞いて無さそうだったので先生も話してて楽しくなかっただろう。
私くらいかもしれない、真面目に聞いてたのは。
久しぶりにこんなに人の話を聞いたかもしれない、
なんだか凄く疲れた気がする、
今思うとレムルスに来てからずっと動きっぱなしだ、
休む瞬間といえば倒れて病室で寝てたくらいしかない、
自発的には1度も休んでいないじゃないか、
そう思うと余計に疲れが溜まってきた気がする、
少しだけ、少しだけこの部屋で休んでいこう、
ちょっと一息ついてしばらくしたらオフィスに戻って同じ部隊の人に挨拶をしなければ。
こうして私はちょっと一息のつもりで休んだのだが。
結局眠ってしまい、そのまま警備の人に起こされるまでぐっすりだった。
入隊初日にしては先が思いやられる1日であったがその分学びも大きい、
明日こそもっとより良い1日にしよう、そう思いつつ廊下のベンチでそのまま二度寝をすることにした。




