屋上
カルムさんと合流した私達は屋上を目指し歩みを進めた
彼曰くこの階段なら屋上まで繋がっているらしく
私達三人は階段を登りながら作戦について話した。
「とりあえず、私は前衛で囮をするので隙を晒した相手にカルムさんとトゥナさんで反撃を入れて貰う作戦が良いと思います、私はそこそこ重装なので多少の攻撃なら大丈夫ですし、カルムさんやトゥナさんの実力だと相手の隙に攻撃を入れるのも安定して成功すると思います。」
「良い作戦だと思う、民間人にしてはかなり筋の通った作戦だ、でも僕の戦い方はかなり前衛寄りなんだよね、だからもしかしたら君より前衛に出て戦う必要がきっと出てくる、それでも良い?」
「私は、隙を確実に仕留めたいから今までと同じようにアルトさんの後ろで隙を伺いますね。」
「それでは、カルムさんが先行し敵にダメージを与えて貰いトゥナさんが追撃を入れて仕留めてもらう作戦で行きましょう、私は状況に応じて二人のサポートに徹します。」
「いいね、それで行こう。」
「それなら皆様のスタイルにあった方法で戦えそうですね。」
我ながら良い作戦だと思う。
マスターは良く「作戦を立てろ」と言っていた。
マスターがよく立てる作戦の傾向は私もよく真似して
こう言った事前に準備すると言ったことがそこそこ得意になっていた。
「先程、ビルに入る前に屋上を観察したところ奴らは複数体いるようなので皆孤立しないよう注意して戦って囲まれた際お互いカバー出来るくらいの距離を保ってください。」
「わかった、じゃあそろそろ着くよ。」
「緊張しちゃいますね…」
遂に屋上に続くドアの前まで着いた
ここのドアを開けると奴らが待っている。
死に対する不安な気持ちと、この人達と一緒なら
大丈夫と言う自信がせめぎ合い
不思議な感情が溢れ出す。
きっと勝てる、勝たなきゃここから脱出もできないし
マスターも探せない、勝たなければならない。
私はドアをゆっくりと開け向こうの様子を伺った。
外には奴らが数体おりどれも大きい。
その中でも一際目立つ存在が一体混ざっている
腕と顔が極端に大きくなりその部位には棘のようなものを纏っている。
あんなもので潰されたら一溜りもないだろう。
外から吹く風が私達の頬を伝う、それは私達の不安を逆撫でするかのように冷たく、鋭かった。
1度ドアを閉め最後に準備することはないかもう一度皆に聞いた。
「じゃあ、何も無ければ突入しますよ。」
「言われなくてもそうするつもりだった。」
「え?もう行くんですか?」
皆大体準備は良さそうだ
トゥナさんは、もう少し待ってそうだったが直ぐに髪と襟を整え刀を抜いた。
これからご飯食べいく訳じゃないんだから別に襟は正さなくても良かったのだが。
何となく私も襟を正すとトゥナさんが少し笑ってくれて、おかげでふんわりと心が安らいだような気がし思わず笑みがこぼれてしまう。
「君たち何してるの…」
「何となく。」
カルムさんは少し呆れた様子でこちらを見た
無理もない、これから服がボロボロになるような戦闘前にして襟を正す馬鹿が何処にいるんだ。
カルムさんの反応は正常である。
だが、戦いというのはやはり気分も大事だ、こうやって気分を高めることで自身の闘争心が刺激されきっと戦いも優位に進むだろう、多分。
「気分ですよ気分、カルムさんもちょっと戦う前のひと準備いかがですか?」
トゥナさんが尋ねる、どうやらもっとこの文化を広めたいらしい。
カルムさんは明らかに困惑したような顔をしている。
まぁ、こういうのは好きな人がするんだからそんなに無理してやるものでもない。
そもそも、彼の服装には整えるような襟はなく、代わりに大きめのフードが彼の首元にあった。
私は、カルムさんに無理しなくて良いとだけ伝え、そろそろ突入すると伝えた。
「あ!待ってください!」
そう言うと彼はズボンを上にあげベルトを整えた、フードもめくれてないか確認し、グローブも付け直した。
なるほど、そう言ったスタイルもありなのか。
中々機転の効く人である、こうやって今自分が出来ることを短時間で導き出せるのは優れた戦士の素質だ。
いや、やらなくていいんだけど。
こうして我々の準備が整ったので、武器を構えドアを再びゆっくりと開けた、幸いにも奴らはまだこちらに気づいておらず、もう少し近づけそうだった。
「奴らはまだこちらに気付いてなさそうなので出来るだけ接近し、可能なら不意を着いて先制しましょう。」
「先制は僕の仕事だね。」
「それなら私は怯んだとこに追撃しますね。」
「そんな感じでお願いします。」
奴らに近付きつつ隙を伺ってると、その中の1人が集団から離れ、辺りの捜索を始めた。
どうやら我々の気配を察知したらしい、奴ら全体の動きが少しピリついたような感じがし、群れ全体が慌ただしくなってきた。
私達がバレるのも時間の問題だろう、それなら手始めに離れたヤツから処理していこう。
私は離れた奴に攻撃するように仲間に目配せすると、仲間達もその意図を察したのか武器を構え直した。
「行こう、デシレ・ヴォン」
突如として彼は飛び上がり奴の腕を切り裂いた。
宙を舞いながら繰り出すその一撃は敵の目を欺き二度、三度、と何度も繰り返し行われた。
奴は、唐突な出来事に理解が追いついていないのか、もう片方の腕を乱暴に振り回してきた。
だが、彼はそのような攻撃に対しても的確に反撃を入れ遂にはその腕すら切り落としてしまった。
音をも置き去りにするような斬撃、正しくそのような表現がピッタリだった。
彼の一撃は早すぎる、それでいて正確だ、あのような技術は一朝一夕では身につかない、だが彼はまだ幼く見える、一体どれ程までの訓練を詰んだのだろうか?
彼の方に到着してしばらくそんな事をずっと考えていた、すると体制を崩した奴に対してトゥナさんが呟いく。
「おやすみなさい…」
その瞬間、奴の体が二つに割れた、空間そのものが歪むような切れ込みが奴の脳天から股にかけて現れそのまま倒れて塵になってしまった。
「はいおしまい。」
「一体は仕留めましたね。」
「まだまだ来ますから、油断しないでください。」
先程の物音を聞きつけ奴らの群れがこちらにやってきた、全部で三体、でかいヤツ一体と取り巻きの中型サイズが二体だ。
正直前なら諦めてたかもしれないが、今なら行ける気がする。
奴らがこちらに向かってくる、そろそろ私の仕事だ、
盾を構え敵の方に向かう、その時だった。
「打ち崩せ、ラピド・デュトルワ。」
突如として背後から銃弾の嵐が降り注ぐ、鉄の嵐は奴らの体を貫き、群れの進行を遅らせる事が出来た、だが巨大な個体は止まることを知らない、嵐を、その規格外な腕で弾き返しながらこちらに向かってくる、さながら鬼神の襲撃と言ったところか。
奴は死をも恐れぬ勢いでこちらに向かってくる、カルムさんが射撃を続けてくれてるおかげで群れの連中は来れてないが、こいつはきっと止まることを知らないだろう。
私の出番だ。
私は、奴の進路上に立ち盾を構えた、前に踏み込み、腕に力を込め、叫ぶ。
「ハイガード!」
奴の動きが止まる、正確には多少押されはしたが問題のない範囲だ。
先程のガードのおかげか奴の動きが少し鈍くなった、
そこにすかさずトゥナさんが現れ強烈な一太刀を奴の怯んだ方の腕に浴びせ深い傷を負わせる事が出来た。
「隙、見せちゃったね。」
彼女はひっそりとつぶやき、だが、その声からは確実に歓喜の様な声色を発していた。
表情も恍惚としており、とても正気には見えない。
だが、直ぐにいつもの雰囲気に戻った。
「皆さん!先に取り巻きから倒しましょう!カルムさんが奴らの動きを封じトゥナさんでトドメという形で!
私は親玉のヘイトを買って状況に応じ適宜守りに向かいます!」
「わかった!トゥナさんの狙う個体の動きを重点的に封じればいいんだね!」
「頼みましたカルムさん!」
カルムさんと トゥナさんは取り巻きの方に駆けて行く、
時折カルムさんは射撃を行いその度に奴らを怯ませ、猛スピードで接近して行った。
時折奴らは瓦礫を飛ばしてくるがその度に、軽むさんは華麗な身のこなしで避けており、トゥナさんは刀で弾いていた。
こうして、彼らは一瞬で奴らの足元に到着し交戦を開始した。
奴らのうち一体がカルムさんに腕を振り下ろす、だが彼はその腕に飛び乗り、そのまま何度も斬りつけた。
奴はカルムさんを振り落とそうとするが、彼はのらりくらりと攻撃を交わしていく、そのまま数秒も満たないうちに腕を斬り落としてまった。
もう一体がカルムさんの方に向かってくる、咆哮を上げながら乱暴に腕を振り回し彼を殺す勢いで彼らの方に走り出した、カルムさんは避けようとしない、絶えず斬り続けそのままもう片方の腕を落とそうとする勢いだ。
このままでは彼は潰されてしまう、そう思い彼らの方に向かおうとしたその時だった。
「信じて、くれたんですね。」
突如として、強烈な真空波が突撃してくる奴に対して襲いかかった、それは奴の動きを止めるどころか、そのまま振り回した腕を切り落とす勢いだった。
彼女はゆっくりと納刀し奴の方に近づいた、奴は近づいてくるトゥナさんに攻撃を仕掛けようとしたが彼女は、全て紙一重で交わし、一歩一歩、ゆっくりと、だが確実に距離を詰め、遂に奴の目の前に着いた。
巨大な腕が彼女に降りかかる、だが彼女は避けようとしない、彼女は、目を瞑っている、彼女の髪と奴の腕が触れたその瞬間、彼女の姿が消えた。
彼女は奴の後ろに回り込んでおり、そのまま、遅れて奴の腕が落ちた、彼女は塵を払いそのまま刀を納めた。
この感じなら彼らは私の力を借りずに勝利できそうだ。
さて、私はこうやって彼らの行動を観察しているがただ観察してる訳では無い、私は私で奴らの親玉の注意を引く大事な仕事を任されてる、
こいつの攻撃は止まることを知らない、私の腕も限界を迎えつつある、
一撃一撃が重く、私の腕に確実にダメージを与えてきており、腕からきしむような音も聞こえてくる、
時折フェイントのような動きを加えており、
その度に私は盾の向きを変え反応しなければならないので、この腕はもうこれ以上耐え切れそうにない。
だが、ただ受けてるだけでは無い、トゥナさんが最初に与えた傷に対して、私は攻撃を加えている、おかげで奴のヘイトは私から変わることはなかった、しっかりと自分の仕事を果たせて満足である。
奴は再度腕を振り下ろす、私は、満身創痍だが、奴の攻撃を受け続けるために盾を構え直したその時だった。
「おまたせ!」
カルムさんが奴の腕に飛び乗りそのまま何度か斬撃を与えた後こちらに着地した。
「待たせてごめんね、でも、もう大丈夫だよ。」
「大丈夫、ベストタイミングです、今来てくれるのが一番ちょうど良かった。」
そのまま続けてトゥナさんがこちらに到着した、
「遅くなりました、アルトさん、無事ですか?」
「こちらは無事です、トゥナさん達も無事ですか?」
見た感じ平気そうだが一応確認しておく。
「僕は全然平気、まだまだ戦えるよ。」
「私も平気です、髪も崩れてないし、襟も整ったままです。」
どうやら全員無事なようだ、この感じだと全員戦闘に参加出来そうだ。
私達は武器を構え直し奴の攻撃に備えた。
私は盾を構え直し、トゥナさんは刀の塵をもう一度確認した、カルムさんはマシンガンのリロードをして、剣を構え直した。
ここからが本番だ。
「ヴォン、ドュテルワ、行くよ。」
初撃はカルムさんからだった、彼は奴の後ろに回り込み、トゥナさんが最初に与えた傷に対して的確に攻撃を入れた。
斬撃と射撃の複合攻撃、どちらも奴の傷に対して外すことなく攻撃を続けている、この調子なら奴の腕を斬り落とせそうだ、私とトゥナさんが奴に追撃を入れようとしたその時だった。
突如奴が頭を振り回した、その巨大な頭はカルムさんを吹き飛ばし、彼を床に叩きつけた。
「カルムさん!!」
幸いにも彼は受身を取れたようだ、叩きつけられた後、直ぐに立ち上がり体制を立て直した、だがそれでも傷は深い、彼は血を吐き、かなり無理をしてるように見える、流石にこれ以上は彼の命が危ない、私とトゥナさんは彼の護衛に回った。
「動かないでください!今処置します!」
トゥナさんは素早く彼を安全な場所に運び、カルムさんの容態を確認した後、傷の手当を始めた。
しばらく二人は戦えそうにない。
彼らを守らなければ。
奴はこちらに向かって走り出した、周りにあるもの全てを吹き飛ばしながらこちらに近づいてくる、あの進路上にいるものは何も残らないだろう。
その進路上に私達は居る、このままだと私達は轢き殺されてしまうだろう。
ここで止める。
私は、奴の進路上に立ち、大きく踏み込み、腕に力をめいいっぱい込め腰を低く落とした、ここまであと大体…
10…9…8…7…6…5………
奴はもうほぼ目の前にいる、私は奴の攻撃を受け止めれるのだろうか
4…3…2……
私が奴を止めなければ、攻撃を防げなければ後衛の皆にも被害が及んでしまう。
だが、そうはさせない
何故なら私は
マスターが生み出した最高傑作
「自立型戦闘用ドール、アルト・スタイン」なのだから
「いち……ゼロ!!!」
「ハイガード!!!!」
奴はこちらに両腕を振り落とした、巨大な塊が頭上に降り注ぐ、私もそれに合わせ盾に力を込めた。
瞬間、火花が散る、奴の腕と私の盾がぶつかり、強烈な衝撃が私を襲う。
重い、重く鈍い衝撃が私の腕を伝い全身に響き渡る、想像してた何倍も重量を感じ、腕が悲鳴をあげるような音を上げてるような気がした。
やつは私の何倍も大きい、だがそれが私を打ち崩す理由にはならない。
私なら
これを
弾き返せる
ーーーーーーー
重い金属音が辺りに響き渡る、その音はこの空間全体に広がるような、それくらいの衝撃を誇る音だった。
床が凹んでいる、それどころか建物全体が凹んでるような印象を感じる。
私と奴の攻撃は、それ程までの衝撃をもたらした。
私はもう、立てそうにない、先程の力比べで脚部のパーツが逝ってしまった、無理もない、建物全体が凹むほどの負荷をこの細い足に与えてしまったのだ、むしろまだこうやって足の感覚があるだけありがたいと思うしかない。
私は、そのまま膝から崩れ落ちてしまった、しばらくはこのまま動けないだろう。
だが、敵もタダでは済まなかったようだ。
先程ぶつかりあった両腕はもはや原型を留めていない、そして、先程のぶつかり合いの影響で足腰にもかなりダメージが来ているように見える、現に、奴の立つ姿は先程よりも弱々しく見え、時折膝から崩れ落ちそうな体制にになってる。
私は、薄れ行く意識の中彼らの姿を確認した、二人はこちらを見つめ、どちらもこれまでに無いような真剣な表情をしている。
どうやら私はここまでらしい、手足はもう動かない、こんな姿を彼らに見せたくはなかった。
奴がこちらに向かってくる、きっと私にトドメを刺しに来たのだろう、だが、もう私は抵抗できない、辛うじて首が動かせる程度だ。
どうか、彼らが無事であって欲しい、そう思いながら私は意識を手放した。




