次元災害
無数の異なる世界の中継地点である界港都市レムルス。
巨大な浮島に佇むこの都市はどんな生物も等しく受けいれてくれる。
様々な種族が混じり合うこの都市には多様な文化が形成されておりかく言う私アルト•スタインも異世界からやってきた異世界人の1人だ。
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今、私はマスターと共にレムルスにて古くなった私のパーツを修理するために各地の工具店やジャンクショップを回っている。
そのままでも良かったのだがマスター曰く探したいものがあるらしく、今日はその探し物を見つけることがメインの目標である。
「アルト!!!!」
「ねぇアルト聞いてる?!」
甲高い声が店の中に響く
店主に迷惑だと思わないのか
そう思いながらも変わらないマスターの声に少し安心する。
「どうしましたか?マスター」
「もう!絶対聞いてなかったでしょ!最近多いよ?そういうの。」
マスターはお怒りのようだ、ここ最近私はぼうっとする事が多くなってきている。
このような注意されたのは今回が初めてではない
昨日もまた、全く同じ注意をされており気をつけようと思っても中々意識することが出来ない。
疲れが溜まってるのだろうか。
私はぼんやりとした意識を急いで正常に戻し博士に返事をした。
「申し訳ありません…それでどうされたのでしょうか…?」
「よくぞ聞いてくれた!これだよこれ!」
そう言ってマスターは錆びた塊を見せてきた
見たところ本当にただの錆の塊のようだが
どうやらマスターにはこれがとても貴重なものに見えるらしい。
彼の目には一体何が写ってるのだろうか
私はどうにもそれが気になってしまいマスターに聞いた。
「これは…なんでしょうか…サビの塊…?」
「違うんだよなぁそれが!ほらここ!よく見て見て!」
マスターが指をさした先には僅かに隙間がありそこから少しだけ秒針のようなものが見えた。
ほとんど錆に覆われているが僅かながらに装飾のような物も見える、こんな姿になる前はさぞ綺麗な見た目をしていたのだろう。
この塊はどうしてこんなに錆びてしまったのか、考えるとキリがないこれ以上考えるのはやめよう。
「これは…時計ですか?ほとんど錆びて原型を留めてませんが…」
「そう!正解!よくわかったね!流石うちの子!良い目をしてる!」
どうやら正解だったらしい、しかしこんな錆びた時計を彼はどうするつもりだろうか。
正直、マスターの事だからろくな事にならない気がする
こんな事は前にもあった、よく分からないものを拾って、よく分からないものに改造してよく分からない問題を引き起こしていた。
その度に私は迷惑をかけたとこに出向いては謝罪しに行っていた。
もう同じことを繰り返してはならない、少し怖いが何をするかだけでも聞いておかなければ。
「マスター、これで何するつもりですか?返答によってはあなたを止めなければなりません。」
「あ!それなんだけどね…実はね…」
マスターにしてはかなり勿体ぶっている、余程やましい理由でもあるのかやはりマスターと言ったところか。
どちらにせよ早く目的を聞かなければ。
「そんなに勿体ぶるくらいとんでもない事にその時計を使おうとしたんですか…ダメですよマスター悪い事はもうしないって決めたじゃないですか。」
マスターは昔かなり悪い事でお金を稼いでいたらしい、
違法な武器の作成や、禁止された実験などなど…
数えたらキリがないくらいには悪さをしてきた。
私を作った理由もそういった悪事の手伝いをしてもらう用に作ったそうだ。
しかし現実はそう上手くいかなかった、
作られたばかりの私は何も知らない赤子も同然でそもそも悪事以前に基本的な知識から教育しないとダメだった。
そうして、マスターは私を育てていくうちに少しづつ人間らしい心が芽生えたそうだ。
そのおかげで私はまともな感性を手に入れることが出来た、素晴らしい教育である。
もう悪いことからも足を洗って今では旅の修理屋をやっている。
私もその手伝いをしてマスターからお駄賃を貰っているのだ。
「全く…悪さはしないって前決めたんですからちゃんと守ってくださいよ〜?破ったら私ほんとに怒りますよ」
「ちがっ…そんなのじゃない!違うから!ほんとに!」
マスターはこう言っているが「そんのじゃない」事は1度もない。
今回もどうせろくでもないことに使うつもりだろう
やはり私の推理は正しかった。
早く考えを改めて貰うためにも少し強く言わなければ。
「ほんとですか〜?じゃあなんでさっきあんなに勿体ぶったんですか〜?なにか良くないこと思いついたんじゃないですか〜?」
「…」
…少しいいすぎたかもしれないてでもこれもマスターがまた悪さをしない為だから仕方ない…
それでも少し心が痛む、謝るべきだろうか。
「マ…マスター…少し言いすぎました…すみません…その…やっぱり何をするか怖くて…」
「…」
マスターは何も言わない、完全に言いすぎた
こんな感じのマスターはかなり珍しい。
マスターは本当に何を言おうとしたんだろうか
何はともあれここは謝らないとまずい。
「マスター、私はーーーー」
その時だった
突如として当たりが暗くなり次元が裂けだした
同時に、突風が私達を吹き飛ばし
私とマスターは散り散りになってしまったのだ
もう私の声はマスターに届かない
私はマスターに謝ることが出来なかった
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マスターと私が散り散りになってどれほどの時が経ったのだろうか。
ひとまず、私は状況を確認するために当たりを探索した
がどうにも周りの様子がおかしい。
私以外の全ての人間が動かない
まるで、時が止まったように。
どうやら、この空間で動けるのは私だけらしい
だが、やはりマスターの安否が気になるので
私はもう少しこの空間の探索を続けた。
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かなり歩いたと思う
この空間を探索して気づいたことが幾つかある
まず一つ、ここはどうやら先程までいた街とはかなり様相が変わっている
例えば、ビル同士が混じり合い現代アートのようになっていたり
明らかにこの辺りの景観とは合わない建造物が並ぶようになっている
そしてもう一つ気づいたこと
それは私以外にも動ける生物がここに存在することである
だが、そいつは意思疎通が取れる存在ではなかった
私を見かけるや否や襲いかかって来たのだ
直ぐに私はその場から離れ今は身を隠しているが
まだ、奴はすぐ傍にいる
どうしたものか
恐らく奴はそこまで強くない
動きは遅く、隙だらけだ
だが、無駄な戦闘は極力避けたい
奴が一人かどうか分からないので無駄に戦闘をして増援を呼ばれたりしたらかなり困る
だが、ここで一生隠れてても埒が明かない
ここでやつを倒さなければ私は一生ここに隠れたままだ
それは困る、まだやり残したことが沢山あるのに。
奴は私を探している、恐らく見つかるのは時間の問題だろう、ならそうなる前に片をつければいい。
速攻試合だ
私は奴の前に飛び出し反応される前に深手を与えようとした。
だが、そう上手くは行かず奴は私の姿を視界に捉えるとその巨大な腕を振り回し私を吹き飛ばそうとした。
私はすぐに盾を構えたが奴の攻撃は想像より重く、私は壁に飛ばされてしまった。
「結構重いねぇ…君ぃ…」
思わず独り言が漏れてしまう、奴はこちらに近づいてきているが私も直ぐに立ち上がり反撃の体制を整えた。
こいつは攻撃の後隙がかなり長い、私が吹き飛ばされ
無防備な時に奴は追撃を入れて来なかった。
守り、斬れば、勝てない相手ではない。
私は直ぐに奴の懐に潜り込み攻撃を誘った
奴は腕を振り下ろし私を叩き潰そうとしてきたが
先程の攻撃で奴の攻撃の重さは知っている
私は盾にありったけの力を込め奴の攻撃を防いだ
「ハイガード!!!」
奴の体制が大きく崩れる、恐らく渾身の一撃だったのだろう。
だが私の盾の前では無力だ、先程は食らってしまったがもう、どんな攻撃であろうと私は防いでみせる
この勝負、私の勝ちだ。
「やっぱり君の攻撃は遅いね!さっきのお返しだよ!」
面白いくらい簡単に反撃できたので思わず声が出てしまう。
奴の腕に斬撃を入れたが見た目以上に脆く簡単に切断することが出来た。
トドメを入れようとしたその時、奴が突如として叫び出した。
辺りに奴の咆哮が響き渡る、それに呼応するように周りにいたであろう奴の仲間達も咆哮を上げ始めた。
まずい、囲まれてしまう、恐らく咆哮の位置的にかなり近くに奴の仲間はいる、今から逃げても遅いだろう。
隠れようにもこの状況だともう間に合わない
戦うしかない
幸いにも先程の傷はそこまで深くない、まだ戦える
この辺りのやつを全て片付けてしまえば私はここから帰る事が出来る。
無謀だがそう考えなければ絶望で潰されそうだった
私は勇気をふりしぼり戦闘態勢に入った。
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やはりと言うべきか
依然状況は劣勢
今現在私は、無数の奴らに囲まれている
何体かは仕留めたが不利なことには変わりない
正直もう勝てる気がしない、盾も刃もボロボロだ
このまま戦っても無駄になるだけだろう。
奴らが近づいてくる、もう目と鼻の先だ
私の死が近づいてくる音がする
「流石にここまでかな…」
思わず独り言が漏れる、もう絶望しか残っていない
弱音が私を蝕んでいく
ネガティブな思考が私を覆い尽くしていく
私にはもう、死ぬしか残っていないのか。
いや、そんなことは無い、最後まで私は戦える
最後まで戦って奴らの数を少しでも減らしてやる
私と戦ったことを後悔するくらいに苦しみを与えてやる
そうして私は最後の力を振り絞って立ち上がった
奴らの数を少しでも減らすために
「…生存者を発見、救助に向かいます」
私が、奴らと戦ってると突然謎の声が聞こえた
その瞬間何者かが傍に現れ目の前の奴らを切り捨てた
「…そこの民間人の方、怪我は無いですか。」
そう言って彼女は私に手を差し伸べてくれた
服や手袋には砂埃を被っており、風貌から察するに恐らく彼女はここに来るまでの間に何体もの奴らを仕留めている。
相当の手慣れだ、少なくとも戦える人間が私だけではなくなった。
心底安心した私は彼女の手を取り自信が無事である事を伝えた。
「救援感謝します、私は無事なのでお気になさらず。」
「無事なら良いのですが、見た所かなり傷を負ってるように見えます、手当をするから動かないでください」
そう言って彼女はトランクから包帯などを取り出し応急処置を施した。
お陰様で先程より随分と楽になった、少なくとも自分一人で歩けるくらいには楽になった。
「おかげで楽になりました、ありがとうございます。」
「あなたが無事なら良かったです、ところで、他に生存者はいらっしゃいますか?」
「いえ、今のところ私以外に生存者は見かけていません、どこに行っても私一人でした。」
正直自分以外に動ける人間がいるなんて思わなかった
これからずっと私は一人で生きていく想像をしてたので彼女の救護にはにはかなり感謝している。
彼女は他に生存者を見ていないのだろうか。
「そういえば、あなたのお名前は?レポートに書かなければならないので差し支えなければ教えて貰うと助かります。」
「私ですか?私はアルト、アルト•スタインと言います、そちらのお名前は?どうしてここに?」
「トゥナと申します、この辺りでパトロールをしていたのですがヴォルテックスに巻き込まれたので民間人を探してたらロストエコーと戦うアルトさんを見かけたので救助に来ました。」
どうやら私が戦ってたのはロストエコーというらしい
力が強いだけの生物にしては随分とかっこいい名前をつけられている。
「そのロストエコーってやつはもうこの辺にはいないのでしょうか、もしいないのなら少し武器の修理をしたいのですが大丈夫でしょうか?」
「そうですね、恐らくこの辺りのロストエコーは私とアルトさんでかなり処理できているはずです、だから修理に集中してよろしいと思われます。ですができる限りここから急いで離れたいので急いで貰えるとありがたいです」
「ありがとうございます、では少しだけ待っててください」
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この武器の修理には金の修理粉と銀の水を混ぜることで簡単に終わらせることが出来る。
金の修理粉を武器にかけ銀の水を塗ることで傷ついた部位に修理粉が馴染み直ぐに元通りになる。
塗った直後だと直ぐに刃こぼれしてしまうが、塗ってからしばらく待つと元の耐久度と同じくらいには元通りになるので耐久性もバッチリだ。
「お待たせしました、すぐに出発できます」
「ではここからビルを右に曲がった先の道路から直進してすぐの所がヴォルテックスの終端があるのでそこまでアルトさんを送ります」
送る?という事はトゥナさんはまだここから脱出しないのだろうか、この空間を1人で探索するのはかなり危険だと感じる。
流石にトゥナさんが心配なので私も同行させて貰えないだろうか。
確かに一刻も早く脱出したい気持ちもあるが、まだここにマスターが残ってる可能性もあるしもう少し探索を続けたい。
少しトゥナさんにどうこうできないか尋ねてみよう。
「送るということはトゥナさんはここからまだ脱出しないのですか?私はもう少しここで人探しをしたいので良かったら一緒に行動しませんか?トゥナさんの目的にも協力しますし盾くらいにはなれますよ。」
「うーん…確かに一刻も早くこのヴォルテックスを止めたいしそう言って貰えるのはありがたいですがやはり民間人をヴォルテックスの中心に連れていくと上層部から怒られそうで…」
上層部がどれくらい厳しいかは知らないなきっとふたりとも無事で帰れば何も言われないだろう。
むしろその上層部は単独で中心に向かう方が危険そうだし厳しく指導しそうだが、どうなんだろうか。
だがこの調子だとおそらく私も同行できそうだ。
あと一押し、もう少し説得しよう。
「お互い無事で帰ったら上層部もきっと何も言いませんよ!ささ!行きましょ!」
「そうですよね!きっとそうですよ!良かった…!正直一人じゃ私も心細かったんです!同行者が出来て本当に良かった!」
説得成功だ、これで私ももう少しこの空間の探索を続けられる。それにしても中心とはなんだろうかそこに一体何があるのか私も気になってきた。
恐らく彼女が言うにはその中心にあるものできっとこの次元を治せるのだと思う。
そしたらきっとマスターも見つかりやすくなるだろう。
なら私も一刻も早くこの次元の中心に向かわないと。
待っててくださいマスター、必ず見つけますから




