第三章:舞踏会の夜
王宮の舞踏会。
煌びやかなシャンデリア、貴族たちの華やかな衣装。
カルトラは、控えめな青のドレスで会場に入った。
目立たず、でも品位ある装い。
王太子エリヤスは、すでに会場に到着している。
冷たく、しかし端正な顔立ち。
ゲームではヒーローだが、実際はかなりツンデレで、人見知りらしい。
そして──
「カルトラ様。ごきげんよう……」
ぎこちないカーテシーをして、カルトラに声をかけてきたのは、ヒロインのリゼッタだった。
平民出身だが、魔法の才能に恵まれ、王立魔法学院に推薦された少女。
優しく、謙虚で、誰からも好かれるタイプ。
カルトラは、心の中で深呼吸をする。
「リゼッタさん、お久しぶり。今日もとても素敵なドレスですね」
「……え? あ、ありがとうございます……?」
リゼッタは戸惑ったように驚いたが、すぐに微笑んだ。
おそらく、カルトラが優しく話しかけるなんて想定外だったのだろう。
「実は、あなたの魔法の才能、とても尊敬しています。私ももっと勉強したいと思って」
「……本当に? カルトラ様が?」
「ええ。これからも、教えてもらえませんか?」
リゼッタの目が、ぱっと輝いた。
「もちろん! ぜひ!」
そのやり取りを見ていた周囲の貴族たちは、ざわめく。
「カルトラ様が、平民の娘に?」
「まさか、策略か?」
だが、カルトラの態度は一貫して誠実だった。
その様子を、エリヤスは遠くから見ていた。
「……変わったな、シュナイドール令嬢は」