第二章:舞踏会の前日
三日後の舞踏会に向けて、カルトラは徹底的に準備を始めた。
まず、性格を改める。
高圧的でない言葉遣い、控えめな振る舞い、そして、他人への思いやり。
「お嬢様、今日は随分とお優しいご様子ですね」
女中長のマーガレットが、不思議そうに言う。
「ええ。これからは、もっと皆に好かれるような令嬢になりたいの」
「それは……驚きです。ですが、嬉しいことです」
カルトラは、シュナイドール家の図書館にこもって、魔法の基礎を学んだ。
前世では魔法なんて信じていなかったが、ここは異世界。
魔法は存在し、貴族の子弟は皆、何らかの才能を持っている。
しかし、カルトラの魔法適性は「無」──ゲームではそう設定されていた。
だが、彼女が古い書物をめくっていると、一冊の黒い装丁の本に目が止まった。
『封印された力:古代魔法の真実』
「……これ、もしかして……?」
ページをめくると、そこに書かれていたのは、「根源魔法」という、世界の始原に通じると言われる失われた魔法体系。
そして、その使い手の特徴が、彼女に一致していた。
「金髪、青眼、左手に月の紋……?」
カルトラは自分の左手を見る。
そこには確かに、薄い月の形をした痣があった。
「まさか……カルトラは、根源魔法の適性者なの?」
だが、その力は危険すぎるため、古代の王族によって封印されたという。
「……封印、解除できるかな?」
彼女は慎重に呪文を唱えた。
微かに、左手の紋が光りだす。
その瞬間、体中に力が満ちるような感覚。
まるで、眠っていた何かが目覚めたようだった。
「でも、今はまだ、誰にも言えない」
カルトラは本を隠し、舞踏会の準備に戻った。