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第六章 小さな合図の七日間 ― 足跡のように ―

目を覚ますと、窓の外に見慣れない街路樹が並んでいた。

朝の光はやわらかく、どこか昨夜とは違う町の匂いがする。

今日も、一週間だけの始まりだ──そう思うと、胸の奥が少し震えた。


朝、郵便受けの前にリボンが結ばれているのを見つける。

誰かの忘れものだろうかと思って手に取ると、端に小さな鶴の刺繍。

青い鶴の色に、見覚えがあるように感じた。

胸の隅がくすぐられるように、懐かしい光が一瞬だけよぎる。


昼、町の広場のベンチで休んでいると、向こう側を歩く人が一瞬こちらを見た。

目が合わなかったはずなのに、その人の手の動きが何かを包み込むようで、

記憶のどこかが静かに触れたような気がした。


夕暮れ、喫茶店の前を通りかかったとき、ふと心が引かれるようにして中へ入った。

窓際のテーブルに腰を下ろすと、青い紙片が一枚落ちていた。

拾い上げると、それは鶴の刺繍と同じ青色の紙だった。

指先に残る紙の感触が、いつになくあたたかく感じられた。


──七日目の夜。


いつものように不思議な本を開く。

ページの余白にリボンの刺繍と同じ色で、小さな羽が描かれていた。


本を閉じる前、ページの間に指を差し込むと、かすかな香りが立ちのぼった。

それはコーヒーでも、パンの湯気でもない。

鉄と土の匂いがまじった、どこか懐かしい夏の気配。

匂いは一瞬で消えたけれど、胸には“誰かの気配”が確かに残った。


この世界で何度も目にした青い印は、もう偶然ではないように思えた。

誰かが、忘れられないように小さな合図を残してくれている。


それが誰なのか、何のためなのか──分からない。

けれど、次に目覚めるとき、私はその合図を辿ってみようと思った。


小さな青い鶴の刺繍、青い紙片そして一瞬だけ動いた手の動き。

それらが、足跡のように続いている。

どこか遠くで、誰かが待っているかもしれないという頼りない予感が、胸の奥でそっと灯っていった。

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