第五章 社会人の一週間 ― 小さな光とともに ―
目を開けると、椅子の背に見慣れないスーツが掛けられていた。
袖に指先を触れると、少しだけ背筋が伸びる。
大人びた感覚が胸の奥で静かに広がった。
朝、同僚と一緒に書類をまとめていると、ちょっとしたミスに気づいた人が声をかけてくれた。
「大丈夫、一緒に直そう」
その言葉に、胸の奥がふっと軽くなる。
“支えてもらえる”ということが、こんなにも前を向けるのだと、教えてくれた。
昼、上司への報告を終えると、「よくやったな」と短い言葉が返ってきた。
たったそれだけなのに、胸の奥に深く染みる。
認められるということが、こんなにも力になるなんて知らなかった。
仕事を終えた夜、喫茶店に立ち寄る。
窓辺の席でコーヒーを前に、今日の出来事をひとつずつ思い返した。
そのどれもが、働く日々の中で小さな光となって、私を照らしていた。
──六日間はあっという間に過ぎていった。
同僚と声をかけ合いながら仕事を進め、先輩に何度も助けられ、上司に小さく褒められる。
その一つひとつが、働く日常にやさしい灯をともしていた。
七日目の夜。
いつもの喫茶に立ち寄った。
コーヒーのカップの横に、小さな青い折り鶴が添えられていた。
驚いて顔を上げると、店員が穏やかに微笑んで言った。
「目印は、きっとあなたを導いてくれますよ」
その言葉が、なぜか胸にストンと落ちる。
カップから立ちのぼる湯気まで、やさしい光に包まれているように感じた。
夜、不思議な本を開くと、ページが静かに薄れていった。
残されたのは、同僚の支え、先輩の言葉、上司の短い褒め言葉、
そして喫茶店で受け取った折り鶴の青。
記憶は薄れていくはずなのに、その温かさだけは消えずに胸に残った。




