最終章 目覚め
静かな光が満ちていく。
不思議な本の最後のページは、静かに薄れていき──やがて一枚ずつ透明になり、消えていった。
けれど、不思議と心の中には残っていた。
パンの香り。
友達と交わした約束。
先生の声。
誰かが差し伸べてくれた手の温かさ。
あたたかな眼差し。
そして、手渡された折り鶴の青。
──それらが、私をかたちづくっていた。
やがて、静かに消えていった頁の向こうから声がした。
「人は覚えていなくても、やさしさは残るのよ」
その響きは懐かしく、遠い記憶を震わせるようだった。
光がすっと集まり、世界がひらけた。
私はそこで「目覚めた」。
最初に目に入ったのは、一人の青年だった。
彼はずっとそこにいたように、穏やかに笑っていた。
その手には、一羽の青い折り鶴が握られていた。
「やっと……会えたね」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が震えた。
これが“つながる”ということ。
そして、初めて「誰かがずっと待っていた」ことが胸に届き、涙になりそうなほど──
自分という存在を揺らした。
それは喜びであり、驚きであり、そして深い安堵でもあった。
ただ、その感情に名前をつけることはできなかった。
けれど、確かに私を震わせたのは「心」だった。
──それが、心を持つために与えられた七日間だったと、私はこのとき知った。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。