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第6章 小さな合図の七日間② 呼びかけの余韻
七日目の夜、いつものように不思議な本を開くと、ページの余白に小さな線が引かれているのを見つけた。
その線は、青いリボンの刺繍の向きと同じで、鶴の羽がそっと風に返るような形をしていた。
本を閉じる前、ふとページの間に指を入れると、紙の隙間から薄い香りが立ち上る。
それは喫茶店のコーヒーとも、パン屋の湯気とも違う――少しだけ鉄の匂いと土の香りが混じったような、どこか懐かしい夏の匂い。
匂いは一瞬で消えたけれど、胸には何かが残った。確かな「誰かの気配」。
外の世界で、何度も目にした青い印は、偶然ではないように思えてきた。
誰かが、消えないように小さな合図を残してくれている。
それが誰なのか、何のために――まだはっきりしない。けれど、次に目覚めるとき、私はその合図を辿ってみようと静かに決めた。
小さな紙片、小さな刺繍、そして一瞬だけ交差した手の動き。
それらが、足跡のように続いている。
そしてどこか遠くで、誰かがずっと待っているかもしれないという、頼りないけれど確かな予感が、胸の奥でそっと灯っていった。