第6章 小さな合図の七日間① 足跡のように
目が覚めると、窓の外に見慣れない街路樹が並んでいた。
朝の光は柔らかく、どこか昨夜とは違う町の匂いがする。
今日も一週間だけの始まりだ──そう思うと、不思議と胸が期待で少し震えた。
駅までの道で、郵便受けの前に小さな青いリボンが結ばれているのを見つける。
誰かの忘れものだろうかと手に取ると、リボンの端にごく小さな折り鶴の刺繍がしてあった。
青い羽は、これまでどこかで見た気がする色だ。胸の隅がくすぐられる。
昼、町の広場のベンチで休んでいると、向こう側をゆっくり歩く人が一瞬こちらを向いた。
目が合わなかったはずなのに、なぜかその人の手の動きが折り鶴を包むようで、記憶のどこかに触れたような気がした。
店先の匂い、子どもの笑い声、雑誌のページをめくる音──いつものやさしさがこの町にもあふれている。
だけど、繰り返し目にする青い印は、まるで誰かが小さな道しるべを残しているみたいだった。
夕暮れ、喫茶店の前を通りかかったとき、ふと心が引かれるようにして中へ入った。
窓際のテーブルに腰を下ろすと、端に青い紙片が一枚落ちているのが目に入る。
拾い上げると、それは折り鶴の角の切れ端のようだった。
手のひらに残る紙の感触が、いつになく温かく感じられた。