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3 戦闘開始

 接近してくるデモンアーミーの『ポーン』の外見は、訓練中の立体動画と同じく背中の翼を含めた全身が真っ黒な影というものだった。単色で立体感がないために現実感が薄いところまでそっくりだわ。


「厄介ね……」


 気が付けば私は小さく呟いていた。……良かった。誰にも聞こえてはいなかったよう。自分で言っておいてなんだけれど、何も知らなければあんな一言、キャラクターになりきっているとしか思えないものね……。

 なお、本当にそういう意味で言ったのではないので念のため。それでは一体何が厄介だと私が感じたのかを説明していこう。


 デモンアーミーが厄介な理由、それは顔のパーツがないことだ。「目は口ほどに物を言う」なんて上手いことを言ったもので、人間というのは存外たくさんの情報を顔に表示させているものだ。それは意識してのものだけではなく無意識のものも含まれている。


 例えば『目』。基本的に視線の先にあるものへと意識が向いている場合が多く、興味や関心がある割合も高い。

 さっきの私のように、思わず口から漏れ出した言葉は本音であるケースが多いし、各パーツを総合した表情はその時々の感情に直結しているものだ。


 人の目を気にしながら、他人の顔色を伺いながら生きてきた私――リアルの話ですが何か?――にとって、表情や顔の動きから対象の次の行動を予想するのは常態化していた。これを奪われてしまった訳で、大きなマイナス要素だったのだ。


 さて、どうするかと悩んでいる間にも他の人たちは行動を開始していた。

 真っ先に飛び出していったのはやはり少年アバターの彼だった。「ぬ、抜け駆けすんな!」と悪態を吐きながらそれに続いたのがチャラ男プレイヤーたち訓練時の成績上位陣だ。

 あっという間にお互いの攻撃圏内に入り、激しい応酬が巻き起こる。


「……やる気にあふれている人たちがいるみたいだし、戦闘のメインはあの人たちに任せて陽動とかく乱に注力しますか」


 戦いの混乱が少なそうな所へ向かい、数体のポーンの前で挑発するようにふわふわ飛んでやる


「はーい、こっち……、ってもう釣れた!?」


 無言のまま――口もないので――伸びた手の爪で引っ掻いてこようとする動きを掻い潜り距離を取る。あちらの攻撃方法は手の爪による引き裂きに加え、回し蹴りのようなモーションで足の棘を飛ばしてくるという二つだ。

 後者は弾数が少なく切り札的な扱い方をするので、基本的には手の爪による引き裂きに注意していれば問題ない。


「とはいえ、うわっ!?最初から一度に数体は、うひっ!?難易度が高かったかも!?」


 周りと取り囲むような動きをしないだけまだマシだったが、途切れることなく次々と繰り出される攻撃はかなり怖い。


「くうっ!やっぱり表情が読めないとやり難い……!」


 高度な知能でこちらとの駆け引きをしてくるのではない一方で、生き物っぽい行動を取るようなプログラムがされているのか、淡々と最短距離で仕留めにこようとしないのがまたやり難い。


「ふっ!はっ!……って今度は何!?」


 何度目かになる攻撃を避けた瞬間、私を追いかけてきていたポーンたちが次々に消し飛ばされていく。


「……ああ!攻撃部隊からの狙撃かあ!」


 なるほど、こうやって時間を稼ぐことで倒してもらえるのか。ゲームのメタ的な見方をすると、攻撃が得意ではないプレイヤーへの救済措置ということになるのだろう。

 ふと、ゲームの中であることを思い出して気持ちが軽くなる。どうやらVRの真に迫った光景にいつの間にか呑まれてしまっていたらしい。


「……ふう。よくよく考えればリアルの世界にデモンアーミーだなんておかしな奴らはいないし、人が単独で自由に空を飛び回るだなんてことできる訳がないのよね」


 空を飛ぶ云々に関しては一部界隈だとそれらしいものが作られているとかいないとかいう話だけれど、少なくとも実用化までは数十年という単位で時間が必要になってくるはずだ。

 そしてデモンアーミーについては言うにも及ばない。ネットが発展して誰も世界中に情報発信ができるようになって久しい世の中だ。「人の口に戸は立てられない」とはよく言ったもので、こんな珍生物、発見された途端に大騒ぎになるに決まっている。


「すー、はー……。よし、頭も冷えたところで、気楽にもうちょっと頑張りますか」


 なんと言ってもゲームなのだから楽しまないとね。

 まずはぐるりと周囲を見回して状況の把握に努める。成績上位の連中は相変わらず奥の方で多数のポーンを相手にドンパチやり続けている。時々雄叫びも聞こえているので、まだまだ元気そうだ。そのまま引き付けておいてもらおう。


 それ以外は数人でグループになって小規模な戦いになったり、鬼ごっこになったりしているようだ。危険なのは一方的に追い回されているグループだろうか。

 VRはハマるとすごい反面、トラウマにもなりやすい。せっかく数少ない第二陣に選ばれたのに、怖くなって辞めてしまってはもったいない。


 しかし、戦闘の横入りはダメ絶対の重大なマナー違反だ。自分でも悠長だとは思うが、動きを読んで先回りしておき声掛けから始める。

 

「すいません!助けに入りましょうか?」

「お、お願いします!」


 答えた人以外も必死な顔でコクコクと頷いているので、すぐにポーンの群れに向かって【ショットガン】を撃つ。致命傷にまではほど遠くても牽制としては十分以上の効果がある。それに広範囲に散らばるから狙いが甘くても問題ないのが素晴らしい。


「たあああああ!!」


 動きが鈍った連中に突撃して、一体をすれ違いざまに構えた【ソード】で攻撃する。この時のポイントは当たっても当たらなくてもそのままスピードを緩めないこと。敵は複数なので、囲まれてしまっては不利になる。


「今です!狙わなくていいから攻撃して!」


 声を張り上げたと同時に、ポーンどもへとガンタイプの攻撃が殺到する。タイミング的に、私が言うよりも先に準備を終えていた可能性が高い。焦って逃げ回ってはいたけれど、精神的に追い詰められていた訳ではなさそうだ。


 あと、今さらの説明となるが〔ウェポンデバイス〕の攻撃は全て「目視できるビームっぽいもの」となっている。アニメとかでよくあるやつよね。

 一応AFO独自の設定としては、「精神力由来の特殊なエネルギー塊」ということになっているみたいだ。そもそもデバイスシステム自体が使用者の精神に作用・感応・共鳴することで効力を発揮する、らしい。


 エンジェルフォース、つまりプレイヤー――と極一部のNPC――はデバイスシステムとの相性が良い貴重な存在という立ち位置になる訳だ。

 加えて、その汎用性の低さから戦力を揃えることができず、数で勝るデモンアーミーに押されている、というのがゲーム開始時の状況だったりする。


 話を戻そう。ともあれ、これだけやり返せるなら彼らはもう大丈夫そうだ。


執筆意欲増進のためにも、評価等もよろしくお願いします。

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