1 プレイ開始
リハビリがてらに書いた新作です。
全7話で毎日一回投稿します。
「これは遊びでもなければ訓練でもない。実戦だ」
(今の台詞、どこかで……?)
教室のような部屋の前方に立った目つきの鋭い女性がそう言った瞬間、私は強い既視感に襲われていた。
しかし、すぐに「ネットで予習をしていたからだろう」と結論付ける。
ここはVRMMOゲーム『エンジェル・フォース・オンライン』、通称AFOのスタート場面だ。発売が開始されてから一ヵ月、運よく第二陣に当選した私はゲームスタートの今日という日を心待ちにしつつ、アバターとなるキャラクターを作り込んだりねっとで様々な情報を仕入れまくっていたのだった。
だからこそ、教官である彼女の言葉を知っているのも当然なのだ。
(それに……、割とよくある台詞だしね)
それこそネットで検索すれば、該当する類似のワードはいくらでもヒットするだろう。そんなことを考えている間にも女性の話は進んでいく。
「本来であれば、軍人となるための門を潜ったばかりの諸君を動員するなど愚の骨頂だろう。だが、すまない。今この場には君たちしか奴らと戦える者はいないのだ。どうか力を貸して欲しい」
そう言うと彼女は深々と頭を下げる。「鬼教官唯一の殊勝なシーン」などと揶揄されている場面だ。
AFOは近未来を舞台にしたSFチックなバトルゲームであり、この世界は『デモンアーミー』と呼ばれる謎の敵対生物からの襲撃を受けている。
プレイヤーたちはそれに対抗するための組織、『エンジェルフォース』の一員となるべく、養成所や士官学校に入学したばかり、というところから物語は始まる。
詰めれば百人は入れるだろう部屋には五十人ほどが座っており、その内の三分の一くらいがプレイヤーかしらね。残るは雰囲気と数合わせのためのNPCたちだろう。
「説明が終わったところで、さっそく諸君らには迎撃ポイントへと移動してもらう。行くぞ!」
そして画面が暗転。キュイィィィンと近未来的な乗り物が移動する音がしたかと思えば、巨大な倉庫のような場所へと場面が移り変わっていた。
「この場に集められたのは〔ウイングデバイス〕に適性のあった者たちばかりだ。もちろん武器も支給することになるのだが、君たちにはその機動性を活かして接近してきているデモンアーミーどもに陽動とかく乱を行ってもらいたい」
どうやらここでプレイヤーとNPCが分けられたようだ。ちなみに〔ウイングデバイス〕はその名からも分かるように空を飛ぶための装置で、使用するには先天的な適性が必要という設定になっている。
それにしても、陽動とかく乱とは上手く言ったものだ。要はチュートリアルであり「自由に動き回ってゲームに慣れろ」ということなのだろう。
「あの、ちょっといいっすか?」
ここで一人のプレイヤーが手を挙げた。染めムラのある茶髪に右耳には複数のピアスが。リアルで遭遇したならば真っ先に「チャラい」という印象を抱きそうな外見だ。それなのに首から下は支給された戦闘用スーツをしっかり着込んでいる状態なので、違和感と場違い感が酷い。
「本来であればその言葉遣いは厳重注意の対象なのだが……。今は非常時出し大目に見るとしよう。質問を許可する」
「あざっす。あの、陽動とかく乱?が俺らの任務って言ってましたけど……」
そこで意味ありげに言葉を切るチャラ男プレイヤー。
「別に倒してしまっても構わんのでしょう?」
凍り付く空気。まさかVRゲームの中で間でそれを体験することになるとは思わなかったわね……。異様な雰囲気の中で当人だけは「言ってやったぜ」的な満足げな表情だった。言う機会を狙っていたのは間違いないわね。
しかし、いくら有名な台詞とは言え他作品のものをぶっこんでくるのはいかがなものか。ほら、教官も固まってしまっているじゃない。あれはAIもどう反応していいものか迷っているのでしょうねえ。
「……ぷっ、ははははははは!こいつは傑作だ!まさかひよっこにもならないルーキーがそんな大見得を切るとは!」
わお。そう返してきますか。しかし、私の予想はまだまだ甘かった。
「こんなに笑ったのはいつ振りだったかな。いやはや楽しませてもらったよ。……だが、大口を叩いたんだからそれに見合うだけの結果は出してもらおうか。貴様にはノルマとして生きて戻ってくることに加えて最低一体以上デモンアーミーを撃破してもらう。ノーとは言わさんぞ」
「う、うっす……!」
射抜くような目で睨まれて、チャラ男プレイヤーはすくみ上りながら答えていた。うわあ……、あれが「答えはハイかイエスだ」ってやつなのね……。
「さて、こいつ以外に無謀で勇敢なものはいないな?それでは改めて諸君への任務を伝える。うん?そんなに身構えなくとも無茶なことは言わない……、いや、正式な軍人でもない君たちを戦場に送りだそうという時点で十分に無茶なことだったか」
話の途中で急にばつが悪そうになる教官。ネットでの感想の中には「AFOのAIは数代先取りしているほどの高性能」だなんて書かれているものもあったが、本当なのかもしれない。
「あー、繰り返しになるが君たちの役割は陽動とかく乱だ。〔ウェポンデバイス〕も支給するが、生きて帰ってくることを第一として行動して欲しい。それでは各自得意な武器を選んでくれ。分からなければ『オススメ』を押せば各自の適性に合ったものが自動で選択される」
今度はいきなりゲームらしい説明に顔をしかめそうになる。なんともはや、技術料の差に混乱してきそう。
そんなことを思いながら武器をを選んでいく。
初期の〔ウェポンデバイス〕は近距離系タイプと、遠距離系タイプに大別できる。
近距離系タイプは有効範囲の狭い順から【ナイフ】、【ソード】、【ブレード】の三種類。
【ナイフ】は両手にそれぞれ持つことが可能な反面、有効範囲は狭いし威力も一番弱い。
【ブレード】は一番威力があり有効範囲も広いけれど、両手振らなくてはいけないという制限がある。
そして【ソード】には特筆すべき長所がないけれど取り立ててマイナス要素もなく、片手が空くことで一部の遠距離武器を同時持ちできる。
一方の遠距離系タイプには【ショットガン】、【ライフル】、【マシンガン】の三種が用意されていた。
【ショットガン】は発射方向へ円錐状に有効範囲が広がり複数への攻撃が可能だけれど、一発ごとの威力は弱くて致命傷を狙うためには接近する必要がある。片手持ち可。
【ライフル】は有効射程も長く貫通性能に優れていている反面、一発ずつしか撃てないしリロード時間も長い。片手持ちは不可。
【マシンガン】は一発ごとの威力は低いけれどその連射性能によって圧倒することができる。複数人で弾幕を張るといった使い方もできてしまう。攻撃時は片手持ちも可能だ。ただしマガジン交換という特殊なリロードを両手で行わなくてはならず、大きな隙ができてしまう。
このように用意された武器には一長一短が設定されていて、問答無用で無双できたりはしないようになっていた。まあ、AFO自体がそういったコンセプトのゲームではないからね。
制限時間ギリギリまで散々迷った挙句、結局私は汎用性の高い【ソード】と【ショットガン】にした。無難な選択だという指摘は甘んじて受け入れるわ。
執筆意欲増進のためにも、評価等もよろしくお願いします。