26-1. ここに国語辞典があったら単語にマーカーを引いちゃうね
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「そうなると、じーさんの本名って何なんだ」
「儂の本名?」
「ああ、領主様の名前がランコー・インラーンさんなんだったら、じーさんもナントカ・インラーンなんだろ?」
「儂はただのインラーンじゃよ。インラーン辺境伯というのは、手柄を立てて貴族になった平民の名前がそのまま家名になったものじゃ。強いて言うならインラーン・インラーンかの」
乱交・淫乱。
淫乱・淫乱。
やれやれ、何だか愉快な名前の貴族だ。
ここに国語辞典があったら単語にマーカーを引いちゃうね。
「御主人様。インラーン氏は凄いんだぞ。この街、いや、この国でその名を知らぬ者は居ないほどの英雄だよ」
「私も幼いころ、街中で吟遊詩人が父の武勲詩を唄うのを見る度に誇りに思ったよ。‥‥今となっては鍛冶職人になると言ってフラフラされていますがね」
ランコーがインラーンを恨めしそうに見ると、老人は「褒めるな、褒めるな」と息子の背中を叩いた。
その後も三人で何やら楽しそうに話している中、サトウだけが輪に入れないでいる。いたたまれなくなった彼は手を揉みながら会話に割り込んだ。
「常識がほとんど無い俺にも分かるように、その武勲とやらを教えていただけませんかね。へへ」
「ふむ、そうだな。君はこの街にどれだけの獣人が住んでいると思う?」
「冒険者ギルドでも見かけたし、市場のでも働いているのを見たことがあるな。でもそんなに多くはない気がする。一〇分の一とか?」
「御主人様はまだ獣人街には来たことが無かったしな。正解は3分の2だったはずだ」
「三分の二!?」
「ギルドの周辺に人族が集中しているだけで、この街は獣人のほうが多いのじゃよ」
「そう。そして父が英雄と呼ばれる前、この街は絶滅危惧種とされていた獣人が身を寄せ合う小さな集落だった」
「絶滅寸前と言われていた獣人人口を、この街のみならず国規模で急増させた英雄こそ。このインラーン氏だ」
「何だかワクワクしてきたぞ。どうやってそんなに人口を急増させられたんだ?」
絶滅危惧種とされていたような種族だ。悪い貴族に奴隷にされたりもしたはず。
きっとインラーンは、そんな囚われた獣人たちを開放して回ったのではないか。
世直し旅。救国の英雄。サトウには眼前のウサ耳の老人が輝いて見えた。
「なぁに、簡単なことなのじゃ」
「教えてくれよぉ!勿体ぶらず、教えてくれよぉ!」
「セックスじゃよ」
正直そんな気はしていた。
インラーンはいつもサトウに優しくしてくれている老人だが、今までに英雄っぽさを感じたことなど一度も無いのだから。
カテゴリ分けするであれば、彼もまたミルフィーユ同様「厄介者」カテゴリなのだ。
明らかにテンションの下がったサトウを尻目にインラーンが続ける。
「人口が減っているであれば、とにかく増やさねばならん!儂はこの街におった獣人のおなご全員に種を撒いた後、他の獣人のおなごを探して国中を旅して回ったのじゃ」
東に病気のおなごあれば行って看病してやり、回復した後にセックス。
西に疲れた母あれば行ってその稲の束を負い、家まで送り届けた後にセックス。
サトウの眼前にいたウサ耳の老人は、汚い宮沢賢治だった。
「ガッハッハ!サトウ殿!分かっておる、分かっておる。儂一人だけで獣人人口をどうして増やせたのか疑っておるのじゃろう」
「いや、別に。もうあの、そんな興味ないっていうか‥‥。まぁあの、はい」
汚い宮沢賢治だ!汚い宮沢賢治だコレ!
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