23-3. 温かい紅茶とアップルパイを用意したよ
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「着いたぞ。荷物を取ってこい。この後、領主邸へ移送する」
奴隷商の館前。
馬車を停めた治安維持隊の隊士が、鉄格子の鍵を開けながらサトウに命令する。
馬車の音を館内から聴いていたのかアッサラームが扉を開けて出迎えた。
「ミルフィーユ!無事だったかい?怪我は?」
「私には怪我はないよ。今日も御主人様がゴブリンに囓られただけさ」
「サトウ様が?‥‥あぁ、まぁそれはどうでもいいが。さぁミルフィーユ。温かい紅茶とアップルパイを用意したよ」
「俺、このオッサンあんまり好きじゃない」
アッサラームはミルフィーユの背中を撫でながら、彼女だけをエスコートして応接室へ入っていく。
後ろを歩いていたサトウが入ろうとすると応接室の扉が閉められ、中から「サトウ様は荷物を取ってきてはいかがですか」と声がした。
「あのオッサンさぁ!ずっと俺のこと嫌いじゃん!別にいいけどね!オッサンと仲良くなんて、したいわけじゃないんだからね!」
サトウの見張りに付いている館の従業員に愚痴をこぼす。
この従業員から愚痴が都度報告されているため、アッサラームとサトウの中が拗れる一方なのだが。SNSで日常のストレスを発散する世代の彼は別に気にしていなかった。
「あとコレね!部屋ね!」
サトウには犯罪奴隷用の牢があてがわれていた。
しかしミルフィーユは客室で寝泊まりしているらしい。
殺人罪で逮捕されたとはいえ、冤罪だという話はしたし、領主のおかげで処分も保留になっている。だがサトウは犯罪奴隷用の牢で、その奴隷のミルフィーユ(犯罪奴隷)は客室。
そもそもサトウと出会う前からミルフィーユ専用に整えられた客室であり、ほぼ彼女の自室だそうだ。
サトウは牢に置いてあった残りのスライムの外皮を取る。
今日の分と合わせて五枚あることを確認した彼が急いで応接室へと戻ると、応接室の前ではミルフィーユたちが待っていた。
「俺のアップルパイは?」
「アップルパイなんて高級スイーツ、そういくつも入手できませんよ。元より私とミルフィーユの分しか用意しておりません」
「御主人様。紅茶も美味しかったよ」
「戻ってくるまで数分も経ってないじゃん。二人して急いで飲み込んでんだろ。高級スイーツってんなら絶対味わったほうがいいのに」
サトウが「一〇日間、小さい嫌がらせしてくんの何なの」と言っている最中に、アッサラームが手を叩いた。
「ささ、外で隊士が待っておりますよ。領主様に失礼のないよう行ってらっしゃいませ」
アッサラームに急かされ館外へ出されたサトウは、ミルフィーユと共に鉄格子付きの馬車に乗り込んだ。
荷物をドサッと置くと不機嫌そうに座るサトウ。
「サトウ様。ミルフィーユのこと、くれぐれもよろしくお願いしますぞ」
鉄格子越し。メッカに向けて土下座しているミルフィーユのスキンヘッドを撫でながら、アッサラームがサトウへ笑いかけた。
「このオッサン、くれぐれもよろしくお願いしたい態度だったか?」
アッサラームのことを無視して、ミルフィーユに話をふるサトウ。
奴隷商側とサトウの関係は修復できないまま。馬車はまた進み出した。
アップルパイより、普通に、パイの実が好き。
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