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18-1. ジョーカーの悪口だけは止めとけ

 この物語はフィクションです。

 作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、

 特定の事件・事象とも一切関係はありません。

「サトウ。極東出身。冒険者」


 木製の椅子に縛り付けられた状態で、三人の日本人に囲まれているサトウ。

 どうあがいても抜け出せそうにないので半ばヤケクソに答えた。


「き、極東のどこ、し、出身なんですか?」

「やれやれ、それは個人情報だから言えないな」

「リ、リテラシーがちゃんとしてるんですね。じ、じゃあ僕らの方から自己紹介を‥‥痛っ」


 会話を進行しようとする眼鏡の男の肩を、ユウヤが殴った。

 そのまま首を軽く傾けた。後ろに下がれという合図らしい。


「お前が仕切ってんじゃねーよ。よぉ、俺はユウヤだ。もう知ってるだろうがスキルは『透明化』だ」

「どーも、ユウヤ君」


 勝手に自分たちの情報を喋ってくれるのであれば好都合。

 ユウヤに二発も殴られているサトウは、彼のことをちゃんと嫌いになっている。

 できるだけ情報を引き出して必ず地獄へ送ってやるぞ。イキリヤンキーめ。


「俺は日本では、町内最大規模の暴走族『東京MAN-ZOC(マンゾク)』初代総長だった男だ。曲がったことが大嫌いだからよぉ、そこんとこ夜露死苦」


「町内?」

「あぁ。俺たちトーマンは、これから大きくなる予定だったんだがな。異世界転移(こんなこと)になっちまってよぉ」

「トーマン?卍?」

「あの、伝説の暴走族『ジョーカー』の構成員の従兄弟も所属するようなチームだったんだ」


「ジョーカー?‥‥ダ、ダセェ!バイクに乗れるような年齢の集団が名乗るにはあまりにもダセェ!」

「おいおい、ジョーカーの悪口だけは止めとけ。お前、消されんぞ」


「誰が消しに来るんだ、異世界まで。やれるもんならやってみてくださいよ、珍走団が」

「ン゙、ン゙ー!ジョーカーは珍走団じゃねぇ!ジョーカーは凄いんだ!馬鹿にするなぁ!」


 拳を振り上げたユウヤを、太った男がまた羽交い締める。

 それにしても、よくキレるヤンキーだなぁ。サトウは心底不思議そうに思った。


 日本に居たころは多少(・・)失礼なことを言っても相手は赦してくれていた。

 それどころか「自分のために厳しくしてくれているのだ」と都合よく解釈し、高感度が突然カンストすることも珍しくなかったのに。

 異世界に来てから人間関係がうまくいかない。不思議だなぁ。


「ユウヤ君、止めるんだな。君もあまり挑発しないでほしいんだな」

「ごめん。バッドコミュニケーションだったな」


「それじゃ自己紹介の続きなんだな。僕はマンプク。ユウヤ君と一緒にこの世界にやってきたんだな」

「よろしく。マンプク君が浴場内で攻撃をしてきた人?顔に似合わずエグいことするのな」


 この日本人集団の中に、ミルフィーユの片腕を吹き飛ばした者がいるはず。

 そんな攻撃、サトウに当たれば一溜まりもない。片腕どころか全身吹き飛ばされても可笑しくないだろう。


「その、えぇと、僕のスキルは『夢喰い』というんだな」

「夢を喰って、夢の中のダメージを相手に反映するとか、そういうやつか!強そう!」


「ちち、違うんだな!このスキルは、自分含め任意の対象に、ごちそうをお腹いっぱい食べる夢を強制的に見せることができるんだな」


 彼らもサトウと同様、異世界転移する前に神と面会している。


挿絵(By みてみん)


 その際、マンプクは神に「夢の中でもお腹いっぱいご飯を食べたいんだな」と願い、このスキルを入手した。実にややこしいスキル名とその効果だ。

 大衆浴場でミルフィーユやサトウが、オーラルコミュニケーションⅡの授業中のような眠気に襲われたのは、このスキルによるものである。


「透明化に、強制的に夢を見せる(眠らせる)スキル。‥‥エロ同人の中の人たち?」

「そういうことに使ってないと言えば嘘になるし、否定はできないんだな」


 透明化スキルを持つ覗き魔がリーダーを務める集団だ。

 ろくなことに自分のスキルを使っていない事は容易に想像できた。

 地元の極一部の人間が恐れていた暴走族が「ジョーカー」です。

 学生時代、「友達の友達のお兄ちゃんがジョーカーに所属してる」とか、

 「夜中、単車の音がうるさかったべ?アレ、ジョーカーの集会らしい」とか、

 聞いたことはあるのに、実際に所属していた人間に会ったことがありません。


 あれか?ダラーズ的なチームだったんか?名前はあるけど実態はない的な?

 何であれ、ジョーカーの悪口だけは止めといたほうがいいです。知らんけど。

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