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2-1. 空中にブォン!ってなるタイプのやつ

 この物語はフィクションです。

 作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、

 特定の事件・事象とも一切関係はありません。

「ご、ごめんなさぁあい!もう、ゆ、ゆ、許してくださぁあい!」


 異世界転移したどこにでもいる普通の高校二年生だったはずの青年サトウタケルは、早速、女性から馬乗りでボコボコにされていた。


「イダッ、い、いつも通り初対面の女の子の頭を、思わず撫でただけなのに!」

「それがキモいんだよ!次アタシの目の前に現れたら殺すからな、この極東人(イナカモン)!」


 サトウの脇腹に本気のトーキックを見舞うと女性は去っていく。

 彼女の後ろ姿と揺れる尻尾(・・・・・)を見ながら、サトウは数分前のことを思い出していた。


 初めて異世界。初めての空気。初めての街並み。そして初めて見る人種。

 転移直後、目の前を通り過ぎた女性の頭には猫耳。臀部にスリットの入った短パンからは尻尾が伸びていた。


 獣人というやつだろう。ラノベ、漫画、アニメで何度も見た定番種族だ。

 是非お近づきになりたい。日本に居たころから人と仲良くなるのは得意だったんだ。


 彼女を後ろから追いかけたサトウは、断りもなしにその猫耳に触れ「あぁ、ごめん。あまりに可愛かったものだから。今ちょっと良いかn」と言ったところで、顔面に肘を叩き込まれ、そのままボコボコにされたのだった。

 短い回想を終え、少し痛みもマシになったため何とか上体を起こす。


「グギギ、ふう。酷い目に遭った。やれやれ、異世界の女の子は勝手が違うみたいだな」


 そこで初めてサトウは周りから注目されていることに気づく。

 こちらを見て何やら騒いでいる者もいるがキーンという耳鳴りの音でよく聞こえなかった。


「へへっ、どうも。心配させたかな。なんてことない。大丈夫ですよ俺は」


 サトウは左手を上げると軽くヒラヒラと振って痛くないアピールをする。

 視界に入った左手の小指と薬指は、第3関節から曲がってはいけない方向に折れ曲がっていた。


「は、はわわっ!俺の指がっ!」


 全身くまなく痛いせいか、不思議と指の痛みを感じないことに怯えるサトウに、革鎧を着込んだ男が話しかける。


「兄ちゃん、大丈夫か。酷い目にあったな。でもありゃアンタが悪いぜ」

「何が悪かったんだよ」


「そりゃアンタ。突然、女の体なんか触ったら嫌がられるだろうし、ましてや相手は獣人。返り討ちに遭うに決まってんだろ」

「そんな!じゃあ不可抗力で胸を揉んだり、スカートの中に顔を突っ込んだりしたらどうなるんだよ!」


「ンなことしたら治安維持隊に突き出されるか、相手によっちゃ殺されるだろ。どっかおかしいのかアンタ」

「何だって。早くこっちの常識に慣れないと身が持たないぞ」


「こっちの常識に慣れる?‥‥そうか、その黒髪黒目。さっきの子も言ってたが極東人(イナカモン)か。島国出身はクセのあるやつが多いからな」


 自分が日本人ということを誤魔化すために「東の方から来た」と言ったり、和風文化の島国から来たことにする、異世界転移作品の定番イベントに思わずサトウはワクワクする。

 しかし黒髪黒目なんて探せば島国以外(この大陸?)にもいくらでも居るだろ。とは流石のサトウでも少し頭をよぎった。


「そ、そうなんだ。こっちに来たばかりでさ。冒険者になりたいんだけど、どこに行けばいいかな」

「それなら冒険者ギルドだな。通りをずっと進んでこの区画の中心地にあるデカい建物だから分かりやすいぞ」


「あと、この指を治療できる場所ってある?‥‥うわ、これ。よく見たら凄いな。凄いことになってるよこれ。具合悪くなってきた」

「二区画先に治療院があるが治癒魔法の代金は高いぞ。これから冒険者になるって人間にはまず払えん。ギルドに都合よく新人の治癒魔法使いが居ることを祈るしかないな」


「あぁそう。そっか。ありがとう。とにかくギルドに行ってみるよ」

「ちょっと待て」


 ギルドに向かおうとしたサトウを革鎧の男が呼び止めた。

 先ほど受けた暴行の恐怖から、今度は情報料でも取られるんじゃないかと身構える。

 そもそも自分はこの世界の通貨を持っているのだろうか、と考えていると男がサトウの左手を掴んだ。


骨折(これ)。治癒魔法をかける前に元の位置に戻す必要があるんだが、ついでだし俺がやってもいいぞ」

「痛い?」

「痛いに決まってるだろ」

「やめて!ほっといて!」


 拒絶された男は「どうせなら興奮して痛みが鈍いうちがいいんだけどな」と言いながら頬をかく。

 サトウは男に一言礼を言うとギルドに向かって歩き出した。

 もう少し読みやすくできんもんか。

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