10-2. トゥキディデス・オクシモロン・パンスペルミアさ
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
職人街。
鍛冶屋や工房などの店舗が密集している区画のことだ。
獣人は手先の器用な者も多いため、ギルド周辺より獣人を見かける印象を受けた。
さてサトウはリバーシの相談ができる職人を探すため、ここを訪れていた。
木工工房の前に荷車を止めると、ミルフィーユを荷台に残したまま工房内に入る。
「ちょっと仕事の相談があるんだけど今いいかな」
「あ?仕事の相談だと?‥‥儲けにならないことはやらんぞ」
「やれやれ。俺の話を聞いてから判断してくれよ」
サトウはまたリバーシについて説明する。
どこからどう見ても親方のような男は、無精髭を撫でながら静かに説明を聞いていた。
「つまりボードゲームを作るってことか?」
「そうだ。似たゲームが無いなら売れるんじゃないかと思って」
「帰ってくれ!あと白黒二色の石を裏返し合うのの何が面白いんだ!どっかおかしいんじゃねぇか!?」
「ええ‥‥」
異世界人とリバーシの相性が悪すぎる。
サトウも別にそこまでリバーシが好きなわけではないが、ここまで酷く言われると流石にショックだ。
肩を落として工房から出てきたサトウに、荷台の上からミルフィーユが声をかけた。
「やはりボードゲーム作成の依頼は難しかったかな」
「何か理由があるのか?」
「ボードゲームに良いイメージを持つ人間は少ないからね」
「何でだよ、ただのゲームだろ」
「トゥキディデス・オクシモロン・パンスペルミアさ」
「トゥキ、何、呪文?」
トゥキディデス・オクシモロン・パンスペルミア。
ゲーム進行度に併せて盤中央の触手がリアルタイムで盤の枚数・マス目を増減させ、過去には複数の盤上のマス目が合計一〇〇万以上になった試合もあると記録されている。
その複雑怪奇な盤上で、一千種類以上ある駒を操り、先に相手の王駒を取ったほうが勝ちという。そこだけシンプルなルールのボードゲームだ。
熟達者同士の対局にかかる平均時間ですら七二時間。対局開始時、プレイヤーに対しその場から離れることができない魔導契約が強制的に締結される。
その場から離れるためには対局を終わらせるか、魔導契約範囲内の生命反応を一つにするしかなく、大抵は対局を終わらせることができず殺し合いに発展するのだそうだ。
「野蛮すぎる」
「ボードゲームといえばこのゲームでね。新しいゲームを考えても誰も触ろうとしないだろう」
「リバーシもダメか。手っ取り早く金が稼げると思ったんだけどな」
「根気強くパーティーメンバーを募集するしかないさ」
ミルフィーユはパーティーメンバーの増員を押しているが、サトウが難色を示しているのにも理由がある。
それは自分たちのパーティー構成のことだ。
五歳児並みのステータスの男と、二つ名付きの犯罪奴隷の男。誰がこのパーティーに入りたいのだ。
「兄ちゃんたち。パーティーメンバーを探してるのか?」
工房の隣の鍛冶屋から獣人の男が顔を出した。
この都合よく人に話かけられる感じ、すごく異世界っぽい。とサトウはワクワクする。
「それなりに戦える見習いが居てな。今度、市場調査も兼ねて冒険者に同行させてぇと考えてたんだが、一度会ってみないか?‥‥ウサ耳の見習い鍛冶職人だぜ」
ウサ耳の見習い鍛冶職人。
絶対可愛いよ、これ。ウサ耳かつ見習いなんて、可愛くなきゃ許されないもん。
次回、ウサ耳の見習い鍛冶職人が登場します。
Chu! 可愛くてごめんって感じのキャラです。
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