8-1. ふふ、これは必殺技ではなく弱攻撃だよ
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「土下座するオッサンを載せた荷車を、舗装されてない道で引くの地獄だな」
宿で一晩休んだサトウたち。
朝イチでギルドへ向かうと早速クエストを受け、早速冒険に出ていた。
初心者の森でのゴブリン討伐依頼。
如何にも異世界で最初のクエストらしい依頼だ。
本来、駆け出し冒険者が受けるのは街の清掃や薬草採取らしいが、元冒険者のミルフィーユとパーティー登録をしたことで、サトウでも討伐依頼を受けることができた。
しかし、宿からギルドへ。ギルドから街の門へ。街の門から初心者の森へ。
サトウはずっと土下座するオッサンを載せた荷車を引き続けている。すでに脚も腕もパンパンだ。
「ミルフィーユちゃん!もう森についたよ!流石に森の中はずっと木陰だろうし、一旦お祈り止めようね!」
「ご苦労、御主人様。疲れただろう」
「当たり前だろ。やれやれ、今からゴブリンなんて狩れんのか、これ」
「私がいるし問題ないさ。まずはゴブリン討伐前に朝食でもどうかな」
宿を出る前、ミルフィーユは朝食を用意していた。
ケーキ屋さんの今年一三歳になる看板娘を自称している彼女だ。
それなりに美味しい朝食を食べられるだろうとサトウは楽しみにしていた。
「待ってました。サンドイッチとかかな」
「美少女の作るお弁当だぞ。もっと良いものさ」
「うるさいな。でも良いものって何だろ」
ミルフィーユは荷車に置いたバケットバッグから朝食を取り出すと、サトウに茹でた肉・ナッツ類・卵をいくつか手渡した。
「朝食の茹でた鶏むね肉だ。依頼中の携帯食にナッツ類。水分補給はこの生卵だ」
「これがお弁当か‥‥。というか生卵って、サルモネラ菌?とか大丈夫なのかよ」
食品衛生の行き届いていた日本ならまだしも、中世文明レベルの異世界の生卵。
サトウは些か不安に思う。あと生卵で水分補給になるんだろうか。
「菌?よく分からないが、たまに下痢や腹痛で死にかける者はいるな。まぁ問題ないだろう。そんなこと気にしてちゃ強い男の子になれないゾ」
「やっぱアンタ、邪教の信徒だよ。発言が邪悪な組織の女幹部って感じだもん」
指でハートを作るミルフィーユを無視して、サトウは茹でた鶏むね肉を頬張る。
本当にただ茹でただけの鶏むね肉。別に美味しくも何ともないが、昨日この世界に来てから何も食べていなかったサトウは、それをペロリと平らげた。
その横でミルフィーユは生卵を片手で割ると口に垂らす。
ゴクンと飲み込むその光景を見て、サトウは思わず「オエ」と漏らした。
「さぁ行こうか、御主人様。武器は持ったかな」
「武器って言ったってなぁ」
サトウは片手に持ったパチンコを見る。
討伐依頼受注時、ギルドの受付嬢に「サトウでも扱える武器」を質問し、差し出されたのがこのパチンコだった。
彼女の五歳になる甥よりも弱いとステータス鑑定されたサトウ。パチンコの柄には甥らしき名前が彫られている。
この他、武器と呼べるものは念のため渡された果物ナイフのみ。
「パチンコも中々優秀な武器だぞ。そこら辺の小石を弾にできる点は、弓矢や、たまにダンジョンの宝箱から出る銃よりも優秀と言える」
「これでゴブリンなんて倒せないだろ?」
「まぁ不可能とは言わないが、それなりの腕前が必要だな」
「やっぱり子どもの玩具じゃないか」
「いじけるな御主人様。それに君は駆け出し冒険者。まだまだこれからだ」
まだまだこれからって言われてもな。
不安いっぱいなままサトウは森に踏み出した。
本当に異世界転移したとして、
初見でゴブリンを討伐できる人って何人くらいなんですかね。
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