7-2. 鬱陶しいテンション
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
なんとサトウとミルフィーユは同室だった。
部屋の中央にはキングサイズのベッドが一つ置かれている。
サトウは宿の主人にごねたが部屋の空きはないようだった。
「御主人様。明日も早いし今日はもう寝よう」
「ベッドの左側が俺の陣地な。絶対にこっちに来ないでくれ」
「むしろ私の可愛らしさに君のほうが獣になってしまわないか心配だ」
「うるさいな」
「照れなくていいのに。‥‥私の秘密も追々伝えようと思っていたんだが、まさか三大司教だったことまでバレるとはね」
「冒険者だったんだし決済機でステータスがバレることは知ってたんじゃないの」
「あれは私が奴隷落ちした後に導入された機械でね。話には聞いていたが詳しくは知らなかった」
「結構浸透してるシステムに見えたけど、いつから奴隷だったんだよ」
「一三年前だ。そうだな、もし質問があるなら寝る前にお答えするが」
奴隷歴=ケーキ屋さんの看板娘の年齢なのか。
寝る前に質問と言われても、疲れているサトウはパッと質問が思い浮かばない。
「そうだなぁ。トップオブトップ教は邪教らしいけど何やらかしたんだよ」
「やらかし、か。多少荒い勧誘活動はしたかもしれないが、拉致しても首を縦に振らなかった者は開放していたし。御主人様が考えているほど酷い教団ではないはずだ」
「自分で拉致って言っちゃった」
「我々が邪教と言われる大きな要因は、治癒魔法使いの信者を抱えている点だろうね」
「治癒魔法使いたちの組織が教団なんじゃないの」
「正しくは、神を信仰している治癒魔法使いたちの組織が教団だ」
「ミルフィーユちゃんは神を信仰してないの?」
「あぁ。一般的な教団で信仰しているのは創世神や地母神だが、我々は尊師であるトップを信仰している」
「ただの人っぽいけど」
サトウはミルフィーユの右胸のタトゥーを見る。
坊主頭のニヒルに笑う男の名はトップ。彼が信仰の対象らしい。
「彼は全く新しいバフ魔法理論を提唱しただけの、ただの人ではあるね」
「新しいバフ魔法理論?」
一般的な教団の信徒や、魔法職が使用するバフ魔法が『身体強化魔法』。これは神の奇跡や、魔法の一種とされるらしい。この身体強化魔法の発動にはMPを消費する。
武道の極地に辿り着いた者が、稀に自らの体内エネルギーを使用してバフ魔法の真似事ができるようになる。この魔法を『筋肉強化魔法』と言いSPを消費するのだそうだ。
「二つには明確な違いがあり、身体強化魔法は自分にも他者にも効果があるが、筋肉強化魔法は自分にしか効果がない」
「効果範囲に違いがあるのか」
「その通り。ここでやっとトップが出てくる。彼は筋肉強化魔法の派生であるにも関わらず他者も治癒できる『筋肉治癒魔法』を提唱したのさ」
「今日かけてもらった痛くてグロいやつな」
「そのバフ魔法理論に感銘を受けた私たちは、トップから筋肉治癒魔法について教えを乞い。それを世に広めるため、彼を信仰の対象とした教団を設立した」
「それだけで邪教にされたのか?」
「筋肉治癒魔法を広めることで損をするその他教団の反発さ。国教である創世神を崇める教団なんて、収入源のほとんどを治療院での稼ぎに頼っている」
「骨折一箇所ごとに一〇〇万ゴールドとか言われたっけな」
「安価で治療をする筋肉治癒魔法使いが増えると、奴らの収入が減るだろう?」
「そういうことね」
そういったしがらみもあり、彼らは邪教と呼ばれるようになったそうだ。
そこまで語るとミルフィーユは就寝の準備を始める。
彼女にも色々あったのか。そう考えながらサトウも布団に入った。
まだ5月なのに雨多くないですか。
梅雨ってもう始まってます?
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