そこには何も
「おい、あんた旅人か?そんな所で何してるんだ?」
少し近づけば、さっきまであいつを無視してたのが嘘のように普通に声をかけてきた。
「……そんな所だ。そこの森でこの村の子供を見かけたから連れてきた」
「子供……ジスか、ヤンか、ハリスあたりか……まぁた勝手に入ったな……わりぃな、旅人さん。よく抜け出すのが居るんだよ、助かった。で、その子供は何処にいるんだ?」
その言葉に、あいつに目を向ける。
やはり、何かおかしい。腰にベッタリと張り付かれてまで見えていない振りを突き通す人間が居るだろうか?
「そこの、腰のやつだが……見えてないのか?」
「は?…………からかってるのか?」
心底迷惑そうな顔で見られる。やはり、完全に見えていないのだろう。
認識阻害の類だろうか?魔力も知らないようなガキが?それともこいつにわざわざ魔法をかけている奴がいるのか?何のために?
「おい、村の連中は皆こうなのか?」
「は?あんた、何処見て話してんだよ??」
「アイラとトーマとカラはぼくのはなし、きいてくれるよ」
「そうか」
3人、か。これは何か理由があるのか?わざわざその3人だけに見えるようにしているのはなぜだ?
「何が!?あんた本当、何もんだよ!何と話してんだよ!??」
「おいあんた、村にアイラ、トーマ、カラって奴は居ないか?」
「は??急に何の話だよ!?」
「そいつらに会えばこいつの事が分かるかもしれない」
カイとか言う少年の周りをぐるぐると周って遊び出すこいつは、相変わらず何を考えているのかいまいち掴めない。
「だからこいつって誰だよ!第一、あんたみたいに怪しいやつ、村の中に入れられるかよ!!」
「カイ?そんなに騒いでどうしたの??」
ジタバタと暴れるカイの後ろから、女の声が聞こえた。
「母さん!怪しいやつが来てるんだ!!ガスキーさんかルルド師匠呼んできて!!!」
こいつの母親か。あまり大事にされると面倒だな……一度仕切り直すか……?
「あ!トーマ!!」
そう叫び、カイの側から飛び出したかと思えば、母親が抱きかかえている赤ん坊に向かって飛び跳ねている。
「トーマ?」
さっき話を聞いてくれるとか言っていた?
「何でお前がトーマを知ってたんだよ!!?」
首がとれそうな勢いでカイが振り返り、詰め寄り、胸ぐらを掴まれた。
見た目からして15、6歳だろうに、凄い力だ。
「ちょっとカイ!?乱暴しちゃだめでしょ!」
……よく見ればこいつ、何なら母親も、赤ん坊まで、皆魔力持ちじゃねえか。
「アイラとカラの名前も出してたし、本当にお前何なんだよ!」
一家全員ってのはありえなくはない話だが、本当に珍しい。魔力の高いもの同士で契っても10人に1人生まれるかどうかってくらいだってのに。兄弟揃って魔力持ちとは。
「さっきから何黙ってるんだよ!お前は何者なんだって聞いてんだよ!旅人ってのは嘘だろ?人攫いか?悪徳貴族か?なんでもいいが、村のやつに手ぇ出そうってんならぶっ飛ばすぞ!!」
ぐわんぐわんと頭が揺れ、脳が混ざる。今日一日で2回もこんな目に合うとは。バカになったらどうしてくれるんだ。