マラク
視界が歪むほどの魔力に包まれた次の瞬間、膝の下にあった冷たい地面の感触が無くなった。
「きゃぁっ!!??……って、ルタス???」
背後から聞こえた聞き馴染みのある声にバッと振り返れば、もう既に俺の事は眼中に無い様子のマラクがいた。
「ちょっと!その子オーバードーズ起こしてるでしょ!?」
説明をするまもなく、表情を強張らせ向かってきたマラクに勢いよく押しのけられ地面に尻餅をつく。
「ほらッ!ボケっとしてないで障壁解いて
!!」
鋭い声にハッとする。1番初めにしなきゃいけなかったことだ。
どんだけ動揺してたんだ、と自分に呆れながらも障壁を消した。
ざっとノアを眺め症状を確認したマラクは自身の魔力をなじませるようにそっと暴走する魔力にふれる。
爆発寸前だったノアの魔力が、水路を流れる水のようにマラクの魔力を辿って空気中に霧散していく。
「…お前、医者みてぇだな」
あまりに見事な魔力誘導にポツリと呟けば、自慢の黒髪を掻き上げながら睨まれた。
「医学生なんですけど?……ていうか、馬鹿なこと言ってる暇あったら手伝って。まだ終わってないんだから!」
確かに、さっきよりは幾分顔色がよくなっているとはいえノアの中でとぐろを巻く魔力は変わらず爆発寸前の勢いを保っていた。
マラクの、ノアを挟んで向かい側に座り込み俺も魔力誘導を始める。
ノアの肩に触れ、自身の体内を通して空気中へ流す。
たったそれだけの作業でも、左手から勝手に流れ込んでくる魔力は濁流のように荒々しくて、気を抜けば俺までも暴走をさせてしまいそうで。
じわりと額に汗が浮かび上がるのもそのままに無我夢中で魔力を流す。
ほんの一瞬視線を上げた先のマラクもひどく険しい表情で誘導を続けていた。
…………どれくらいの時間そうしていただろうか。
三人もいてノアの息遣いしか聞こえないような状況が続いていた部屋にマラクの声が響く。
「……そろそろ、大丈夫かしら……」
精霊の中では中の上程度の魔力量の俺と、それと同程度のマラク。その両方が魔力切れを起こしかけたくらいのタイミングだった。
張り詰めていた糸が緩んだ途端ありえないほどの疲れが全身にのしかかり息が切れる。
マラクも同じだったようで、視線を向ければ安堵した表情を浮かべながらもその額には汗が浮かんでいた。
俺の視線に気がついたのか、顔を向けてきたマラクにキッと睨まれた。
「ちょっとルタス!なんでこんなになるまで障壁張ってたのっ!!!貴方が馬鹿なのは重々承知だけれど、この程度のことまで知らなかったとは言わせないわよ!?何でこんな魔法基礎学の一番最初に習う様なことをしでかしてるわけ!??魔障壁は外部からの魔力を拒絶する代わりに自身の魔力を溜め込んでしまうから長時間使用してはならないっ!体調不良の予兆があれば直ぐに解除するっ!!!常識中の常識でしょう!!??」
「いや、その……」
もちろん、そんなことは知っていたし一応障壁を張ってからは様子も見ていたつもりだったけれど、マラクのあまりの剣幕に腰が引けてしまう。
「どうせ、走り回ってるなら大丈夫、とかそんなテキトウな感じで見てたんでしょう!?特に小さい子は自分で気が付けないから大人がちゃんと見ていてあげないと急に倒れるの!で、手遅れになる!!つもりじゃダメなの!貴方が障壁を張ったなら終始相手の状態を確認するのが責任っていうものでしょう!?」
「…………はい…」
俺の言い訳を見透かしたように鼻息荒く詰め寄られ、確かに甘かったと反省をする。




