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聖女のお墨付き

「シグニフィカティウムへ向かう海図?」


 この辺を取り仕切る海賊団、【アルゴナウタイ】の頭領に面会が許され、俺は海図を見せた。アルゴナウタイは、人身売買や武器密輸も行う悪徳組織だと聞いている。別に騙しても問題ないだろう。


「おいおい、まさかその噂、本気で信じてるのか?」


「あぁ、これは本物だ」


 俺はしれっと言い切る。不思議だ。悪人相手なら嘘をついても全く良心が痛まない。


「驚いたな。ここまでバカな地球人もいるのか」


 頭領がそう嘲ると、背後の仲間たちも一斉に笑った。


 実に不愉快だが、どうでもいい。どうせゴミのような連中だ。道端のゴミが音を立てたところで、気に留める者はいない。ましてや、それに対し怒り言い返すなど、馬鹿げている。


 だから俺は、適当に無視した。


「顔が知られていないので仕方ありませんが、ここにいらっしゃるのは聖地ルーラオムの大聖女様です」


「何言ってんだ、大聖女アルハスラ様は行方知れずのはず……って、お前が攫ったのか?」


 頭領は少し怖気づいたようだ。


 水の大聖女を誘拐するなど、常識的に考えて大それた行為だ。なかなかできるものではない。


 ん?


 いや待て。


 そんな大それたこと、やってる奴がいたな。


「お前、スカーレット・ウィンドの人間か!!」


 そういえばアルハスラ、この前まで盗賊団に捕まっていたんだった。全く、大聖女の威厳を利用しようと思ったのに逆効果だったな。海賊と盗賊の仲が良いとは思えない。ここで殺されてもおかしくないな。


「いや違う。俺はスカーレット・ウィンドから大聖女様を買い取り、助け出したんだ」


 これは真実だ。これを基に嘘で切り抜けるしかない。


「どうやってそれだけの大金を工面したんだ?」


「実は、邪龍の鱗を手に入れた。それを換金して一財産築いたわけだ」


「邪龍の鱗? 邪龍はアデオダトスに討伐されたはずじゃ……」


「俺はアデオダトスにも信頼されている。だから、邪龍の死体処理も任されたというわけだ」


 俺がそんな嘘八百を並べ立てると、一同はどよめいた。アデオダトスの信頼篤いと言っただけで、ここまでの効果があるとはな。


「あの伝説の魔法騎士様に信頼されるとは、そんなに腕が立つのか?」


「別に。俺は大したことはない。だが、俺には地球との伝手があるので信用されていた。元プライマリーアルファ社社員なんでな。ほら、これが証拠だ」


 俺はバツ印付きの入界カードを見せた。異世界のゲートを通るときに必須の通行証だ。


「なるほど。嘘ではなさそうだ。で、海図を使って何をしたい?」


「知っているだろう? 聖地ルーラオムは、五柱神の一角、【秩序】のヨハンナの拓いた土地だ。そのヨハンナ様の署名が入った海図なんだよ、これは。ルーラオムで見つかった。署名の正当性は聖女様が保証している。そこで、だ。聖地シグニフィカティウムの埋蔵資産を狙う連中に、この複製を売りつけようってわけだ」


 もちろんこれは偽物。俺が間違って買った海図に、アルハスラが知っていたヨハンナのサインを書き記しただけのものだ。ゴールドラッシュ時には、採掘者向けにツルハシを売る商人が大儲けしたという。その線で一攫千金を狙ってみるか。


「なるほど。それで、まずは俺たちに売りつけて、危険な目に遭わせようってわけか」


「まさか。違うよ。【アルゴナウタイ】といえば有名な海賊だ。海軍や他の海賊どもに辟易しているだろうと思ってな。そいつらに海図を売れば、航路を見つけてくれる。見つからなくても、勝手に自滅してくれる。一石二鳥だろ?」


「もし聖地にたどり着かれて、権利を主張されたら?」


 俺は大げさなため息をついた。


「今さら何を。お前たちは海賊。無法者だろ? 権利なんて無視して奪い取ればいいだけの話だ」


 俺がそう提案すると、頭領は豪快に笑った。


「そうだな。欲しいものがあれば、権利だろうと法律だろうと無視して勝ち取る。俺たちのやり方をよく分かってるじゃないか、地球人。いいぜ、乗ってやる。買い取るぜ」


 そんなわけで気に入られた俺は、偽物の海図をばら撒き、まとまった資金を得た。聖地での略奪が成功した場合、配当金まで受け取る契約まで結べた。


 俺、案外詐欺の才能あるかもな。


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