★ショートコント★『異様な殺人現場』
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ショートコント★パート7
『異様な殺人現場』
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俺はベテラン刑事42才。
27才の新妻と、新婚生活真っ只中の幸せ者である。
刑事課に配属されて、17年。
これまで、様々な事件現場に携わってきた。
飛び降り自殺によって頭がぐちゃぐちゃになった遺体、チェーンソーでバラバラにされた遺体、どざえもんや、虫が湧く程放置された遺体も見た。
どんな凄惨な現場だろうと、狼狽えずに捜査を進める自信が『あった』。
そう、過去形である。
俺は今、現在進行形で、目の前に拡がる異様な光景……、とある殺人現場に狼狽えていた。
うつ伏せに倒れた男性の遺体。
背中の中心から右脇腹に掛けて、深く切り裂かれた事により、辺りに血溜まりが出来ている。
被害者の右腕は前方に伸ばされた状態で、ダイイングメッセージらしき血文字が残されていた……。
……それが、今日の俺の昼飯である。
事件捜査の聞き込みを終え、署に戻って席に着き、愛妻弁当のフタを開けたら殺人現場だった時の俺の気持ちが解るだろうか。
黒っぽい色をしたライ麦パンの地面。
苺ジャムの血溜まり。
プリンらしき人肌。
チョコスプレーで出来た短髪。
求肥っぽいTシャツに、生クリームと砕いたピスタチオで出来たズボン。
メレンゲで作られた凶器の包丁が転がり、横向きの顔はつま楊枝の先で描いたかのような細いチョコの線でリアルタッチに描かれていた。
材料の組み合わせだけを考えれば、実に美味そうではある。
実は甘党の俺の好みど真ん中の弁当であると言えるだろう……材料の組み合わせだけを考えれば。
愛する妻が作ってくれた手作り弁当だというのに、今まで経験した事件現場と重なって見え、食欲は搔き消えてしまった。
そんな俺に、トドメを刺したのがダイイングメッセージである。
赤く着色したチョコペンで、一言。
『次はオマエだ』
「次はお前だ」って、どういうこと!?
なんでダイイングメッセージで、被害者が犯行予告してるんだよっ!?
ってか、『オマエ』って俺のこと??
俺、みーちゃん(妻)を怒らせるようなこと、しちまったんだろうか……。
悶々と悩むこと、十数分。
食欲は全くもって湧かないが、食わなきゃ夜まで体が持たない。
とりあえず、私物のスマホで現場写真を押さえた俺はフォークを手に取った……。
その時、後ろを通りかかった新米刑事が声を上げる。
新米刑事「うっわ!ベテラン刑事さんの弁当、モロ現場じゃないっスか!!(笑)。駄目っスよ~、現場荒らしちゃ(笑)」
ベテラン刑事「……。(怒)」
その後、新米刑事がいつも以上にしごかれたのは言うまでもない。