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黄泉の巫女  作者: 氷水
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妹の家

 

 三次元のクロステイルは人々の活気と賑わいで溢れていた。

 石作の家々が等間隔で建てられており、ゲーム序盤の街並みを連想させられる。

 クロステイルのすぐ近くに海があるからだろう。

 点々と並び立つ屋台からは焼けた魚の匂いが飛び、猫獣人ことケット族が買いに走っていた。

 それからやじ馬の如く、不思議と集まってくる住民たち。

 その中心に妹と手を繋いだおれがいた。


「サクヤ様だ!」

「なんて気品溢れる御姿」

「隣におられる子どもは誰でしょう?」

 

 なんて、視線の雨あられをおれと妹は浴びせられていた。

 どうしてこうなったのか。

 三次元的に目立つのには慣れていないので止めてほしいんだけど。

 

 歩くたびに見物人が増えて行く。

 ひょっこりと現れた少年は、おれの顔を見るなり真っ赤な顔つきで逃げ出していく。

 ……まぁ、バリルは可愛いもんな。

 天使だもんな。

 分かるよ、うん。

 手を振るなどして愛嬌振りまく妹におれは顔を向けて問いかける。

 

「……なぁ」

「んっ、なに?」

「恥ずかしいんで速く家まで案内してほしいんだけど。おれもやることあるし――!?」

 

 おれの言葉を待つ間もなく、妹は握る力をさらに強くしてきた。


 正直かなり痛い!

 

「うちの部下呪った天罰」

 

 罰で込める力じゃないだろこれぇ!

 住民には聞こえないだろうけど、隠れてゴキゴキいってるからぁ!

 

 そんな感じで数年ぶりに妹と手を繋ぎ、引きずられるように歩いていると、見覚えのある一軒家についた。

 

 周囲の石造りの町と比べて、明らかに異色を放つ。


 それでいて、おれからすれば非常になじみ深い、小さい馬車を止めるスペースのある木造建築。

 ……これって。

 

「うちじゃん!」

 

 

 おれは思わずツッコミを入れてしまった。


 というか入れたくもなる。

 小さい花壇と庭が一緒になったこの風景といい、窓や部屋の見える数含めてすべてがおれの住んでいた家だ。


 なんで……。


 ゲームなら、リアルと違う家で過ごしたいと思うよな?

 

 

 妹は玄関前で立ち止まる。

 そのすぐ隣の壁には小さな白い魔法陣が描かれていた。

 妹は魔法陣に神彩の宝玉をかざす。

 すると呼応するように、玄関の扉からガチャンという鍵の開く音が聞こえてきた。

 

「ほらっ」

 

 妹は親指で入れと促してくる。

 なんか妹さん、さっきから会話をしてくれないですよね。

 中に入ると、調度品等は一切置かれていない酷く殺風景とした玄関が歓迎してくれた。

 いつもは明るいのに、闇が掛かっているのか妙に暗い雰囲気だ。

 それから広く感じる。

 いつもならその辺に置かれてある荷物もない。

 ごっそりと何かが削れ落ちていた。

 後ろ手で玄関を閉める妹。

 確認を終えてから、おれは質問する。

 

「妹。これは……」

「……とにかく上がって」

「おっ、おう」

 

 影が落ちたかのような震えた声。

 なんか顔を見てはいけない気がして、おれはフォーマルシューズを脱いで玄関に上がる。

 後ろでは妹がおれの脱いだフォーマルシューズと自分の靴を揃えていた。

 いちおう背後にも警戒しておき、おれはリビングに入る。

 

「なんだ、中は意外とまともか」

「どういう意味?」

 

 妹はパチッと壁にあるスイッチを押して、暗がりの部屋に明かりをつける。

 ひとり暮らしでは広すぎるリビング。

 木製のテーブルや椅子、それから小物の置かれた棚などが置かれていた。

 家具の配置も実家と変わらない為か、安心感を覚える内装だ。

 とはいえ細部まで同じじゃない。

 何となく、女性がひとり暮らしするように改良したって感じだ。



 

 例えばそこの棚にある、【粘神の偶像(アイドルスライム)】サファイムのフィギュアとか特に……。

 ……えっ?

 直後、一陣の風がおれの隣を突き抜けた。

 妹がサファイムの模型を大事そうに抱えながら睨みつけてくる。

 

「見た?」

「イエ、ナニモミテナイデスヨ?」

 

 そんな六魔王がうち、一柱であるサファイムの模型なんて。

 怪しいと言いたげな目線を送る妹から逃れる様に、おれは椅子に腰を下ろす。

 それから改めて目線の下がった視界に新鮮というか、慣れない感覚を覚えていた。

 誤魔化しが通じたのか定かではないけど、ひとつ息を吐いた妹が向かい合うように座ってくる。

 

「でだ、キャラ変更できないってどういう意味だ?」

「まんま。ログアウトできないの気づいてんでしょ」

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