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黄泉の巫女  作者: 氷水
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即死対策への手立て


「理屈だと?」


 このゲーム現実的に作られている部分は酷く現実的に作られているし、ファンタジーの部分は酷くファンタジックに作られている。

 そこが利点でもあるし、最悪な点でもある。


「術式というのはいうなれば計算式みたいなもの。何かに何かをすると何かが生まれる。けどな、答えの結果が十であっても十だけを防げばいいってものじゃない。すべての毒を同じ解毒薬だけで治せないのと同じように」


「何が言いたい」


「つまりはね。おれの即死はいくつもの派生解がある。ゆえに世間一般に広まっている即死耐性を貫通する。その即死貫通パターンも百を優に超える。その全て防ぐ手段、解析力と分析力を持っているのかどうか聞きたい」


 初めてフーリンの眉がピクリと動いた。

 おれもすべてを解明できているわけではないのだけど、ことはそう簡単なものじゃないんだよ。

 即死という効果があるから即死するんじゃない。

 即死する理由、過程があって即死するんだよ。

 その過程自体を防がないと即死耐性なんて意味がない。

 ……おれも思うよ。正直な話、クッソ面倒くさいって。


 妹は静かにおれの力について「クソゲー」と称した。


「そのクソゲーを突き詰めたのがおれたちなんだよ。人が嫌がることをやらせれば天下一品だぞ? そしておれたちはそのクソゲーをこうしてなお突き詰めている」


「アンタ、本当にあにぃ? いつもサルに盛ってんのに……本当は偽物なんじゃ」


「おにいちゃんが頭良いと悪いのかよぉ……」


 妹に普段どう思われているのかよく分かってちょっとしょんぼりしてしまう。

 内容が内容だけに気持ち悪いかもしれないけど。

 理解はしているよ。いつもテストは赤点寸前だから。

 けど好きこそものの上手なれっていうしさ。

 バリルの身体になってから妙に頭の中がスッキリしているような気分でもあるけど。

 というわけでと、おれは空気をリセットするために手を叩く。


「まぁそんなわけで。即死事態を防ぐことはまず無理だけど、即死に対してある程度の耐性を付けることは可能だ」


 今までの言葉を完全に無視する発言に妹が食いついてくる。


「はぁ? じゃさっさと提示しなさいよ、その方法」


「まぁ待て。方法は二つ。さっきも言った通り、式は過程を重視する。ならば式が崩れてしまえば、当然答えも違くなるよな?」


 おれですら難しすぎて中々言語化しにくいので理論についてだけ説明していく。

 一タス一は二だけど、一を取り上げれば二にはならない。

 あくまで例えだけど、術っていうのはそれ自体が過程と結果の計算式のような物。

 計算式が合っていればまず発動するし、合っていなければ不完全効果で発動する。

 ならば発動した術から術足りえる要素を抜いて、強制的に不完全効果にしてしまえばいい。

 即死はどれも結果的に生まれる副効果。

 それだけを防ぐのは楽なのである。


「理論は分かっけど、これは」


「現実的とは言えん」


 逆を言えば、術式を構成している要素を理解していなければ妨害できない。

 その要素をピンポイントで当てるには、まず一撃二撃食らって術式及び術を見て瞬時に解析解明しなければならない。

 けれど一撃二撃受けてしまった時点で即死が発動してしまう。

 ゲームの頃と違い、死は文字通りの死を意味している。

 じっくりと見ている暇なんて無いのである。

 正しく妹の言う通りクソゲーそのものだ。


 あくまで例として計算式を出したけど、本当は【生成】とか【消滅】とか【結合】とか【連結】とか【抽出】とかわけわからんのが入ってくる。

 式は基本的に複雑怪奇。

 最強ものにありがちな、純粋マナをぶつけて術式そのものを崩すとか出来れば早いんだけどね。

 けどそれだけで崩れてしまうほど、術式というのは簡単に作られていない。


「もうひとつは単純に偽バリルとの実力差を埋める形だな。これに関しては……、おれが未熟だから教えるのは厳しいな」


 こうして話したりするだけでも、ある程度精神と身体が一致していく感覚はある。

 あるんだけど進み具合が微少すぎる。

 おれの方に問題があるのかそれも分からない。


「んなつもりないっての」


「それともうひとつあったわ。おれみたいに残機を増やすことで即死に対処するという手段も」


「どうせ教えるつもりないっしょ。時間の無駄」


 まだ完成していないうえにデメリット激しいからね、あれ。

 一度発動するのに魂百個消費は現実的じゃない。

 教えたところで即死のオンパレードを受けたら国ひとつ平気でなくなる。

 国一つ分消費する覚悟であるいはと言えるけど……、それでも難しいだろうな。

 最終的に時間を食っただけだと考えたのか、妹は感情の抜けた顔でおれを見下ろしてくる。

 何となく視線が痛いので、特別サービス込みでおれは最凶の呪いを生み出す一節を口にする。


「神産みの母が眠りし地下の泉。祈祷するは穢れの巫女。かの者放つ不浄の浸食は、月すら飲み干す浄光をも寄せ付けぬ。終わりなき無窮のみが、我を滅ぼす」


「いきなり何?」


「ヒントだよ。おれの持つすべての即死を攻略するヒント。解読自体は簡単なはずだぞ。というかここまでまったくメリット無いからな。おれには」


 おれはその場で投げ出して妹の身体に背中を預ける。

 これ以上何かされようとおれは対処法を話さない。

 というかもう答え言っているようなものだし。

 むしろここまで過程を与えたのに答えに辿り着けないようなら、六魔王を倒すなんて無理に等しいし。

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