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黄泉の巫女  作者: 氷水
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六魔王の持つ共通認識

「それで本題に入っていい?」


「あぁ良いぞ」


 妹はバリル問題諸々を一旦隅に追いやると、緑の宝石が施されたペンダントを机に置いた。

 妙にスカッとした表情をしているフーリンはペンダントを手に取り、探るように妹の目を覗いた後、「まさか」と何かに気づいた声を出す。


「そのまさか。それ、六魔王に全くと言っていいほど効力無かった」


「ミスリルと同等の宝石、クウザナイトを丸ごと使い、アースレイの技術を結集した魔道具だぞ。AAランク級の魔物、クララレックスの力すら赤子同然。理論上、六魔王の力を封じるはず」


「それがこいつに効かなかったからここにいんの」


 妹はおれの頭を乱暴に叩いてくる。

 おれは妹の手から逃れるように頭を抑える。

 これ以上馬鹿になったらどうするんだよ。

 フーリンはペンダントとおれを見比べながら考察する。


「真六魔王を味方に引き入れたいわけだ」


「そういうとこ。こいつみたいに好意的な奴はいないと思うけど。六魔に親兄弟、姉妹とかいないわけ?」


 妹は頭を抑えるおれに視線を落とす。

 この流れで聞いてくるか?

 クズ共に親兄弟ねぇ。

 おれは今までの記憶を全て掘り起こした末の答えを口にする。


「分からない」


「分からないって」


「会話なんて野蛮、本気で話し合えるのは原初の時代から暴力のみ。これがうちらのスタンスだから。そういう弱点になりそうなことは誰もしゃべらないんだよ」


 話すと兄弟姉妹のいる国を滅ぼされたくなければって脅しに繋がる。

 弱点があれば舐めしゃぶるかのように陰湿に攻めてくるのが六魔王とかいうろくでもない集団なのだ。

 実際にはそれで止まるような奴、おれ含めていなかった。

 潰し合ったとしてもおれ含めて約四名死なない奴いるし。

 妹は思い出すかのように言ってくる。


「【覇音(はおん)楽忌(がっき)】シースレイアとか。六魔の良心つってたし」


「ことあるごとに歌った結果があいつの悪名すべてだぞ。おれらの言う良心っていうのは、積極的に国を潰しに行かない奴って意味になる。仲間になるかもだけど、その歌を何とかしないと内部から崩壊する」


 そのシースレイアだって自分の歌で周りにどのような影響が及ぶのか分かっているはずなのだ。

 分かったうえで歌っているのだから質の悪さで言えば六魔王の中でも随一だ。

 自分さえ楽しければそれで良い。究極的にゲームなのだから何をしようが楽しんだもの勝ち。

 ゲームの中ですら規律やら法律やらルールやら敷いてくるのは馬鹿のやること。


「人は何を考えているのか分からない。もしかして意識を持っている人間は自分だけかもしれない。周りの奴らは機械か何かで、プログラムされた通りの行動をしているだけなんじゃないか? 自分がこの世に存在していると証明できるのは自分だけ、って考えている奴らに話通じると思うか?」


 母親やら父親、友人は自分の自我を操るためにプログラムされただけの、単なる人形に過ぎないのではないか?

 相手が真に生きているのかなんて証明しようがない。

 心臓が動いているから生きているのか? 思考をしていれば生きているのか? 血が出るから生きているのか?

 相手のことなんて分からない。

 分からないから、生きている風に自分は見せられているだけ。

 人類を歩く血液パックとしか思っていないっていうのはこういう意味だ。


 六魔王という存在は、自身が唯一の生物であるっていうのが、共通認識なのである。


 自分だけが生物だから、他の生物がどうなると知ったことじゃない。

 自分が知性のある唯一の生物だから、他の生物を名乗っている奴らに合わせることができる。

 相手が被っている嘆きは、状況からくる感情の発露を生物のように再現したものに過ぎない。

 だから生物みたく苦しんだ振りをしているんじゃねぇよ、ってのが六魔王序列第一位が広めた教えだっけか。

 

 おれは皮肉にも、黄泉の巫女となってから、生物は生きていると考えるようになったけどさ。

 ただ面白いのが、現実的に考えるとゲームの中でイキっているだけっていうね!

 問題なのはゲームが現実となったことで、そのイキっている奴が現実的に国を滅ぼす力を持ってしまったことだ。

 妹とフーリンはおれの話を聞くと途端に顔を暗くした。


「早急に駆除せねばならん。災厄を」


 六魔王の実情を聞いたフーリンが一番最初に口にしたのがそれだった。

 目を大きく見開いた顔に、感情の色など見えない。

心の底から、六魔王という存在を軽蔑し駆除しようと考えているのだろう。

 妹はおれの頬を引っ張りながら、「よね」とフーリンの言葉に賛同する。

 あのー……妹? いひゃいんだけど。


「だが朗報もあった。一番の被害を予定していた真バリルが、なんの被害も無く聖国側についたことだ。心置きなく対処に臨める」


「ほんと、そこだけは救い。あにぃ」


 おれは上目で妹の表情を見つめる。

 本当にほっとした顔がそこにはあった。

 苦労かけてごめんなぁ妹。

 というか、


「おれってそんなに警戒されていたのか」


 六魔王の中の序列で言えば第四位だぞ。

 おれよりも厄介度という意味で強い奴はさらにいる。

 機嫌悪そうに妹はおれの両頬を引っ張りながら言ってくる。


「常時すべての攻撃に即死付いてんだろうが!」


「即死だけは完全に防ぎようがない。ゆえに一番被害が出る」


 おれは「あー」と納得の声を漏らす。

 おれの能力、死に纏わるものが多すぎてすべての攻撃に常時即死効果が付与されている。

 その上使用者の力と受ける者の力に比例して即死倍率が上がる。

 他にも魂やら雷やら耐性無視の状態異常オンパレード。

 加えて疑似的な不死の再現。

 おれですらバリルと戦うことになったら、まず運営を叩くところから始めると思う。

 それほどのビルド構成をしているのがバリルだからな。


 そこから妹とフーリンは話し合いを行っていくのだけど、置いてけぼりを受けたがために完全に手持無沙汰になっていた。

 のでせっかくだから机に呪いの品を並べてメモ帳に解析の結果を記していく。

 普通なら何とか言って来そうなものだけど、話に集中しているのかフーリンと妹は特におれの行動を咎めることは無かった。


「で、さっきから呪いについて解析鑑定をしているバリルちゃん? アンタはなんか質問とか無いわけ?」


 これは使える、これは使えないと仕分けしていると不意に妹から言葉が飛んでくる。

 どうやら話自体は終わったらしい。

 最終的な結論として、六魔王の力を封印する魔道具の基礎やら材料集めをするために、しばらくこの国にいることになったらしい。

 お使いクエストも大変だよなぁと、他人事のように感じながらもそれじゃあとおれは手を挙げる。


「偽バリルの対策は何かあるのか?」


 おれの質問にフーリンが「うむ」と声を鳴らした。


「まずは即死に対する耐性だ。何事もここから――」


「だからその即死に対する耐性なんだけど。おれの持っている即死が付与される理屈、いくつ知っているのか聞きたいんだよ」

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