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黄泉の巫女  作者: 氷水
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アースレイの王


「あれ、陰陽道の札か?」


 おれは露店に大量に売れ残っている札を見つけて指さしてみる。

 穢の呪術の札と違ってえらく浄の気配を感じる。

 見た目の雰囲気も呪術の禍々しい感じとは違い、由緒正しい歴史を積み重ねた神社の札みたいな感じでご利益がありそうだ。

 見た目に関してはプレイヤーがやったのだろう。

 だからこそおれはつい言葉を漏らしてしまう。


「ゼロ点だな」


「あんたの目線で評価すんな」


「そうは言っても、あの符じゃスライムすら倒せないだろ」


 呪術とか陰陽符というのは既存の術式のどれにも当てはまらない特殊過ぎる代物だ。

 魔術とか妹の使う神聖術とかとは訳が違う。

 だから既存の秘術の術式を応用して作ろうとすれば、あの露店にあるような取っ散らかった酷く歪な術式が出来上がる。

 あれでは流し込めるマナと生み出せる結果がまるで釣り合っていない。

 さらに言えば五行の相乗も酷いありさまだ。


「知識振りまいて俺の方が詳しいんだぜアピールして楽しいか?」


「いや別に。あれに関しては先駆者みたいなもんだし」


「その先駆者様に言うと、陰陽道って不遇だから。どっかの誰かさんが使っている技術の理論を偶然にも解明できたは良いものの既存の秘術とはえらく定説が違うっつーか。編み出したは良いもののまだまだ新技術。学校で教えるところもあるにはあるけど……まっ、大方他の秘術に流れるのが関の山ってとこ」


 そうなのか。

 それはそれで何よりだ。

 おれは不遇だからと聞いてじゃあ積極的に広めてやろうだとか、見せびらかしてやろうだとか、そういう意思を持ち合わせていない。

 広まったら広まった分だけ対策されてしまうから。

 妹はおれの両脇に腕を回すことで持ち上げると、そっと耳元で囁いてくる。

 

「もしも陰陽道の技術を究明できた者には相当のガウルを配られるってさ」


「……出してもいいけど妹名義で」


「アンタ、呪術広まるの嫌じゃなかった? おれだけがこの力を使えればいいんだっ的なさ」


「小物みたいなセリフだけどあながち間違っていないんだよなぁ……。単にもう既に生み出せた技術には興味ないってだけだよ」


 手に入れた技術を積極的に広めることは無いんだけど、生み出したら生み出したで興味が無くなるっていうか。

 他にも生み出したい呪術があるからいつまでも構っていられないというか。

 ぶっちゃけ五行に関しては広まったところで別に痛くも痒くもないというか。

 おれはポケットから神彩の宝玉を取り出して五行符関連のメモ帳を取り出す。


「はいこれ」


「おっ、おう……」


「おれの呪術は妖術とか諸々他の体系も取り込んでいるから。いわば亜種みたいなもの。五行符程度別に漏れても……ねぇ?」


 露店に置いてある符は見たところおれの持っている呪術の基礎中の基礎みたいなものだし……。

 まぁ、なんとでもなるだろ。

 なお、他の体系というのは他秘術の術式という意味ではなく、妖怪だとか黄泉や地獄だとか死に関することだとかって意味だ。

 五行までなら陰陽道に近しいのだろうけど……、おれの領域にまで行くと呪術方面に向かいだす。

 妹はおれから渡されたメモ長をパラパラと流し読みしていく。

 何か思考しているのかメモ帳の表紙を見ていた妹は「やっぱり返す」と突き返してきた。


「ガウルが欲しいんじゃないのか?」


「国の重鎮に言う言葉じゃねーし。つかいきなりこんな完成度高いのぶん投げられたら繋がっていると思われんだろ」


 ……色々と面倒だね、妹よ。

 しがらみとか本当無縁にゲームプレイしていたから。

 というかゲームをやっているのにしがらみのある方がおかしいというかさ。

 ともあれ返されたからには戻しておこう。

 陰陽道に関しては……まぁ各々頑張ってくれの一言だな。


  *  *  *


 妹が何か冒険者のカードとは違うカードを城の前に立っていた兵に見せていた。

 連絡をしに行っていたのか、戻ってきた兵士に妹とおれは城の中を案内される。

 内装自体はあんまりクロステイルと変わらない。

 本当は細かな違いとかあるのだろうけど、一般人であるおれにその辺りの違いは分からない。

 しいて違う点を挙げるとすれば、異世界と教会らしさを重点的に置いていたのがクロステイル。

 アースレイは魔道具を重点的に飾っているようだ。

 壺とか絵画とかそういった調度品は無い。

 代わりに電球とかマナを込めると刀身が伸びるタイプの魔道具とか置かれている。

 城というよりかはさながら魔道具の博物館といった印象に近い。


 妹はおれの肩に手を置いてくる。


「あんま余計なこととか言うなよ。それとどれだけバリルを侮辱されても耐えろ」


「大丈夫。既に侮辱されているから」


 六魔王の漫画が脳裏をよぎる中、おれはなんてことの無い風を寄り添う。

 あれやられたら軽い侮辱は何でも耐えられそうな気がする。

 同人誌かもしれないけどバリルが登場していて、あまつさえ男に……。

 言いようのしれない悪寒に身震いしたおれは無言で妹の手を取る。

 妹がおれの行動をどう取ったのか分からないけど、おれの手を振り払うようなことはしなかった。


「こちらです」


 兵士がそう言って通してくれたのは応接室だった。

 ソファーで腕組をしながら待っていたのは、王の身なりをした狼の耳を生やした大男だった。

 この王の名はフーリン。別名狼獣人のルガルー族であり、名の知れたトッププレイヤーがひとり。

 そして六魔王最弱とは言え、四大邪精霊王に魔道具を駆使した戦いで最後まで食らいついてみせたプレイヤーのひとり。

 ただ座しているだけだというのに、放たれる覇気は弱きものを一切近づけさせない。

 兵士はただ一言、「失礼しました」と妹に一礼してこの場から立ち去っていった。


「待っていたぞ。クロステイル、十二の導き手がひとり聖拳サクヤよ」


「堅苦しっ。私にんな王の口調しても意味ねーだろ」


「うむ。だが今日の客人はうぬだけではない。そうではないか?」


 先ほどまでおれをいないものとして扱っていたフーリンが初めておれに視線をやる。

 妹はおれの頭に手を置いて前に押し出して紹介する。


「この子は私のリア妹だから」


「ではプレイヤーか」


 フーリンは目を閉じて数舜、背筋を崩して背もたれに寄り掛かる。


「王としての振る舞いも一筋縄ではいかないな」


「ほんそれ。導き手らしくあれとか世間の目ってほんと辛いわー。どっかの魔王共がうらやま」


「プレイヤーの迷惑を気にしないのも類稀な才華だ」


「やられる方は溜まったもんじゃないつの」


 褒められているのか褒められていないのか。

 後ろ頭を掻いて見せた妹はおれの両脇に手を入れて持ち上げる。

 人形にように自分の膝元に置くと、そのままソファーに腰を下ろした。

 フーリンも「して」と少しだけ姿勢を正した。


「自己紹介がまだであったな。俺の名はフーリン。名前の決め方は知っての通り、クランの猟犬から来ている」


「おれ……の名前はバ……じゃなくてラナだ」


 フーリンは見定めるかのような上に立つ者としての目を向けてくる。

 この目というか、この上から目線の言動、どうにもあの八岐大蛇が脳裏をチラついて仕方ない。


「随分と厄介者を連れてきたな。話したいことはこれか?」


 緊張感マックスなのと、自己紹介が不慣れなせいで不愉快な気分にでもさせてしまったのだろうか?

 フーリンはおれの自己紹介に一層眉を険しくする。

 それとも厄介者という観点から聞くに……。

 妹は特にこれといって表情を動かさない。ただただ一言、「厄介って?」と眉ひとつ動かさず聞き返した。


「気づいていないとでも思うたか。微細なズレや所作に関して言えば、憧憬の一言で片が付く。だが俺ですら身の毛のよだつ、死そのものの濃密な穢気。上手いこと隠そうという魂胆だろうが偽れると思うな。これを放てるのはひとりしかおらぬ。こいつは六魔王が一柱、黄泉の巫女バリルだろ」

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