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黄泉の巫女  作者: 氷水
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アースレイ到着

 雷獣に乗り込んだおれたちの旅は順調に進んでいた。

 ぶつかる風が少し寒くてくしゃみする。

 なんでか妹が優しくて上に羽織るものを貸してくれたので何とか寒さをしのぎ、リーフからは「そんな寒そうなものを着ているから」と小言を頂戴していた。


「私は城で話つけっから、リーフちゃんは城下町待機。ラナちゃんは一緒に来て」


 おれが付いていったらそれこそ大混乱に陥りそうなものだけど。

 本当に良いのかとおれは自分の顔を指さしてみると、妹から頷きを持って返事された。

 何考えているのか分からないけど、妹……というよりかはテルミ辺りに何かしら考えがあるのだろう。

 おれはひとり納得していた。


「それとアースレイつく前にこの子消して。騒ぎになっから」


 妹は雷獣の毛を軽く撫でて促してくる。

 そりゃね。

 国潰すのに雷獣使ったことあるし。

 こいつの脅威というか見た目に関して言えば酷く知れ渡っていることだろう。

 本来の雷獣はもっと青白い色をしている。

 おれの雷獣は黄泉の穢れに当てられたことで黒く禍々しい容姿をしているのである。

 それからいくつか決まり事を作っていくうちにアースレイが見えてきた。

 雷獣に乗り出してから大体三時間ほどでの到着である。

 おれたちが歩いてきたのはいったい何だったのか。


「それじゃありがとな。また頼むわ」


 おれは雷獣をひと撫でして元の式神に戻す。


「忘れてた」


 アースレイへと入る直前になって、妹はおれの髪飾りに手を伸ばしてきた。

 おれは妹の手を振り返ることで避け、「なにすんだよ」と抗議する。


「変装。ラナちゃん昔はやんちゃしてたっしょ」


「昔は?」


 リーフが何かを含むかのような笑みを浮かべて煽ってくる。

 十分変装はしているけど……確かにおれを知っている奴なら一発で分かるかもしれないか。

 服の色しか変えていないわけだし、何よりその服だって昔使っていたから知っている人は知っている。

 色々と考えた末にあぁ駄目だなと結論付けたおれは、大人しく降参宣言をして髪留めを外す。

 ポケットに一先ず髪留めを仕舞っていると、妹が青いインクの入った瓶を取り出した。


「それなに?」


「これ? 【染色ペイント】っていう、髪とか小道具とか染色出来る奴。犯罪防止のために上級民しか買えないし、流してもらえないの」


 へぇーとおれは適当に相槌打つ。

 妹は分かり切っていたか、特に何も言わずにおれの頭にインク瓶を丸々ぶちかましてきた。

 全体に馴染ませるためか髪を掻きわけてくる妹の指が少しこそばゆい。

 もし歩いていなければこのまま眠ってしまいそうになるくらいには気持ちいい。

 良く見えないけど、リーフが少し興奮した様子で聞いていた。


「一般とかで流通しないのかい?」


「出来るわけないでしょ。服に髪型、髪色まで変えられたら馬鹿どもを捕獲できないんだから」


「ははぁ、ある程度顔も整形すれば良い。確かに危ない代物だね」


 少なくとも六魔王の印象を変えられる時点で大分やばいものだよなぁ。

 なるほどと頷いたリーフが何かに気づいた様子で手を挙げて質問してくる。


「そこまでしないと入れないって。過去になにをしたのさ、ラナ」


「ノーコメント」

「ノーコメントで」


 ちょっとクロステイル以外の国を合計43回ほど壊滅とか。


「イヅノさん……だっけ? きみは変装しなくていいのかい?」


「私は良いの。こいつと違って真面目ちゃんだから」


 妹とおれだと事情が違いすぎるからな。

 というかバリルを傍に置いている時点で本当は相当危険な綱渡りをしているらしいし。

 主に信用問題。


「ペイントをしても髪はサラサラだし、マナを含んだ水で落とせっから。気に入ったんならそのままでもいいけど」


 そう言って手鏡を渡してくる妹。

 覗いてみるとおれの髪は鮮やかなスカイブルーへと変化していた。

 残ったバリルの要素がもう顔しかないな。

 完璧な変装だなとおれは技術の進化に口を引きつかせた。


 そんな会話をしているうちに門が見えてきた。

 ここでも行われる軽い検分を難なく終えたおれたちはアースレイへと足を踏み入れる。

 リーフはアースレイの冒険者組合のある場所を知っているのか、一方向を指差した。


「じゃあ私は宿に手続きしに行くけど……。三人分でいい?」


「私はパス。ラナちゃんと二人にしといて」


 ……城に止まる気満々かよ、妹。

 おれ的には城は豪華すぎて精神が摩耗するから宿の方が助かるんだけどな。

 ……本当は宿部屋という認識と、リーフと二人部屋になるという事実も精神が死ぬ原因のひとつなんだけど。

 リーフと手を振って一度別れた後、妹はおれを連れてアースレイの城へ向かって歩いていった。

 アースレイはいかにも魔道具の国家であるといった風靡である。

 何かの術を使っていそうな衣装を身に纏った人たちがハタハタと慌ただしく走っている。

 冒険者と思しき人たちも腰に魔道具の技術を用いて作られた剣やら弓やらを身に着けている。

 武具や野宿を快適にしたいのであればまず初めにアースレイへよれってのが、謳い文句のひとつだったか。

 プレイヤーにはあんまり受け入れられていない言葉だったけど、NPC達からは非常に大好評だったのを今でも思い出せる。

 この世界が現実になった今、プレイヤーもアースレイを利用することだろうし、にぎわっているのは当然か。

 おれはついでに気になったことを妹の手を引いて聞いてみる。


「何をしているんだ? これ」


「六魔王関連。六魔王の力を封じるために使えそうな技術を持ってこれた者には報酬をやる的な? 他には日夜新しい魔道具を作成するため、日々研究者たちが切磋琢磨してるって話」


「……疲れそうだな。NPCならともかくプレイヤーならもっと自由にやればいいのに」


「そっ、自由にさせてくんないPLのせいで技術が発展したの。いきなり来て、自分勝手な理由で国を滅ぼしてくるような、自由にさせてくんないPLのせいで、国や技術を発展せざるおえなかったの」


 ……妹からの圧が強いな。

 この話題はこの辺りで閉じるとしよう。

 おれは逃げるようにそっと妹から目を逸らした。


「冗談はさておき、技術系のPLにとって魔道具の作成は、私やラナちゃんにとっての秘術と同じ。熱中できるからこそ上手になったんじゃないの?」


 妹は一応フォローするかのように、そうあっけらかんと続けて見せた。

 おれはただ「そうか」とだけ返して町の様子に目をやっていた。

 ……妙に身体を重くする罪悪感が。

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